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INTERVIEW

早霧せいなさん《前編》「エンタメは絶対なくならない」

1937年、内戦のさなかに大規模爆撃による壊滅的な被害を受けたスペイン・バスク州の都市、ゲルニカ。画家、ピカソの筆をつき動かした悲劇に着想を得た舞台『ゲルニカ』が9〜10月、東京・PARCO劇場などで上演される。演出家、栗山民也さんが20年以上前にピカソの「ゲルニカ」と出会って以来あたためてきたという構想が、劇作家、長田育恵さんの脚本で実現。戦争の足音が迫るなか、ゲルニカに生きる人々の日常から、個人ではあらがえない大きな力を前にした人間の苦しみと強さ、未来への希望を描き出す意欲作だ。ゲルニカの人々を取材する女性特派員記者、レイチェルを演じる元宝塚歌劇団雪組トップスター、早霧(さぎり)せいなさんに意気込みなどを聞いた。

「伝えたい」という目的を生きる役

――今回の作品の印象と、ご自身の役について、教えてください

実際に起きたできごとをもとにしていますが、歴史劇ではなく、人間たちがなぜ争いにのみ込まれていくのかということを、ちょっと違う角度から丁寧に描いています。私たちと同じように生きている人たちの物語なので、時代や国が違っても今の日本に通じるものがいっぱいあると思います。上白石萌歌ちゃん演じる少女、サラが旧体制に純粋な心で立ち向かっていく姿など、いろいろな対立も描かれていて、登場人物ひとりひとりの輪郭がはっきりと見えるんです。生々しい戦争のシーンはないのですが、照明やセットがとても美しく、こんなきれいなところがなぜ残酷なところに変わってしまったのか、美しさと戦争の残酷さが対比された舞台になるんじゃないかと思います。
私が演じるのは、スペインの内戦を取材しに来た外国特派員、レイチェル。問題を抱えながらも、女性として何を伝えられるか、強い正義感と使命感をもって戦地に足を運んでいる論理的な女性です。勝地涼さん演じる記者、クリフとは衝突しつつも、現地で目撃したことやそこから感じるもので変化していく役です。

――新聞記者役は初めてですか?

宝塚の男役時代に『ローマの休日』をやりまして、新聞記者のジョー・ブラッドレーを演じました。雰囲気が知りたくて、新聞社を見学したりもしたんですよ。記者の役は経験していますが、今回は作品もテーマも全然違いますし、何より女性です。
紛争地域にジャーナリストとして向かうって、相当な勇気と覚悟を持った人じゃないと無理ですよね。頭が下がると同時に、自分が生きていくことより、人に伝えたいという目的を生きているんじゃないかなと思っていて、そういう感覚と向き合いながら稽古をしています。

前編002★2_AAA0880.jpg

――早霧さんは被爆地の長崎出身ですが、そうしたことも生きているのでしょうか

今年の広島、長崎の原爆の日、終戦の日はお稽古期間中でしたが、子供のころは長崎の原爆の日は登校日になっていて、原爆に関する勉強会が毎年、開かれていました。どこでもそうかと思っていましたが、全国的には行われていないんですね。大人になってから知りました。確かに私は長崎出身ではあるのですが、実際に原爆を経験したわけではなく、軽はずみに語れないという思いがずっとあったんです。ただ、体験談を見聞きする機会が多かった被爆地出身者として、義務とまではいかないかもしれませんが、戦争が遠い存在ではないということを作品を通して知ってほしいと思います。人と人との醜い争いはいつの時代も起きますし、戦争や内戦は今も起きています。でも、相手を理解し、尊敬、尊重しあえば殺傷するところまではいかないんじゃないかと思うので、皆さんにもそうしたメッセージを受け取ってもらえればと思います。

――ミュージカルで活躍される宝塚の卒業生も多いですが、「ゲルニカ」はストレートプレイです

今はとてもお芝居をやりたいんですよ。もちろん、ミュージカルとか歌や踊りをやらないと決めているわけではないんですけれども、興味があり、勉強したいと思うもの、一緒に作っていきたいと思うものがお芝居なので、その気持ちに従うというか、直感を信じて、今はお芝居を軸にやってみたいと考えています。

――そうした気持ちのときに、長田育恵作品、栗山民也演出に出演されるのは、良いタイミングですね

もう、涙、涙ですよ! お稽古場で、「うおーー! すごいことを体験させてもらっている!」「ありがたや!」と日々感じています。この充実感や刺激を、レイチェルとして全部ぶつけてやる!という気持ちです。今までやってきたものとは違う表現を求められ、課題がいっぱいで、超楽しいんです。自分でもドMだなって思うんですけど。
栗山さんとは初めてご一緒させていただくのですが、見せかけのものはいらない、ただ感じていればいいという一番根っこになることをおっしゃいます。役者的には、そこを追及したくて、つい衣をつけて膨らませてしまうんですが、栗山さんの演出はそれが余分だと気づかせてくださる。今回の作品が特にそうなのかもしれませんが。一筋縄ではいかない、宝塚の男役という世界に飛び込んだときの感覚と似ていて、超絶楽しいです。
しっかりと向き合ってくださる演出家始めスタッフ、それを体現させてもらえる長田さんの本に出合えて、ご一緒しているキャストの皆さんもそれぞれ持ち味があり、私が憧れる役者像を持ち合わせた唯一無二の存在の人たちばかりです。同じ空間にいられるだけでも得られるものがたくさんあります。ただ、気合や力みを封印しようと今がんばっているので、いい感じに消化しないと(笑)。

――京都、新潟、豊橋、北九州と地方公演もあります

宝塚退団後、地方で公演するのは初めてなんです。大阪はあったんですけど。違う土地や劇場でやると空気感も違って、また違うものが生まれたりするんだろうなと思ってとても楽しみです。

>後編はコチラから

取材/文 道丸摩耶(産経新聞)
撮影/吉原朱美


早霧せいな(Seina Sagiri)
2001年宝塚歌劇団に入団。14年9月雪組トップスターに就任。在籍時には宝塚歌劇団史上初となる、主演大劇場公演5作すべて観客動員100%超という大記録を作る。17年に退団後は、ドラマ「科捜研の女」(EX)や舞台「まほろば」(19)、「脳内ポイズンベリー」(20)など映像から舞台まで幅広く活躍中。

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Stage Information

PARCO 劇場オープニング・シリーズ『ゲルニカ』

作:長田育恵
演出:栗山民也
出演:上白石萌歌 中山優馬 勝地 涼 早霧せいな 玉置玲央 松島庄汰
林田一高 後藤剛範 谷川昭一朗 石村みか 谷田 歩 キムラ緑子

【東京】9月4日(金)〜27日(日)PARCO 劇場
【京都】10月9 日(金)〜11日(日)京都劇場
【新潟】10月17日(土)〜18日(日)りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場
【豊橋公演】10月23日(金)〜25日(日)穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
【北九州公演】10月31日(土)〜11月1日(日)北九州芸術劇場 大ホール

公式サイト

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