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INTERVIEW

吉田羊さんインタビュー「死は救いでもある」▷舞台『ハムレットQ1』

シェイクスピアの4大悲劇のひとつで、父王を殺された王子の復讐を描く『ハムレット』。その3種類の原本Q1、Q2、F1のうち、最初に発行されたQ1版。現在最も上演されているF1版の長さが約半分で、物語が凝縮されたQ1版の舞台『ハムレットQ1』が5月11日から開幕します。

シェイクスピア戯曲を知り尽くした松岡和子さんの新訳を、2021年上演のシェイクスピアの悲劇『ジュリアス・シーザー』で高い評価を得た演出の森新太郎さんと主演の吉田羊さんが再びタッグを組んで、復讐を超えた〝救い〟の物語として描き出します。『ジュリアス・シーザー』のブルータスに続いて、男性キャラクターである主人公のハムレットを演じる吉田羊さんに、作品への意気込みなどを聞きました。

――2021年の『ジュリアス・シーザー』に続いて、再び森 新太郎さんの演出でシェイクスピア悲劇を主演します。

森さんなら絶対にこの『ハムレットQ1』を今までにないものに作り上げてくださるという、何か確信めいたものがあります。やはり『ジュリアス・シーザー』を一緒にやり遂げたからでしょう。今回、改めてハムレットの戯曲に向き合ってみると、本当に膨大なセリフ量で何度も心が折れそうになりましたし、映像の台本と違ってト書きや説明がほとんどなく、唐突にシーンが始まってしまうことに、(そうだそうだ、シェイクスピアはこれだったな)と思い出しました。さらに初日から稽古場には、森さんのパッションの激しさや厳しさが満ちていて、それも(そうそう、これだった)と思いました。とはいえ、それは本当にわくわくする瞬間でもあります。今回はQ1版というよく知られている通常版よりギュッと凝縮された戯曲を使っているので、作品自体に疾走感がありますし、女性である私がハムレットなので、これまでとは違う雰囲気のハムレットになると思います。

――『ジュリアス・シーザー』ではオールフィメール(男性のキャラクターも全て女性が演じる)でしたが、今作では男性俳優に混じって、男性キャラクターである主人公のハムレットを演じます。ご自身が男性役を演じるにあたって気を付けていることはありますか。

これは前回のシーザーで気づいたことですが、女性が意図的に男性を演じようとすると不思議なことに、むしろ逆に女性らしく見えてくる現象が起きます。とても面白い経験でした。シーザーでは、声を低くするくらいで、あえて男性を意識した役作りはしませんでしたが、全員が女性で、衣装も中性的だったことで、キャラクターが無性化し、普遍的な人間物語が浮かび上がってきたのも新しい発見でした。当時、演じていて面白いなと思ったのは、取り立てて『男性』を演じようとはしていなくても、心持ちが男性であると、自然と体が外に開いてくることでした。座るときも膝がぱっと開いてしまったり、胸も張りたくなってしまったり…。これは個人的な考えですが、古代から家族を守って敵と戦って生きてきた男性の役割として、どこか自分を大きく見せようとする本能的な部分が反映されるのかなと想像しています。

今回の『ハムレット』で言えば、男性がいるなかで女性の私がハムレットを演じることで、もしかしたらすごく頼りない主人公に見えるかもしれません。体つきが明らかに周囲と一回り違ううえに、声も違いますから。でも、それこそが今回の面白みでもあり、明らかに心もとない私という存在が、正気と狂気を行ったり来たりするハムレットと重なる手助けになるのではないでしょうか。なったらいいな…。ちなみに今回私のほかに女性2人も男性役を演じていますが、稽古場で全く違和感がありません。昔から要職に就くのは男性の役割とされてきましたが、必ずしも〝男〟でなければいけないわけではないのだなと、彼女たちの芝居を見ています。

――女性ならではのハムレット、どのようなハムレット像を描いていらっしゃいますか。

ハムレットはイケメンキャラクターの筆頭だと思います。美しくて抒情的なセリフ回しにあふれている。でも、実際によく読んでみると、自分の感情と折り合いがついていない、すごく人間らしい不格好な人でした。臆病ですし、復讐を心に誓いながらなかなか実行に移せない優柔不断さもあり…。父が殺され、母にも…まあ、裏切られ、恋人にも振られ、友達にも裏切られる、そういう不当な目に遭う主人公で、自分が壊れそうになるギリギリのところで足掻いていくハムレットの無様さみたいなのも、格好つけずに演じたいと思います。

――吉田羊ならではのハムレット、どのようなハムレットになるのでしょうか。

森さんが私の芝居を観て、『男性俳優だったらそういう芝居にはならないし、俺がハムレットでもそうはならない、新鮮だ』と仰ったのは、父王との関係性です。私はファザコンを自認しているのですが、私の演じるハムレットの父王に対する感情が、娘のそれなんですよね。娘と父、息子と父では、おそらく愛情表現というものに違いがあり、もしかしたらそれが他の方が演じるハムレットとの最も大きな違いになるかもしれません。(父王を裏切り、叔父と結婚した)母に対するセクショナルな嫉妬みたいなものが、私は皆無なのです。母への感情は、叔父に取られたという嫉妬よりも、父を傷つけたことに対する怒りであって、あくまで軸が父になっているなというように感じます。自分では全く自覚が無かったのですが、私がそう芝居をしているのであれば、それを受けた相手役の芝居も変わってきますし、それに合わせた演出も変わってきますので、とくにその部分は、あまり他にない表現になると思います。

