1994年公開の傑作コメディ映画をミュージカル化した『ブロードウェイと銃弾』が、東京・日比谷の日生劇場で3年ぶりに再演されます。日本初演となった前回、ギャングのチーチ役を評価されて菊田一夫演劇賞を受賞した城田優さんに、再び同役に挑むにあたっての抱負やファンへのメッセージをうかがいました。(2021年4月9日取材)
起こったことにどれだけ順応できるか
――また、城田さんのチーチが見られます。再演が決まったときのお気持ちは
実は、前回の公演が終わって間もないころに、「もう一回やりたいですか?」と打診があったんです。初演が終わって、やり残したことというか、次はもう少し精度の高いものを作れるんじゃないかなという思いがありました。特に、芝居においてはもう少し深く、チームで掘り下げられるんじゃないかなと思うところがあったので、「やりたいです」とお返事しました。なので、そのうち再演をやるだろうなとは思っていました。
――コメディ映画が元ですが、作品にどんな印象を持っていますか?
ストーリーの組み立てが、非常におもしろいです。劇作家のデビッドは自分のことをアーティストだと思っている。それに対して、監視役のチーチはあまり良い環境では育っておらず、芸術の道に進むなんて考えたこともない人物。もともとエンタメに興味がないのに、センスがずば抜けていて…。そんな正反対のふたりの交錯する思いが見どころです。ボディーガードとしてたまたま行った先で才能が開花し、新しい自分が見つかるチーチという役はおもしろいし、魅力的です。デビッドとチーチ、ふたりの立場が逆転していき、チーチの「守る」という目的が「殺す」に変わっていく、そこが最大のコメディだと思います。
――デビッド役の髙木雄也さんの印象はいかがですか?
初ミュージカルということで、質問してくれることも、かわいいといったら失礼ですが、すごく初々しくて…。年もちょっと下ですし、のびのびとやってくれたらいいなと思います。演出の福田雄一さんのチーム、通称「福田組」の稽古は進むのが早くて、(取材時点で)1幕も2幕も通しているのですが、これからより深く、細かいところを掘り下げていきたいと思います。
(再演なので)芝居も歌詞もダンスも動きも、7〜8割くらいかな、基本的な動きは入っていました。前回の自分の感情や自分が作ったキャラクターの雰囲気も覚えています。ただ、相手が変わりますから、前回の記憶に引っ張られることなく、木くんと話しながら、さらに詰めていければと思います。相手が変われば、芝居は絶対に変わりますから。
――昨年はコロナで大変な1年でした。コロナ禍で城田さんの考え方や生き方に変化はありましたか
ぼく自身は延期や中止があったのは自分のツアーくらいで、ミュージカルに関しては「NINE」も全公演が上演できました。一方で、日々やらないといけないことに対するしんどさもあり、毎日が大変な精神状態だったのも事実です。プロデュースや演出をやらせていただける機会も増えているので、主催者側として延期や中止の判断もしないといけません。そういう意味では、いろいろと考えさせられる1年でした。でも1年たって言えることは、やると決めたらやる、やらないと決めたらやらない。もし中止になっても仕方ないというマインドを常に持っておくということです。
とどのつまりは、起こったことに対してどれだけ順応していくか。パソコンやスマートフォンと同じで、以前はなかったものが、あって当たり前の世界に変わっていくことは、いつの時代も起こり得る。コロナ禍もまだ続くと言われていますから、慣れていくしかないですね。嘆いてもあがいても変わらないのなら、一喜一憂していても仕方ないと思います。
――確かにそうですね。城田さんは思い切りの良いタイプですか?
