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INTERVIEW

柚希礼音さん《前編》「限界を越えた、その先に生まれるエネルギーを信じて」

英国北部の炭鉱町を舞台に、バレエダンサーを目指す一人の少年とその周囲の人々の葛藤、成長、希望を描いたミュージカル『ビリー・エリオット』。エルトン・ジョンの楽曲で綴られる傑作舞台は、2017年に日本初演が実現して大絶賛を博しました。そしてこの9月、待望の再演が開幕します。今回は初演に引き続き、型破りなバレエ教師・ウィルキンソン先生を演じる柚希礼音さんが「マチ★ソワWeb」に登場! 再演舞台にかける思い、またこのコロナ禍での自粛期間に感じたこと、元宝塚歌劇トップスターたちによる『青い星の上で』について、さらに宝塚歌劇再始動から後輩に向けたエールなど、ご自身の飾らぬ思いをたくさんお話ししてくださいました。

大人を成長させてくれる物語

――ミュージカル『ビリー・エリオット』再演がいよいよ9月に開幕します。

そうですね。これまでいろんなミュージカルを経験して来たけれど、この作品を初めて観た時、これはすごい!と驚いたんです。どの場面もなくてはならない、それくらい完璧に作られていると感じたので。初演に続いてもう一度関わらせていただけるのが本当に楽しみです。

――初演を経験しているので、レッスンも順調に進んでいらっしゃるのでは…?

それが…、再演だから覚えているだろうなと思っていたんですが、結構覚えていなくて(笑)。でも振りを教わると、ああこうだった!って思い出すんです。ただ、思い出したことをもう一度やるというよりも、またイチから、なぜこうするのか?といった初めて生み出した時の感触がなければいけないなと。再演は何度も経験して来ていますけど、再演の時ほどハードルは高いんですよね。初演の何倍もいいものをお客様に届けないと、再び「よかった」とはされないと思うので。また初演からのこの3年間、自分もいろんなことを学んできたので、初演とは違ったところもありながら、絶対に変えてはいけないところも大切にしながらやっていきたいです。

――現在レッスンをしていて、新たに気づくことも?

はい、いっぱい気づいたことがあって。初演の時は皆、必死だったので気づきもしなかったこと…、台詞と動きが合っているかどうか、といった細かなことが出てきましたね。『ビリー・エリオット』って、皆がそれぞれ個別にレッスンや稽古をして、後になって合わせていくスタイルなので、細かなところまで意識がいってなかったことが多くて。「こんなことを疑問に思うなんて今更なんですけど、一応投げかけさせてください」って言って稽古しています(笑)。

――その細かな気づきが再演の面白味でもありますね。ウィルキンソン先生をどのように表現しようと考えていますか?

ウィルキンソン先生って、バレエの第一線で活躍できると思っていたのに子供ができたことでその道をあきらめてしまい、週に一回、子供たちにバレエを教える生活をしているんですね。もう人生、夢もなければ希望もない(笑)みたいに過ごしていたけれど、ビリーを見つけたことで、この子をこの炭鉱の町に埋もれさせてはいけない!という愛情が生まれます。

でも彼女は、人に愛情を表すことができない人で。おそらく過去に何かがあって、裏切られたくないという思いがあるから愛情を示せないのでしょう。そこがウィルキンソン先生の重要なポイントだから大切にするように、と初演時に言われていました。だから自分が観て感動したのかなと思いましたね。ウィルキンソン先生が初めから愛情深く、一生懸命ビリーを育てていたら、あそこまで感動しないんじゃないかと。ビリーによってウィルキンソン先生も、かなり成長させてもらっているんですね。バレエ教師としても、人間としても。「こういう時に子供を抱きしめていいんだよ」ということを教わったり。たぶん自分の娘を抱きしめることもしていなかったから、そうした愛情の示し方がわからなくなっていた。

この作品で一番大切にしたいのは、大人を成長させてくれるところです。自分の人生にどんなことが起こったらウィルキンソン先生のようになっていたのか…を想像して、より血の通った、より自分自身を投影したウィルキンソン先生になれればと思っています。

前編2_AA0273.jpg

もうひと押しのエネルギーが呼ぶ感動

――今回も厳しいオーディションを通って4人のビリーが誕生しました。大きな挑戦に向かう子供たちからどんな刺激を受けていますか?

