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COLUMN

【#7】ずっと大事にしたい「My Eyes Adored You」(ジャージー・ボーイズ)|東啓介と聴活♪

初めての緊急事態宣言が明けて、147日ぶりの帝国劇場再開の作品となったのが60年代に米国で活躍したグループ「フォー・シーズンズ」の軌跡を描くミュージカル『ジャージー・ボーイズ』のコンサート版『ジャージー・ボーイズ イン コンサート』でした。一時は中止といわれた舞台がコンサートバージョンで復活する奇跡に立ち会って、もう1年。この曲を聞くと、当時の気持ちがリンクして、思い出が鮮明によみがえります。

『ジャージー・ボーイズ』は2016年に日本で初演され、18年に再演されました。ぼくは18年に見て、そのカッコよさに鳥肌が立ったのを覚えています。ぼくの中では「音楽を知らないと出ちゃいけない特別なミュージカル」というイメージ。ボブ・ゴーディオ役は海宝直人さん(矢崎広さんとのダブルキャスト)が務めていらして、ぼくは海宝さんの後任として入ったので、プレッシャーは大きかったです。

「ダブルキャスト」というと、いろんな組み合わせを楽しむものですが、「ジャージー」は固定の2チーム制。4人の声の混じり方、バランスが大事にされている作品だからです。あのアッキーさん(中川晃教さん)ですらオーディションにすごく準備をしたと聞いていましたし、稽古場に入るときの緊張感はすごくて…。1音でも外したら殺されるんじゃないか、みたいな(笑)。結果的に、その緊張感がぼくのスキルを底上げしてくれたと思います。

チーム分けをするために、最初に声を合わせる機会があったんですが、まささん(藤岡正明さん)から、「ジャージーの歌い方じゃないから、まずそれを変えていこうか」と言われて。「今までどういうミュージカルをやってきた?」「ジャージーはそれとは違うから」と重ねて言われて、「がんばります」と答えるしかなかったです(笑)。初ミュージカルの尾上右近さんもぼくと同じパートだったので、稽古中は「一緒にがんばろう」と切磋琢磨しました。

ジャージーの歌の難しさは「呼吸」。4人で合わせる歌の入り方では、呼吸がずれたり音の出し方が違うだけで曲が壊れる。誰かのパートだけ目立ったり、逆に聞こえなかったりするのもダメ。「もっと出していいよ」と言われても、いや、出してるんだけどな?みたいな。「そこ、2ミリ上!」と指摘されたときには、「2ミリ上ってどこ???」と「?」だらけに…(笑)。ひとりひとりの声質があるので、同じ音程で歌っていても少し下に聞こえたら、上めを意識して歌うというようなことですが、そんな経験をしたことがなかったので、「音楽の天才たちが集まっちゃった!」と焦りました(笑)。

でも、まささんやspiさん、アッキーさんたちのいい意味での厳しさが『ジャージー・ボーイズ』のクオリティの高さを保っている。だから、その厳しさはとてもありがたかったし、やりがいもありました。メンバーがあれこれ言い合うことで崩れていくカンパニーもある中で、皆が同じ方向を向いていて、「そうだよね」「じゃあ練習してみようか」とメンバーが練習に付き合ったり、聞いてくれたりするすばらしい環境。それもこれも、アッキーさんが「苦労をひとりで背負ってもいい作品にはならない。皆が同じ方向を向いてがんばるからこそカンパニーができあがっていく」と考えていらしたからです。最初は合わなかった曲が合っていき、ハーモニーはコミュニケーションなんだと分かってからは本当に楽しくなりました。自分から出る楽しさが歌になって音楽になっていくんですね。

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ぼくが演じたボブ・ゴーディオが、コンサートバージョンでのみ歌うのが、今回紹介する「My Eyes Adored You」。ぼくは高音を繊細に出そうとすると弱くなりがちだったので、高音部分を何度も練習しました。

歌詞もすごくいいんです。「一目で魅せられて、あこがれて」という歌詞には、いろんな人の顔が思い浮かびます。この作品で出会ったアッキーさん、まささんたち、そして、公演初日の7月18日に亡くなった三浦春馬さんの顔も。(訃報を聞いたときは)ちょうど開演前のサウンドチェックをしていて、「遠くにいて、もう届かない」という歌詞が春馬くんにつながるな、と。不思議な縁を感じ、ずっと大事にしたいと思える曲になりました。

演出の藤田俊太郎さんも、物語の舞台となるニュージャージーに行って撮った写真を見せてくれました。ぼくは「上京」することを知らない東京育ちなので、橋をひとつ渡っただけでこんなにも町が廃れてしまうこと、ここからマンハッタンに出ることがどれだけ厳しいかなど、分からない感覚をいっぱい教えてくれました。実は、ぼくの両親はニュージャージーに住んでいたことがあるんです。藤田さんの見せてくれた写真と両親が以前、見せてくれた写真がリンクして、既視感も覚えました。両親は当時、フォー・シーズンズの曲も聞いていたそうです。そういう意味でも、この作品とは不思議な縁があります。

「ジャージー」の中に、「ぼくらを上に押し上げてくれたのは民衆だ。きみたちがいたからぼくがいた」という台詞があります。舞台も同じで、お客さまがいてこそ。帝劇にお客さまが入った日の、「待ってました」という大きな拍手は忘れられません。マスクを取って、皆の笑顔が見られる状態になったら、一本につながった物語として、本公演を同じメンバーで届けたい。けれど、それはなかなか難しいですよね。舞台は一期一会だからこそ、ひとつの公演が大事なものになり、真剣にお届けできるのかもしれません。それに、本公演が上演できたとしても、ボブはこの曲を歌いません(笑)。その代わり、ミュージカルのおもしろさだけでなく、曲に込めた当時の思いを、この連載を通じて伝えていきたいです。

聞き手・道丸摩耶(産経新聞社)
撮影・三尾郁恵(産経新聞社)

♪今月のミュージカルソング

「Frankie Valli – My Eyes Adored You (Official Audio)」|『ジャージー・ボーイズ』

東啓介(Keisuke Higashi)

1995年7月14日生まれ、東京都出身。2013年デビュー。舞台『剣乱舞』など気舞台で活躍し、『5DAYS 辺境のロミオとジュリエット』『命売ります』『Color of Life』などの作品で主演を務める。近年はミュージカル界の新星として頭角を現している。2020年11月にはファーストソロコンサートも開催。NTV「ウチの娘は、彼氏が出来ない‼︎」にイケメン整体師・渉周一役で出演し話題に。ミュージカル『イン・ザ・ハイツ』(神奈川・大阪・名古屋・東京公演)に出演。6月〜7月、ミュージカル『マタ・ハリ』でアルマン役に再び挑む。

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Stage Information

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ミュージカル『マタ・ハリ』

劇作・脚本:アイヴァン・メンチェル
作曲:フランク・ワイルドホーン
歌詞 ジャック・マーフィー
オリジナル編曲・オーケストレーション ジェイソン・ホーランド
訳詞・翻訳・演出 石丸さち子

出演:マタ・ハリ(Wキャスト)/柚希礼音 愛希れいか
ラドゥー(Wキャスト)/加藤和樹 田代万里生
アルマン(Wキャスト)/三浦涼介 東啓介
アンナ/春風ひとみ
ヴォン・ビッシング/宮尾俊太郎、他

【愛知公演】2021年7月10日(土)〜11日(日)刈谷市総合文化センター アイリス 大ホール
【大阪公演】2021年7月16日(金)〜20日(火)梅田芸術劇場メインホール

公演公式サイトはこちら

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