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INTERVIEW

中井貴一「“欲”を追い求めれば終わらない」×キムラ緑子「希望をなくせば人は終わる」

内館牧子さんのベストセラー小説『終わった人』原作のリーディングドラマ(朗読劇)が、中井貴一さんとキムラ緑子出演で今年8月から東京ほか全国7か所で上演されます。定年を迎えた元エリート銀行員と彼をめぐる女たちの悲喜こもごもを描いた本作。中井さんとキムラさんに意気込みを聞きました。

――まず、お2人にとって「終わった人」とはどういう人でしょうか?

中井 定年という一つ区切りがあるのが社会や仕事でしょうが、それとは別に気持ちの問題ってあるじゃないですか。生きている間は、「欲」の追及があれば終わらない、終わった人ではないと思います。それがないと、「オレ、何してるんだろうなあ」っていう風の終わった人になるんじゃないですか。

キムラ 私って、目標を持ってがっつりやりながら(結果的に)挫折した―みたいな経験がないから、(一言でいうのは)なかなか難しいです。台本の字が読めなくなったとか、腰が痛いとか、そんな時に、「終わってるなあ」と思うことがありますけども……希望をなくしてしまった人でしょうか。

――主人公の田代壮介は東大法学部を出てトップ銀行に入り、順調に出世しながら50歳を前に子会社に出向、定年を迎えます。その後、壮介が新たな仕事や恋愛にジタバタする様が描かれます。実際に壮介のような人物がいたらどういう態度で接すると思いますか?

キムラ 壮介の妻の千草の行動言動に近いことをワタシもするかな、と思いました。その人自身が悩みながら出口を見つけてもらうしかない。じっと見守るだけですね。

中井 男同士の立場から言うと、ジタバタした方がいいと思いますよ。生きるっていうこと自体が、ジタバタするもんでしょう。定年を区切りに、そこからのセカンドライフを…なんて言いますが、そんなに明確な区切りはないんじゃないか。人間って死ぬまでジタバタした方がいいんじゃないかな。そう言いますね。

――妻の千草は夫の壮介に、桜の花になぞらえるように「あなたらしく散るのは今…」などと言います。しかし、壮介は「俺は終わった」とつぶやき、今は散り際、と自覚しながらも、「もっと仕事がしたい」と…。

中井 桜の花って日本の基準みたいじゃないですか。桜が散って新緑の季節を迎え、人間も行動的になっていく。緑の色に気持ちが吸い取られるみたいな時季に、気が木にとられるみたいなところがあって、桜がひとつの心の時計みたいになっていますね。新入学も散る桜の時期じゃなくもみじの秋にする…とかね。

キムラ 桜の花の散り際には美学を感じますよね。最後までかっこよくいてほしいという思いでしょうか。

中井 (定年を迎える)60という年齢を迎えなくても、年齢が上がっていく過程の中で、大なり小なり分かっていくんじゃないですか。「お前も年とればわかるぞ。40になれば、50になれば、定年になれば」って年長者が言うことは、ずっと人間が思い続けることなんじゃないかなって思います。壮介の気持ちもとても分かります。

キムラ バリバリ仕事をやってきて定年となる人は、「散っていく」のに虚しさを感じるのかもしれませんね。ワタシは、知らぬ間に散ってると思います。

中井 キムラさんはきっと92歳くらいまで生きて、周りがいなくなって自分で独占できるんですよ、92の役を。92の輝く自分がいるんですよ。

キムラ ずいぶん長生きできたら「あれ、何だか最近急に仕事が増えたな」なんて思えるかもしれませんね。老婆の役は独り占め!(笑)。

――キムラさんは90歳を超えても現役を続けそうですが、中井さんはどうでしょうか?

中井 それは、常に揺れているというか…。自分の中でどこかで引退という線を引くのか、それとも何かの目標のためにやり続けるのか―。いつも漠然とではありますが、考えています。ただ、自分が醜態をさらす勇気があるのかどうか。自分が、NGを何度も出して後輩に迷惑をかけてもやり続けるタイプなのかどうか…。

キムラ 俳優の仕事は終わりがないので、難しいですよね。

中井 60になって思うんですが、僕らが小学生のころ。高度経済成長の後で、ほぼ毎日光化学スモッグが出ていて「校庭では遊ばないようにしてください」なんて放送が流れ、多摩川が汚れていたのが、だんだん川もきれいになっていくのを見てきたじゃないですか。そのころから、世の中が進化し、それに適応していくのを見ながら生きてきた。
この前、海外に行く際に、若い子に「このアプリをスマホに入れたらラクですよ」なんて言われたんですが、それを入れるのが楽じゃないんですよ。「ここまで便利にならなくても……」なんて思ったりもします。

キムラ そういうのって、若い世代に聞けますか?

中井 聞けるよ、聞けるんだけど、実際にやろうとすると、簡単じゃないって思う。会社のシステムの中で必死にもがいていて、「あ、先輩、それムリっすか」って言われちゃうのが、60年っていう世の中の定年という周期にもあるんじゃないかな。

――シニアが新しいものに追いつけないのは実際ありますよね。

中井 僕たちの仕事ある意味、超アナログじゃないですか。そんな中で必死にセリフおぼえてきたんですよ。

――新しい仕事に踏み出す壮介は、その後困難を抱えることになります。そのあたりはどう演じたいと思いますか?