初演の時からビリー役やほかの子供たちには、子役というよりも役者として尊敬するところをそれぞれに感じていました。今回の再演メンバーとはまだ何回かしかレッスンしていませんが、これからさらにそういう思いが増えていくんだろうなと思います。一人一人が本当に自分の役に真剣に向き合っていると感じられるので、自分もウィルキンソン先生として彼らと接し、いい作品を作っていきたいと思っています。

――バレエ・ガールズとのコミカルなレッスンシーンなど、思い出すと頬が緩みます(笑)。

本当に(笑)。信じられないことが毎週起こっている、そんなバレエレッスンですよね。先生はタバコを吸いながら入ってくるし、コートを着たままレッスンしちゃってる子もいれば、何度言ってもバレエシューズを履かない子も…(笑)。先生自身、この中からすごく上手な子が出てくるなんて思ってないから、一生懸命教えることもしない。「せめてチャレンジしなさい」なんて言っているのが面白いですよね。で、発表会の練習をしているのに、先生がセンターになって作っているのも面白いし(笑)。

――最初におっしゃったようにどの場面も見どころですね。その中でも、柚希さんの心をとらえたシーンは?

『Solidarity』というシーンですね。炭鉱夫と警察の衝突と、バレエ教室の子供たちが交錯する12分間のシーンで、初めて観た時から「この場面、すごい!」と。ここはぜひ注目していただきたいと思います。それから、舞台袖から観ていて毎回ぞくぞくするのは、二幕でビリーがオーディションを受けに行き、帰り際に「踊っている時はどんな気持ち?」と聞かれるシーン。その後の『Electricity』というナンバーが! もうホントにありえないくらい踊って、ぐるぐる回った後にもうひと歌いさせるという! 誰が考えたの!?ってくらい。(一同笑)

でも、自分も宝塚時代、限界の限界の限界を迎えた時に出て来るエネルギーってありましたからね。もうここで終わってハケるべき!ってくらいゼーハーしているのに、そこからもうひと場面歌って、デュエットダンスが続く時の、あの、もう根性がなければやれないシーンとか(笑)。そう、もうひと押しのエネルギーで出て来るもの、そこにきっとお客様を感動させる何かがあるんでしょうね。その『Electricity』もぜひ観てほしいです。

――本来なら7月に始まっていた舞台ですが、コロナ禍によって開幕が延期となりました。この自粛の期間はどんなことを思い、過ごされていましたか?

自分としては、しっかりレッスンしたいと思っていたこともあったので、「今は足りないところを練習する期間だ」と思って、むしろありがたく過ごしました。リモートで歌稽古をしたり、バレエのレッスンをしたり。とにかくいっぱい稽古できたことがよかったですね。こんな機会でもなければ、一日中家にいることはなかったですから。「休みなので一日中家にいたいと思います」って言っても、性格的にじっとしていられない人なので(笑)。たとえば一日休みがあったら、家にいたらもったいない気がして、午後からトレーニングに行ったり、歯医者さんに行ったり、美容院に行ったり、いろいろ予定を詰め込んでいて。でもさすがにこの自粛期間はおとなしく…とはいえ、家の中でも大忙しで動いていましたけど。部屋の模様替えをしてみたり、キッチン周りを充実させたり、断捨離したり、いろいろやっていました。

――気持ちを落とすこともなく、前向きに、何かやれることを見つけて動いていらしたんですね。

そうですね。でも今回、健康があってのエンターテインメントだな、ということはつくづく感じました。まずは健康でいることが大事で、その上で、エンターテインメントがあるとさらに心が豊かになるんだと。あの時期にエンターテインメントがストップしたのは、振り返って考えてみてよかったと思っています。

>後編はコチラから

取材・文/上野紀子(演劇ライター)
撮影/吉原朱美


柚希礼音(Reon Yuzuki)

2015年宝塚歌劇団退団以降、数々の舞台で主演を務める。退団後の主なミュージカル出演は、『マタ・ハリ』『FACTORY GIRLS私が描く物語』『ボディガード』など。今年5月、柚希礼音の呼びかけで元宝塚トップスター19人が集結したYouTube動画配信が大きな注目を集める。2021年1月日比谷・シアタークリエ他にて上演予定のミュージカル「IF/THEN」に主演。

Stage Information

ビリーエリオット公演写真_正方形ロゴ(ジャンプボーイ&日本語あり).jpg

Daiwa House presents
ミュージカル『ビリー・エリオット〜リトル・ダンサー〜』

【東京】9月11日(金)〜10月17日(土)TBS赤坂ACTシアター
【大阪】10月30日(金)〜11月14日(土)梅田芸術劇場メインホール

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