7月公演からの新キャストが発表されますます注目を集める、TBS赤坂ACTシアターでロングラン公演中の舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』。小説の最終巻から19年後、父親になった37歳のハリー・ポッターとその息子・アルバスの絆を描くシリーズ最新作の物語です。
2016年にロンドンで初演、アメリカ・ブロードウェイとサンフランシスコ、オーストラリア・メルボルンなどを経て、日本ではアジア圏初公演として2022年から同劇場で上演。これまで110万人を超える動員をしてきました。丁寧な人間描写と、目の前で魔法を体現するイマジネーションあふれる演出は各国で名高い演劇賞を総なめにしてきましたが、日本でも第30回読売演劇大賞の選考委員特別賞、第48回菊田一夫演劇大賞を受賞するなど高い評価を受けてきました。
藤原竜也さん、石丸幹二さん、向井理さん、藤木直人さん、大貫勇輔さんといった名優が歴代ハリーを演じてきましたが、今回は、2024年にハリー役に就任し、息子との向き合い方に悩む姿を等身大で演じてきた平方元基さんへインタビュー! 6月26日に卒業を迎える本作について伺いました。

写真提供:TBS/ホリプロ、撮影:渡部孝弘
――新ハリー役に就任してから約1年となります。振り返っていかがでしょうか。
あっという間…ではなかったですね(笑)。ロングラン公演というのは魔物のようなもの。毎日ヒリヒリしながら、やっとここまで来られたように思います。物語も濃厚ですし、魔法の演出が5分に1回くらいある。なんと、1公演にキューが2000個くらいあるんですよ(笑)! それを1日2公演やっていた時期もありますし…。自分の中ではやりきったという思い。達成感で、おなかいっぱいです(笑)。
――これまで、『エリザベート』『サンセット大通り』など、グランド・ミュージカルを中心に活動されてきました。本作はストレート・プレイ、さらに先ほどおっしゃったようにとても複雑な演出です。本作ならではの難しさ、面白さはありましたでしょうか。
気持ちを歌で表現するのか、セリフで表現するのか、という違いが大きいですね。翻訳の作品でもあるので、日本語の性質上、英語と比べてセリフの量自体も多くなりますし、やや難しい言い回しも出てくる。それでも聞き取りやすく、丁寧に気持ちをのせることを心がけてきました。魔法の演出も、まるでハリーたちが魔法学校で何十時間、何百時間もかけて習得してきたように、稽古場でカリキュラムをみっちりと勉強してきました。

――孤児として育ち父親を知らないハリーが、反発してくる息子とどう向き合うのか。その葛藤や愛情が、とてもリアルに伝わってきました。
ハリーはとても心をこじらせていて、魔法庁の長官という立派な仕事をしていて周囲にも英雄と思われているけれど、実は孤独。そんなハリーの心のひずみは、すべてひもとくことができるほど簡単ではない。でも、それこそが人間らしいじゃないですか。簡単にほどけないハリーの混乱や葛藤をありのままに表現したいと思ってきました。僕は芝居がかった表現が好きではなくて。ゼロから生み出すことはなるべくせずに、自分の中にある経験や感情とひもづけて表現を出力するようにしています。
ハリーはほぼ出ずっぱりの役で、舞台で演じていても、ふと、孤独を感じたり、自分が間違った方向にみんなを引っ張って行ってしまっているのかも…とエアポケットに陥るような感覚になることがあるんです。僕の場合はカンパニーのみなさんがそういった時は助けてくれるのですが、『ああ、ハリーもこんな気持ちになるのかな』と思ったり…。

――非常に複雑で、心身ともにタフな役柄ですよね。1年間走り続けてこられた秘訣を教えてください。
やはりカンパニーのみなさんの存在ですね。もちろんこれだけ長い時間一緒にやってきているわけですから、いい日も悪い日もある。そんな中でも、絶対に諦めないキャストやスタッフが必ずいる。そんな誰かのことを互いに信じながら、みんなで走ってきました。あとは、自分の気持ちのコントロールですね。通常の公演は数か月で、もう演技のことしかその間は考えられない。でも、それでは持たないよ、とハリー役の先輩や、海外公演のキャストから教えていただいて。公演がないときは外食をしたり、行ける範囲で旅行にいったりとあえてわがままに過ごし、オン・オフを大事にしてきました。