そんなことはないです。優柔不断だし、心も動きやすいし、弱いです。だからこそ、たくさんの人たちに声を届けられる立場として、強くなきゃいけないと思っているところもあります。今日の取材でも強い言葉を言ったりしていますけど、実際にはそんなに強い心の持ち主ではないし、楽観的なタイプでもないです。でも、誰かをリードする人が「負けるかもしれないけどがんばりましょう」と弱音を吐くより、「大丈夫ですよ。だから信じて、僕に付いてきてください」という言い方がみんなが救われると思うので、ポジティブな言葉を言っている部分はあります。
できることをやればいい
――コロナ禍では、ユーチューブなどで発信もされていました
恐怖や悲しみと戦っている人たち、不安と向き合っている人たちに、エンターテイナーとして何かできることがないかとユーチューブの配信を始めました。あの時期は見えなかったものがたくさんあったからこそ、自分なりにアプローチして新しいことをやっていました。コロナが日常に変わった今は、「大丈夫だよ」と毎日言わないといけない時期ではないとぼくは考えています。もちろん皆が戦っていますし、緊張感を持って過ごさないといけないことに変わりはありませんが、そういう日々に慣れないといけない。「上から何か落ちてきて、死ぬかもしれない」という不安の中でずっと上を見ながら生きていても仕方がないわけで、自分ができることをやればいいし、できること以上のことをやろうとしなくてもいい。最近は配信はやっていませんが、これからも楽しいことを企画していきたいです。
――山崎育三郎さん、尾上松也さんとのプロジェクト「IMY」の歌謡祭も実現しましたね。企画や演出などもされていますが、今後の目標を教えてください。
企画や演出は、これから増えていくと思います。ぼくは緊張しいで完璧主義者なので、ひとつの公演に出演すると、だいぶ心が疲弊してしまうんです。でも、演出やプロデュースをやっているときは楽しくて。今のところ大きな失敗をしていないからかもしれませんが、自分にできることを全部やって、「あとは任せたぜ」と皆の成長を見守るのは好きです。
いつか作り手としてやってみたいのは、ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』の演出。もちろんそれだけではなく、自分でこっちに行ってみよう、あっちに行ってみようといろいろチャレンジしていきたいです。
――『ブロードウェイと銃弾』を楽しみにしているお客さまに一言、お願いします
コメディミュージカルということで、この時代に一番必要なのは笑いじゃないかと思います。命がけで劇場に来る人も、残念だけど断念する人もいるでしょう。「不要不急の外出を控えて」という世の中で、ぼくらは「来てください」と言わなきゃいけない非常に矛盾した立場にいます。でも、劇場という空間で、ぼくらのできることを一生懸命やり、皆さまにエネルギーや勇気、元気、笑顔、明日を生きる力を届けたいとがんばっています。劇場に来るまではいろいろあっても、いすに座ったらその3時間はすべてを忘れて、楽しんでいただきたいです。
――最後に、読者にメッセージをお願いします
今はやりたいことがなかなかできない、思い通りにいかない日々だと思うんですね。誰もが悔しさや苦しさ、悲しい思いを抱いていると思います。特に若い人にとっては、せっかくの楽しみを制限されるのはすごくマイナスに思えます。でも、若いうちにこれだけの試練を乗り越えることができれば、この先何があっても大丈夫だと思うんです。つらい思いをしているのは自分だけじゃないと切り替えて、どれだけの速さで心の整理ができるかが課題になってきます。 人生は一度きり。あれができなかった、これができなかったという思いばかり引きずっていては、時間がもったいない。ここはぼくの言葉を信じてもらって、前を向いてほしい。好きなことができなかったら、代わりに何かができると思考をポジティブに回してみてください。「私はポジティブだよ!」という人は、周りの友達や家族を助けてあげられるようになってほしいです。
取材・文/道丸摩耶(産経新聞)
写真/大林直行
ヘアメイク/Eimy
スタイリング/橘 昌吾
城田 優(Shirota Yu)
1985年12月26日生まれ。
2003年に俳優デビュー以来、テレビ、映画、舞台以外に音楽、モデルなど幅広いジャンルで活躍中。テレビドラマ『ROOKIES』『SPEC』『GTO』、映画『明烏』『亜人』に出演。舞台では2010年にミュージカル『エリザベート』で最年少でトート役を演じ、日本のミュージカル界に新風を巻き起こした。同役で第65回文化庁芸術祭「演劇部門」新人賞を受賞。2013年には、ブロードウェイ、ロンドンのウエストエンドで活躍する世界のミュージカル・スターと『4Stars』に出演し、連日大喝采をあびた。2016年、ミュージカル『アップル・ツリー』で演出家デビュー。2019年、ミュージカル『ファントム』で新演出を手掛け、主演にも挑むという偉業を成し遂げた。2020年には主演を務めたミュージカル『NINE』で第28回読売演劇大賞・優秀男優賞を受賞。今年6月には米倉涼子との初舞台共演&共同プロデュースで贈るエンターテインメントショー『SHOWTIME』、11月には山崎育三郎と尾上松也とのユニット「IMY(あいまい)」のオリジナル舞台の上演を控えている。
Stage Information
ミュージカル『ブロードウェイと銃弾』
脚本:ウディ・アレン
オリジナル振付:スーザン・ストローマン
演出:福田雄一
原作:ウディ・アレン/ダグラス・マクグラス(映画「ブロードウェイと銃弾」より)
出演:城田優 髙木雄也
橋本さとし 鈴木壮麻 平野綾 愛加あゆ 保坂知寿 瀬奈じゅん
日程・会場:2021年5月東京・日生劇場(6月 地方公演あり)
製作:東宝/ワタナベエンターテインメント