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COLUMN

【加藤和樹のテダム #1】オ・ルピナさん × 加藤和樹さん~日韓で刺激し合い壮大なエンタメを届けたい~<前編>

韓国に興味津々の加藤和樹さんによる韓国コラム・新シリーズがスタート! 加藤さんと韓国エンターテインメント界で活躍されている方の「テダム(対談)」を不定期でお届けしていきます。

テダム第1弾は、フレンチミュージカル『キングアーサー』日本公演(1月17日~、新国立劇場中劇場)の演出を手掛ける韓国気鋭の演出家、オ・ルピナさん。本作・韓国公演の演出を担当したルピナさんですが、日本でミュージカルの演出を手掛けるのは初めてとなります。『1789-バスティーユの恋人たち-』などで知られるフランスの作曲家、ドーヴ・アチア氏が手掛ける本作で、加藤さんは主人公・アーサー(浦井健治さん)の前に立ちはだかる最強の騎士、メレアガン役(伊礼彼方さんとWキャスト)を演じます。作品や稽古の話、日韓ミュージカル文化の意外な違いなどについて、ルピナさんと加藤さんがたっぷり語り合いました。

ミュージカル「キングアーサー」稽古場に飛び交う3か国語

――日本での演出は初めてですが、依頼を受けたときはどう思いましたか?また、お稽古の様子はいかがですか?

ルピナ(敬称略) 信じられませんでした。韓国で自分の作品を演出している最中でしたし、私は『こういうことをしたい』と将来の目標を立てるタイプではなく、その瞬間を一生懸命やることに必死なので。でも、韓国も日本もミュージカルが活性化されているためか、稽古場に大きな違いはなく、とてもいい時間を過ごしています。

加藤(敬称略) ルピナさんは『キングアーサー』を韓国で演出された経験もあり、我々をひとつずつ導いてくださいます。キャラクターを作っていくときも、役の心情についてたくさんヒントをくださるので、そこから自分たちでどう構築していくか考えています。そして、ルピナさんは日本語がとても上手! 稽古場に飛び交うルピナさんの日本語に癒やされています(笑)

ルピナ フランスの作品を韓国の演出家が日本の俳優とスタッフでやる、というのはとてもおもしろいです。なのに、内容はイギリスの話(笑)。

加藤 (笑)。多国籍!

ルピナ 稽古場では、韓国語、日本語、英語の3か国語が飛び交っています。でも、どの言語であっても、すべての人が共通して理解できるテーマを持っている作品だと思います。私は演出するとき、いつも自分がやろうとする方向を説明し、俳優の皆さんにそれを悩んで表現してくださいと言うんですが、日本の俳優さんはすごく深く悩んでくださり、さまざまな努力をしてくださる。その姿に私もいろいろなインスピレーションを受けます。中でも和樹さんは、本当にたくさん悩んでくださる俳優さん。同じ場面をやるときも、毎回キャラクターに色を付けて表現しようとする姿はとても格好いいですし、メレアガンというキャラクターを、私が思っている以上に表現してくださっています。

加藤 いやいや、まだ稽古段階なので、いろいろトライしています。Wキャスト(伊礼さん)とはタイプが違いますが、ルピナさんが、細かいディテールや芝居のニュアンスも、『違っていていい』とおっしゃってくださるのは心強いです。

ルピナ Wキャストは違うのが当たり前で、それがおもしろいんです。キャラクターの重心は同じですけど、表現する俳優はひとりひとり違う。例えば、演出家が『ここは叫んで表現してほしい』と考えたとき、その通りに叫ぶ俳優もいるし、叫ばなくても演出家の求めに近い表現をできる俳優もいます。俳優は皆、性格が違いますから、それでいい。演出家だからといってすべてが分かるわけじゃないし、演出は全体のことについて悩むのが仕事で、ひとりひとりのキャラクターについては、俳優の方がもっと深く悩むものだと思います。
 


メレアガン役/加藤和樹さん (前列センター) ※稽古場写真撮影:田中亜紀

加藤 メレアガンは、芝居より歌で自分の心情を表現することが多い役。細かい心の動きや、彼が何をなしたいのか、目的ははっきりしているんですけど、そこの過程が描かれていないんです。

ルピナ そうですね。登場人物の中で、一番演じるのが難しいのがメレアガンです。最強の騎士からゆがんだ悪魔のような騎士になって、変化の幅はもっとも大きいんですが、その過程がすべてスキップされてしまっている。

加藤 その分、歌で説得力を持たせなきゃいけないんですが、今はまだ、歌に遊ばれてしまっていて…。もう少し深く理解していく必要があると思っています。

ルピナ 幕が上がるまでに、もっとも多く話をしなきゃいけないのは、メレアガンの表現方法についてかもしれません。そのくらい難しい役です。


稽古場写真撮影:田中亜紀

――おまけにその歌も、音域が広いですよね?

加藤 そう。もうよくわからないです(笑)。

ルピナ (笑)。

加藤 でも、曲だけ聞くと低いし高いし、すごい難しいと思うんですが、メレアガンを演じていくと、彼の内に秘めているものがその幅を生んでいると納得できます。だから、その高低差でどう彼の気持ちを表現するか。幅があればあるほどやりがいがあるので、楽しみです。あとは、喉の体力勝負ですね(笑)。

ルピナ でも、和樹さん、あんまり食べないんです!

加藤 食べてる、食べてる! ぼくはもともと、稽古中はご飯を食べないんです。眠くなるので。

ルピナ だんだん痩せつつあるんじゃないですか?