――カンパニーの思い出はありますか。
(魔法学校のマクゴナガル校長役の)榊原郁恵さん、高橋ひとみさんが、ゴールがみえてきたところで、つい先日キャストを招いて盛大な会を開いてくださって。おふたりは舞台の上での存在感はもちろん、カンパニーそのものにとっても大きな方々です。演出も海外の方ですが、『こういうアプローチもあるんだ』ととても勉強になりました。すごく肯定的な言葉をかけてくれて、キャストのモチベーションをうまく保ってくれます。世界各国で上演されている作品ではありますが、『ハリーという役柄の枠にとらわれず、自分の色を出せばいいんだ』と言って、安心させてくれたり…。
あと、アルバス役やスコービウス役の子供たちが可愛くて(笑)。僕を信頼して悩みを話してくれたり、逆に僕が少し落ち込んでいるときは、すっと察してLINEをくれたり…。僕には子供はいませんが、本当に父親になったような気持ちです(笑)。そして、やはり(同時にハリー役に就任した)吉沢悠さん!悩みや、弱い部分もさらけ出すことができた。まさに戦友、盟友です。彼がいなければここまで来られなかった。
――平方さんにとって、この作品はどのような存在ですか。また、この経験を糧に挑戦してみたいことなどはありますか。
一生忘れられない…大切に抱えていく作品です。1年間という長い時間を駆け抜けるなんて、もう一生ない経験だと思います。やってみたいことは…俳優にこだわらずにいたいですね。1年間、それぞれの人生を背負った、本当にたくさんのお客様と時間を共有できたことが、自分の中でとても不思議で貴重な経験でした。そのような時間を過ごす中で、自分は俳優の世界以外知らないけれど、俳優の仕事にこだわらずに、これからの時間を生きていきたいなと。
僕はちょっと落ち込んだ時期があって。自分が本当にお芝居を好きなのかどうか、もう一度問いかけたいという気持ちもあって、ハリー役のオーディションに参加したんです。1年間やってみて思ったことは、やっぱり僕はお芝居が好き。でも、役者という仕事は好きなだけではダメだし、好きという気持ちが義務になってはいけない。そういった意味でも、この作品を演じたからこそ、より好きという気持ちに対して自由になれたのかなと思います。
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――最後に、この作品をまだご覧になっていない方に向けて、メッセージをお願いいたします。
あと1か月しかないのにこういうことを言うのもなんですけれど…(笑)。もう本当に、1回では見切れない作品です! 先ほども言いましたけど、魔法の演出を見るだけでもおなかいっぱいになるレベルなのに、物語自体もしっかりと濃厚で中身が詰まっている。キャストの組み合わせによっても違ってきますし。1人が変わるだけで、作品全体が違ってくる。1人1人が、背負ってきたものをすべてぶつけて、人生を賭けて演じていますので、ぜひ見届けてほしいです。
取材・文/塩塚 夢(産経新聞社)
撮影/齋藤佳憲(産経新聞社)
平方元基(HIRAKATA GENKI)
1985年生まれ。福岡県出身。2008年ドラマデビュー。2011年に『ロミオ&ジュリエット』(ティボルト役)でミュージカルデビュー。その後『エリザベート』、『レディ・ベス』、『サンセット大通り』、『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』、『メリリー・ウィー・ロール・アロング』、『マドモアゼル・モーツァルト』等に出演。2024年7月から舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』でハリー・ポッター役を務め注目を集めた。2025年9月~12月、ミュージカル『SPY×FAMILY』でロイド・フォージャー役(ダブルキャスト)で出演が決定している。
Stage Information
『ハリー・ポッターと呪いの子』

オリジナルストーリー:J.K.ローリング
脚本・オリジナルストーリー:ジャック・ソーン
演出・オリジナルストーリー:ジョン・ティファニー
振付・ステージング:スティーヴン・ホゲット
演出補:コナー・ウィルソン
主催:TBS/ホリプロ/ATG Entertainment
会場:TBS赤坂ACTシアター
ハリー・ポッター役/6月末まで:平方元基/吉沢 悠、7月~10月:稲垣吾郎/平岡祐太/大貫勇輔 ※その他、配役は公式サイトをご参照ください。
Story
ハリー、ロン、ハーマイオニーが魔法界を救ってから19年後、かつての暗闇の世を思わせる不穏な事件があいつぎ、人々を不安にさせていた。
魔法省で働くハリー・ポッターはいまや三人の子の父親。
今年ホグワーツ魔法魔術学校に入学する次男のアルバスは、英雄の家に生まれた自分の運命にあらがうように、父親に反抗的な態度を取る。
幼い頃に両親を亡くしたハリーは、父親としてうまくふるまえず、関係を修復できずにいた。
そんな中、アルバスは魔法学校の入学式に向かうホグワーツ特急の車内で、偶然一人の少年と出会う。
彼は、父ハリーと犬猿の仲であるドラコ・マルフォイの息子、スコーピウスだった!
二人の出会いが引き金となり、暗闇による支配が、加速していく・・・。
※公式HPより引用