INTERVIEW

柚希礼音さん《後編》「限界を越えた、その先に生まれるエネルギーを信じて」

2020.07.31

英国北部の炭鉱町を舞台に、バレエダンサーを目指す一人の少年とその周囲の人々の葛藤、成長、希望を描いたミュージカル『ビリー・エリオット』。エルトン・ジョンの楽曲で綴られる傑作舞台は、2017年に日本初演が実現して大絶賛を博しました。そしてこの9月、待望の再演が開幕します。今回は初演に引き続き、型破りなバレエ教師・ウィルキンソン先生を演じる柚希礼音さんが「マチ★ソワWeb」に登場！　再演舞台にかける思い、またこのコロナ禍での自粛期間に感じたこと、元宝塚歌劇トップスターたちによる『青い星の上で』について、さらに宝塚歌劇再始動から後輩に向けたエールなど、ご自身の飾らぬ思いをたくさんお話ししてくださいました。

＞前編はコチラから

幸せにしたくて始めたことで、幸せを受け取って

――柚希さんが自粛期間に活動された中で、元宝塚トップスター・19人が集結して、楽曲『青い星の上で』をリモート歌唱する『Our song for you また会える日まで―』が大きな話題となりました。柚希さんの呼びかけで始まった企画だそうですね。

はい。舞台を楽しみにしてくださっている方々に向けて、「いいな、幸せだな」と心がちょっとほっこりするものを作りたいなと思ったんです。でも自分一人ではなかなか難しいし…といろいろ考えたけど、まずは言ってみることだな！と思って事務所に相談しまして。そうしたら、『REON JACK』（自身のコンサート）のメンバーの本間昭光さんやNAOTOさん、振付のSHUN先生もすごく快く「やろう、やろう！」と言ってくださり。

そしてメンバーは、宝塚時代一緒に過ごしてきた100周年以降のトップスターの皆さんに声をかけさせていただきました。そうしたら皆、「何かしたかったけど何をしたらいいかわからなかったから、ありがとうございます」と言ってくれて。最初に、私がどういう意図で、どういう人たちをどんな気持ちにさせたいのか…といったことを長文にして、皆に送ったんですよ。もう思いが熱すぎて、皆引いたんじゃなかろうかって思うくらい（笑）。でもそれで、学年も組も違う皆の心がますます一つになって、いろんなことを提案してくれたんです。「ちょっとクスッて笑っちゃうようなことも入れたい」といったお願いも、皆すごく積極的にやってくれましたね。

――一致団結の思いが素晴らしかったです。楽曲もよかった！

ね、本当にいい曲で。それも皆で選びました。「私たちがやるからには宝塚の名曲がいいと思うけど、この時期に聴いて“頑張ろう！”と思える曲にしたい。何がいい？」って投げかけたら、皆からポンポンポンポン候補が上がって。それで多数決で『青い星の上で』になりました。

――繊細に、こだわりを持って作られた動画だなと感じましたね。

せっかくプロの方々と一緒にやるからには、手作り感がありながらも、やっぱりきっちりとプロの手で作られた感のあるものを作ろうと思いました。イヤホンで聴くと、右で歌っている人の声は右から、左で歌っている人の声は左から聞こえるようになっていたり。コーラスは新しく本間さんが作ってくださって、やっぱり声の力を感じていただきたかったので、離れていて一緒に稽古できないのに無茶かもしれないけど、「娘役みんなのコーラスは二声ほしい」とか、「オチサビの時は追っかけになるように」とか、すごいわがままなお願いをして（笑）。でもそれを皆がどんどん叶えてくれました。

また、SHUN先生が「触れられないけど、触れたい」といったコンセプトで振りをつけてくださったんですが、カップル振りも、まるで男役と娘役の二人が同じ場所にいるみたいにやってくれて。たぶん二人でいろいろとやりとりしながらやってくれたんだろうなと思います。私も、ねね（夢咲ねね）に「ウインクするタイミング、合わせてな！」って圧のメッセージを送りました（笑）。ま、全体的に娘役のみんながかなり頑張って合わせてくれたんだろうなと（笑）。ねねなんて、ウインクのタイミングを「いち、に、さん！」ってもう必死で練習して（笑）、私に合わせようと頑張ってくれたみたいです。最後のハートをフ～って飛ばすところもちゃんとカウントで決めて、そうやってきっちりやることによって、合間の「皆さん自由にどうぞ」っていう可愛いところがほっこり生きてきたなって気はします。

編集は、事務所のディレクターさんと一緒に構成を考えていきました。宝塚を見慣れていらっしゃる方が見た時に、「どうして？」と不思議に思うことがないように、出てくる順番とか、ペアとか、上下（カミシモ）とか、本当に気をつけて、目を血走らせて！（笑）決めていきましたね。たとえば明日海りおちゃんは相手役が３人いるから、どこに入れたら一番よく見えるのか…とか考えて。編集スタッフの人にはわからない部分もあるので、「花組のポーズは絶対に使うべき！」とか、大切にすべきところはもう口うるさくお願いしちゃいました。ハハハ。