中井 それは原作者の内館さんの考え、内館イズムみたいなものをそのまま表現したいですね。僕たちの感情を出していくより、内館さんが描く壮介を出していくのが役作りになると思います。

――キムラさんは、妻の千草のほか、何役かを演じ分けます。その点での面白さなどはありますか?

キムラ 登場人物の関係性を演じ手としてどう結ぶかです。千草と娘との親子関係をはじめ、他の登場人物にもそれぞれに、自分で理解できる面があります。そこを広げていき、中井さん演じる壮介と対峙していくしかないと思っています。

――複数を演じていくというのは、なんだか落語家さんみたいな感じでしょうか。

中井 今のところ、僕が主人公とナレーション担当の予定で、他をキムラさんが演じる感じです。監督(脚本・演出の笹部博司氏)がどういう指示を出されるか。現場で稽古をしながら変えていくのもあるでしょう。

キムラ とても楽しみにしています。

――壮介が恋愛願望を募らせる女性、久里(くり)もキムラさんが演じますよね。

キムラ 原作を読んだ人には、きっとそれぞれ久里さん像がありますよね。ですから、それを壊さないよう、怒られないようにしたいです(笑)。

――さんざん食事をおごらされるだけの壮介に対し、久里はしたたかな女に映ります。

キムラ バブルの時代に女子大生をやっていたので、チヤホヤされました。立派なおじさんに食事をご馳走になり楽しいお話をたくさん聞かせてもらいました。ちょっと、久里の感じがわからないでもないです(笑)。それでいて、おじさんの期待って打ち砕かれる―そんなリアリティーも面白いですね。(中井さんを見て)ああいうのって、分かります?

中井 女の子たちの態度をみて、男のほうも察することが大事。僕は察するほうだからね(笑)。

――その点では、今は男性にとっても厳しい時代になってしまったようで…。

中井 確かに今は、コンプライアンス(法令順守)が厳しくなりすぎているとは感じます。昔なら、100通手紙が来て半分に「あれは困る」と賛否半々なところから、「あれはやめるかどうか」の話し合いをし、判断をしていたと思うんです。今は1通の批判があっても(制作側が)反応してしまう。それはちょっといびつじゃなかな、と思います。

僕たち、ドラマ作りの立場でいうと、一番不必要なのは作り手の横柄、必要なのは見る側の寛容じゃないかな、と。それは文化であり、エンターテインメントを育てていくのに大切なことじゃないでしょうか。規律はもちろん必要ですが、行きすぎるのはどうかな、と思います。
僕が若い時、デビューのころはずーっと怒られていて、いつまで怒られるんだろうって…。28、29くらいまで思ってましたよ。でも、あの時に叱られたことが、役に立っていることなんです。今は、それを味わわせることも、味わうこともできなくなっている。教える側の「粋」、教わる側の「好奇心」が大事。それがなくなっている世の中と感じます。

本番前から息の合う掛け合いを見せてくれたおふたり。単なる「朗読」ではなく「リーディングドラマ」(読む行為で言葉を躍動させ、舞台に立体的なドラマを作り出す)と名付けた、これまでにはない舞台が楽しみです!

取材・文/谷内誠(産経新聞社)
撮影/毛利修一郎(産経新聞社)
ヘアメイク/藤井俊二(中井貴一)、笹浦洋子(キムラ緑子)
スタイリング/オフィス・ドゥーエ 松田綾子(キムラ緑子)
リング/ケイテン(ラ パール ドリエント ☎︎078-291-5088)


中井貴一(KIICHI NAKAI)

1961年9月18日、東京都生まれ。
父は昭和のスター俳優・佐田啓二。81年、東宝映画「連合艦隊」でデビュー。日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞する。TBS系の大ヒットドラマ「ふぞろいの林檎たち」シリーズ(83~97)で人気を博し、NHK大河ドラマ「武田信玄」(88)では主演を務めた。出演映画も多く、「四十七人の刺客」(94)では日本アカデミー賞最優秀助演男優賞、「壬生義士伝」(2003年)で同最優秀主演男優賞も受賞。


キムラ緑子(MIDORIKO KIMURA)

1961年10月15日、兵庫県淡路島生まれ。
劇団M.0.P.の旗揚げに参加し、劇団解散まで看板女優として活動。舞台、ドラマ、映画と幅広く活躍し、多彩な役柄を演じる。13年に出演したNHK連続テレビ小説「ごちそうさん」でヒロインをいじめる小姑役が注目され、お茶の間でもおなじみに。近年は、Eテレ「グレーテルのかまど」、ABC「大改造!!劇的ビフォーアフター」など、ナレーションの仕事も多い。

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リーディングドラマ『終わった人』

原作:内館牧子『終わった人』(講談社文庫)
台本・演出:笹部博司

出演:中井貴一、キムラ緑子

会場:草月ホール(東京都港区赤坂)
日程:2023年8月31日(木)~9月3日(日)
席種・料金:全席指定・7,500円
※未就学児童入場不可

企画・製作:メジャーリーグ
協力:産経新聞社

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