加藤 そんなことないですよ(笑)。朝ご飯をしっかり食べてきていますから! 昔から、稽古中はチョコレートやナッツで大丈夫なんです。本番中も、昼夜公演の間はそんなにがっつり食べない。でも、海外の演出家さんはご飯の時間を大事にする方が多いので、ルピナさんは昼ご飯の休憩がないことに驚いたんじゃないですか?

ルピナ 大変です!! お稽古をする時間は幸せでいいんですが、食事休憩がないシステムは初めてで…。お昼休憩は、俳優さんとそのキャラクターについて話したり、雑談をする時間でもあるんです。そうすると俳優の性格が分かるし、リフレッシュできて次の稽古に入れますから。

加藤 わかります。日本でもその時間が必要、日本の稽古場はディスカッションが少な過ぎるって怒ってください!(笑)。本当は役者も、ルピナさんが韓国でどういう人たちとどういう仕事をしてきたか、話を聞きたいし、しゃべりたいんです。ただ、コロナ禍になって打ち上げとか食事の場もなくなってしまって…。もともと日本には、ご飯休憩や休憩の間に演出家と話す習慣があまりないので、これを機に変えていければいいですね。役者同士でも、普段のコミュニケーションが芝居に生きますから。

ルピナ そうです! その通りです!


稽古場写真撮影:田中亜紀

加藤 以前、韓国で『エリザベート』の稽古場を覗かせていただいたとき、演出家やスタッフが一体となって作品を作っている印象を強く受けたんです。コロナのせいで、日本はより閉鎖的になっている感じがします。必要のない会話はしないようにと言われますが、コミュニケーションが深まらなければ、いい作品もできないと思うんです。だから今、ルピナさんがこういう状況下でも日本語を覚えて、一生懸命コミュニケーションをとろうとしてくださる姿勢に感動しています。

ルピナ ありがとうございます。がんばります(日本語で)。和樹さんとは、最初に約束したんですよね。和樹さんは韓国語を勉強しているので、韓国語で話をしてください。私は日本語を勉強しているので、日本語で話しますって。

加藤 すみません。まだ勉強不足で(笑)。でも、コミュニケーションって一言でもいいのかな。ルピナさんが『よろしくお願いします』『ありがとうございます』と言ってくださると、我々も嬉しくなる。ということは、我々も一言でも韓国語で『こんにちは』『お疲れ様でした』と言うだけでいいんですよね。

ルピナ そうですよ! 私が朝、『おはようございます』と日本語であいさつすると、スタッフの皆さんは『アンニョンハセヨ』と返してくださる。お互いがお互いを思うその気持ちがすごくうれしいんです。

※<後編>はこちら

通訳/キム・テイ
取材/文 道丸摩耶(産経新聞)
対談撮影/吉原朱美


加藤和樹(KATO KAZUKI)

2005年ミュージカル『テニスの王子様』で脚光を浴び、2006年4月Mini Album『Rough Diamond』でCDデビュー。毎年CDリリースや単独ライブ、全国ライブツアーを実施するなど、音楽活動を精力的に行っている。2009年韓国、台湾、中国でCDデビューを果たす。俳優としてはドラマ・映画・舞台のほか、ミュージカルや声優としても活躍している。2023年1月~3月ミュージカル『キングアーサー』、4月~5月『BACKBEAT』に出演。7月~9月ミュージカル『ファントム』でふたたびファントム役に挑む。第46回(2020年度)菊田一夫演劇賞受賞。
WOWOW「加藤和樹のミュージックバー『エンタス』」でMCを務める。

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オ・ルピナ(오루피나)

成均館大学校芸術大学演技芸術学科演出専攻卒業。イ・ジナ氏に師事。演出助手としての活動を経て、2008年、26歳の若さで商業ミュージカル演出家としてデビュー。ミュージカル、ストレートプレイ、児童劇、舞踊劇、マジックショー、コンサートなど幅広く手掛ける。18年に『ロッキー・ホラー・ショー』の演出でイェグリンアワーズ外国ミュージカル部門クリエイティブ賞を、20年に『HOPE』の演出で第4回韓国ミュージカルアワーズ演出賞を受賞。ほか主な演出作品にミュージカル『42ndストリート』『マリーセリー』『ワイルドグレー』『ママドントクライ』『黒い司祭たち』『影を売った男』『GOOD BYE,イサン』、舞台『カポネ トリロジー Capone Trilogy』『アンニョン ヨルム』など。また『デスノートTHE MUSICAL』韓国プロダクション(15・17/栗山民也演出)に演出捕として参加。ミュージカル『キングアーサー』は韓国プロダクション(19・22)に続いての演出。日本での演出は今回が初。

Stage Information

ミュージカル『キングアーサー』

日本版台本・演出:オ・ルピナ
翻訳・訳詞:高橋亜子
音楽監督:竹内聡
演出家通訳/台本下訳:キム・テイ

アーサー:浦井健治
メレアガン:伊礼彼方/加藤和樹 (Wキャスト/五十音順)
ランスロット:太田基裕/平間壮一 (Wキャスト/五十音順)
グィネヴィア:小南満佑子/宮澤佐江 (Wキャスト/五十音順)
ガウェイン:小林亮太
ケイ:東山光明
マーリン:石川禅
モルガン:安蘭けい 他

【公演日程】
■東京公演/新国立劇場 中劇場 2023年1月12日(木)~2月5日(日)
※1月12日~15日の公演は中止
■群馬公演/高崎芸術劇場 大劇場 2023年2月11日(土祝)~12日(日)
■兵庫公演/兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール 2023年2月24日(金)~26日(日)
■愛知公演/刈谷市総合文化センターアイリス 大ホール 2023年3月4日(土)~5日(日)

公演公式サイトはこちら

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