――完成した動画をご覧になって、どうお感じになりましたか？

すごく楽しく、可愛く出来上がるはず！と思って見ていたんだけど、カップル振りあたりで何だか感動してきちゃって…。とりあえず連続で何度も観ましたね（笑）。もう最高でした。誰かを幸せにしたいと思って始めたけれど、結局は、皆様にとても幸せにしていただいたような…。本当にありがとうございます！って気持ちになりました。

奇跡のような、かけがえのない時間を楽しんで

――宝塚ファンを始め、確実に多くの人があの歌声から幸せを受け取ったと思います。そして宝塚歌劇も再始動しましたね！　７月17日に宝塚大劇場にて花組公演がスタートし、31日には東京宝塚劇場にて、星組トップスター・礼真琴さんの御披露目公演が始まります。

そう、礼真琴さんは宝塚の受験前からお手紙とかくださっていたんですよね。『龍星』（2005年）を見てファンになって、宝塚を受けることにした…ってお手紙をくれてたあの子が入ったらしい！となって、星組になったらしい！となって（笑）。星組に入って来た時が『大王四神記』（2009年、柚希さんの御披露目公演）だったんですよ。それからみるみる成長して、私の役をするまでになって…。そしてトップ御披露目なんですから、もう、開演前から泣いてしまうと思う！（一同笑）

――トップになったことで、礼さんから教えを請われることも？

ありましたね。これは自分もとうこさん（安蘭けい）に言われてきたことですが、とにかく「自分のことを一生懸命やりなさい」と。でもトップになったら、やっぱり「5組の中で一番いい組だ」と言われたくなってくるんですよね。なんとか組をまとめよう、皆をよくしよう…って精神になって、求めてもいない人まで引き上げようとして失敗したり。

そうしたいろんな時期を経て、最終的に思うことは、やっぱり自分のことを一番に考えて、公演に真摯に向かい合ってやっていくことだと。今日より明日…とやっていくトップの背中を見て、皆は成長するんだな、と学んだんです。確かに、無理に皆に教えようとしていた時は、あんまり響いていない気がしていて。それをやめて、自分のことに必死になっていた時のほうが、皆は「あの時、どうやっているんですか？」とか聞いてくるようになったんですね。だから「とにかく自分のことに集中してやっていれば、皆はその背中を見ているから」ってことは言いました。

大劇場の御披露目の時に、「あらためて全トップスターさんを尊敬し直しました」ってメッセージが来たんですよ（笑）。私の時も本当にそう思いましたから！　トップ御披露目の、初日前日にやる通し稽古で、もうこれまでの全トップスターさんのことを尊敬し直しました。これを毎日やっていたなんて！って。フィナーレの大階段を上がる前に影段を大きな羽をつけて、風を受けながら二段飛ばしで駆け上がるのが…もう！あれに耐える精神力はすごい！（一同笑）そんなことを思ったみたいです（笑）。

――礼さんや後輩の皆さんに、あらためてエールを送るとしたら…？

エールなんて、そんな（笑）。そうですね。この自粛期間、それまでは皆さんもめまいがするくらい忙しい日々を過ごしていたのに、いきなり止まってしまい、きっとすごく自分と向き合い、いろんなことを感じたのではと思います。私は『Our song for you』を宝塚OGの皆と作ったことで、バラバラなところにいるようで心は一つだな…と絆を感じることが出来ました。宝塚の舞台に立てることは本当に人生の中で奇跡のような、とってもかけがえのない時間だと思うので、思いっきりエンジョイして欲しいです。

――そして柚希さんが挑むのは『ビリー・エリオット』再演ですね。あらためて、この作品を通して届けたい思いを聞かせてください。

バレエダンサーになりたい男の子が夢を追うストーリーで、そこでは心が折れるようなこともたくさん起こります。今の時期、皆様それぞれに抱えている問題もあると思いますが、舞台を観て、やっぱり頑張ってみよう！と、何か勇気を持って劇場を後にしてくだされば嬉しいなと思いますね。この作品で私が一番好きなのは、子供以上に大人たちが葛藤し、成長していくところです。また前に進む活力になる、そんな舞台になればいいなと思っています。

――ありがとうございました。最後に「マチ★ソワ（待ちきれなくてそわそわしちゃう）Web」にちなんで、今、柚希さんが待ちきれないほど楽しみにしていることは？

まずは『ビリー・エリオット』の初日ですね。それから私、ファンの皆さんとのコラボをとても大切にしているんですけど、もう長らく出来ていないので、早くファンの皆さんとコミュニケーションできる場が来ればいいなと。私自身も幸せになれるので、その機会を楽しみに待っています。

取材・文／上野紀子（演劇ライター）
撮影／吉原朱美

柚希礼音（Reon Yuzuki）

2015年宝塚歌劇団退団以降、数々の舞台で主演を務める。退団後の主なミュージカル出演は、『マタ・ハリ』『FACTORY GIRLS私が描く物語』『ボディガード』など。今年5月、柚希礼音の呼びかけで元宝塚トップスター19人が集結したYouTube動画配信が大きな注目を集める。2021年1月日比谷・シアタークリエ他にて上演予定のミュージカル「IF/THEN」に主演。