――演じるうえでの難しさはありますか

独白のところが、つい感傷に浸りがちになり、内へ内へと入っていってしまいます。最初に本読みの稽古が1週間ありましたが、最初に私が作ったハムレットは内に入っているキャラクターでした。そうしたら、森さんが『全然違う』と。『ハムレットは父の復讐を果たすために、狂人のふりをしているけれど、それがふりだということを、唯一お客さんには話すんだよ。だからもっとお客さんを巻き込みなさい』と言われまして、今はどんどん外に外に、感情も体も開放している最中です。

森さんからは『かっこよすぎてダメ』とよく言われます。あとは、純粋にセリフ量が膨大なので、口が回らなくなるんじゃないかという不安もあります。ただ、そのセリフを回るように、流れないように、粒立ててしゃべるようにしていると、また森さんからダメ出しをいただきます。『立てすぎるな』、『粒立ててしゃべると、セリフになってしまう。セリフの意味を理解したうえで、何事もないように喋るのが(シェイクスピア全作品を上演した名優の)平幹二朗さんなんだよ。平さん目指してください』と。なので、いま、立てていたものをそぎ落とす作業をしています。

――ご自身に近い登場人物、共感できる登場人物はいらっしゃいますか

やっぱりハムレットですね。感情を受け止めきれなくて、狂気に走ることで心を守るような経験が、私もあったので、ハムレットの境地にはすごく共感します。(その時は)ハムレットと同じように、完全に狂気ではなく、どこかでそれを俯瞰してる自分がいました。私の場合は戻ってきましたが、ハムレットはいってしまった。でも、死は救いでもあります。彼の最後の瞬間について、私は救いだったと思います。父を殺したとはいえ身内である叔父や母、自分を裏切ったとはいえ友人や恋人を恨んで生きるのは、すごくきついから。

――死をポジティブにとらえていらっしゃるのですね

死は決してネガティブなだけではなく、人によっては救いにもなります。ハムレットという作品には死の気配が漂っています。そのなかで、いつ死んでもいいように、覚悟を持って今日生きろ、と言われているような気持ちになるセリフがあるのですが、私はそれが好きです。まだまだ将来に希望を持って自分の可能性を固く信じられる世代であればもっと違うのかもしれませんが、私は年を重ねてきて、自分がいつか死ぬということを意識することが増えてきました。最後はどのように死ぬのかなとか…。死というものについて身近に捉えているところがあるからこそ、この作品、死がテーマになっているハムレットが、私のところにやってきたのかもしれません。この世の中、おそらく生きている方がつらい。でも、死ぬのは勇気があればいつでもできる。だったら今じゃなくてもいい、ということです。いつ死ぬか分からないからこそ、自分から死を選ぶことは先延ばしにして、とりあえず今日という日を、あなたの好きなように生きてみてほしい、ということを作品通して感じ取っていただけたら良いなと思います。

――舞台を観に来ようとされている方に一言お願いいたします。

上演は、本当にあっという間だと思います。おそらく2時間半ぐらい。もしかしたら、聞き逃しや見落としがあるかもしれませんので、ぜひ何度も観に来ていただいて、発見する楽しさを味わっていただきたいです。今回、松岡さんがこの作品のために書き下ろして翻訳し直してくださっていますので、シナリオを読み比べていただくのも楽しいと思います。深く深く楽しんでいただけたら、とてもうれしいです。

取材・文/三宅 玲(産経新聞社)
撮影/齋藤佳憲(産経新聞社)
ヘアメイク/吉川陽子
スタイリスト/井坂恵(dynamic)
衣裳協力/ジャケット、ビスチェ、パンツ(全てエズミ/リ デザイン 03-6447-1264)、カットソー(プント ドーロ/ブランドニュース 03-3797-3637)、ピアス、イヤカフ、リング(全てヒロタカ 表参道 03-3478-1830)、バングル(アデルビジュー ショールーム 03-6434-0486)、サンダル/スタイリスト私物


吉田 羊(Yoshida Yoh)

福岡県出身。1997年より舞台を中心に活動をスタート。12年には連続テレビ小説「純と愛」に出演し、さらに14年にフジテレビ「HERO」第2期で女性検事役に抜てきされて一躍脚光を浴び、以来様々な話題作への出演が続いている。近年の主な出演作は、【舞台】『ツダマンの世界』『ザ・ウェルキン』(22)、『ジュリアス・シーザー』(21)、【映画】『クレイジークルーズ』『Winny』『イチケイのカラス』(23)、【ドラマ】『不適切にもほどがある!』(24・TBS)、大河ドラマ『光る君へ』(24・NHK)、『侵入者たちの晩餐』(24・NTV)、『最高の教師 1年後私は生徒に■された』(23・NTV)、『にんげんこわい2』(23・WOWOW)、『ラストマン-全盲の捜査官-』(23・TBS)、など。2024年5月17日より映画『ハピネス』が公開。

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Stage Information

PARCO PRODUCE 2024『ハムレットQ1』

作:ウィリアム・シェイクスピア
訳:松岡和子
演出:森 新太郎

出演:吉田 羊 飯豊まりえ 牧島 輝 大鶴佐助 広岡由里子 吉田栄作 ほか

【東京公演】
2024年5月11日(土)~6月2日(日)
PARCO劇場

【大阪公演】
2024年6月8日(土) 13:00/18:30 6月9日(日) 13:00
森ノ宮ピロティホール

【愛知公演】
2024年6月15日(土) 13:00 6月16日(日)13:00
東海市芸術劇場 大ホール

【福岡公演】
2024年6月22日(土) 13:00/18:30 6月23日(日)12:00
久留米シティプラザ ザ・グランドホール

公演公式サイトはこちら

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