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INTERVIEW

伊礼彼方さん「舞台を完成させる最後のピースはお客さま」

――新型コロナウイルスの影響で5月に開幕予定だったミュージカル「ミス・サイゴン」(エンジニア役で初主演)が中止になりました。自粛期間中はどう過ごしていましたか?

公演中止は残念でしたが、ぼく以上に楽しみにしていたファンの人たちに、何かやれることがないかなと考えました。公演中止がまだ自分事になってなかった初期の頃は、劇場が使えないなら違う場所でイベントやトークショーとか何か出来るだろう、って漠然と思ってましたが、直接お客さまと接する、つながれる場所を作れない。表現者として表現の場がないことには、情けなくもどかしい思いでした。

ファンの方にもどうにか自粛期間を生き延びてほしいと、「生き延びるTシャツ」や「アマビエのマスクケース」などのグッズを作ってみたり。常になにか方法はないか模索してました。個人的には今まで忙しくて自分をどうしても疎かにしがちだったので、朝と夜にはヨガ、夕方にはピラティスしてます。いつでも舞台に立てるよう、1公演1公演をもっと大事に、パフォーマンスを上げて届けられるようにしないといけないと思いながら。そんなとき、健ちゃん(浦井健治さん)から「曲を作らない?」と声をかけてもらったんです。

――それが浦井さん作詞、伊礼さん作曲、おふたりで歌われた「スタートライン」ですね

健ちゃんもぼくと同じで何もできないことがもどかしくて、またファンの方に光になるようなものを届けたいと思っていて、その熱に動かされました。あとは、これも巡り合わせというか出会いのご縁で、コロナ禍によって活動停止を余儀なくされた舞台関係者を支援する「舞台芸術を未来に繋ぐ基金」に賛同人代表としてかかわれたことも大きかったです。なので実は、初めて挑戦する事もたくさんあり、公演中や稽古中と変わらない忙しい日々でした(笑)。

――「舞台芸術を未来に繋ぐ基金」とはどんな基金ですか

クラウドファンディングで皆さまから寄付をいただき、コロナによって大きな苦境に立たされているアーティストやスタッフ、クリエイターに助成金として配布するものですが、一度きりのクラウドファンディングで終わる基金ではないので、今後もこのシステムを活かして演劇の未来に貢献できる場を作っていきたいです。舞台の上で役者がやれることはたかが知れていて、スタッフがいないと何も回りません。そんなスタッフの方々への補償制度が実は少なかったり、ぼくは以前から、ミュージカルや演劇をもっと身近に知ってもらいたいと思っていました。小さい頃から、ミュージカルに触れることによって歌や表現だけでなく心をひらく、手と手をつないで生身のふれあいを感じてもらうことができたら、人間性も豊かになると思うし、ミュージカルだけじゃなく、演劇を通して色々と学べることがあるんですよ、っていう事も伝えて行きたいですね。この基金にかかわれたことでそうした夢へのヒントをもらい、この期間をポジティブに考えて過ごすことができました。

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――演劇業界が元に戻るにはまだ時間がかかりそうですが、すでに1人芝居で本多劇場に立たれて、リーディングの舞台にも出演される…

まだ劇場がどこも開いていない先陣きっての公演でしたし、めちゃめちゃ緊張しましたね。1人芝居は初めてだったし、コメディなのに無観客ですよ。自粛ボケなのか台詞の覚え方を忘れていました(笑)。これまで当たり前のように立っていたけれど、舞台というのはとても刺激的だったんだと気づかされました。リーディングスタイルの『Defiledディファイルド』は2人芝居で、三浦宏規くん、小西遼生くんとは役がわりもあります。こちらは厳選人数ですが観客あり、VR配信という新しい試みです。1人芝居の時は無観客だったので、何をしてもシーンとしていて、1人でもいいからお客さんにいてほしいと心から思いました。どれだけ立派な美術やセットを準備しても、最終的に役者を輝かせてくれるのはお客さんの反応や拍手。舞台を完成させる最後のピースはお客さんだったんだと改めて実感しました。

――だからこそ、1人でも多くの人に舞台やミュージカルの魅力を知ってもらいたいですね

そうなんです。演劇って決して敷居の高いものではないので、気軽に特に若い人たちがデートにミュージカルを選んでくれるような文化になってほしいです。まだまだ課題は山積みですが、そうした文化を発展させるには、演劇を見たいと思ってくれる分母数を増やすしかない。ぼくはミュージカルに出合ったのは20代になってからです。それまでは音楽しかやってこなかったので、演劇を鼻で笑うような人間でした。でも、触れてみたら演劇には音楽の要素もあるし、もっと幅広い魅力がたくさんありました。食わず嫌いの人も多いと思うので、生で体感できる切っ掛けや、子供たちにも生で見る舞台のおもしろさを知ってほしいと思ってます。

――伊礼さんと浦井さんには「マチ★ソワ」のスタートを飾る対談をしていただきました。今、何かを始めようとしている人たちへメッセージはありますか

誰もが想像しなかったコロナ禍の中で、環境や状況は変わっても、時間は待ってくれません。進んでいかないといけないですよね。ぼくにできることは、少しでも日常生活に光を感じてもらうこと。ぼくらの姿をみて笑顔が増えてくれたら嬉しいです。たくさん悩んで考えて、ときには惑わされる事もあると思うけど、誰かに相談して、助けをかりてもいい。常に自分に嘘をつかず生きていけばいいんじゃないかな。最終的に後悔せず、自分で心底納得して決断した道を進んでいってほしいと思います。ちょっと落ち込んだり元気がなくなったら、パワー補充しに来て下さい。ぼくらはこれからも劇場で待ってますから!

取材・文/道丸摩耶(産経新聞)


伊礼彼方 (Kanata Irei)

1982年神奈川県出身。中学生の頃より音楽活動を始め、2006年に舞台デビュー。2008年に『エリザベート』のルドルフ役に抜擢され、以降、多数のミュージカル、ストレートプレイ、朗読劇などで多彩な役柄を演じ、幅広く活動中。2019年には藤井隆プロデュースによるミュージカル・カバーアルバム『Elegante』をリリース。近年の主な出演作は『あわれ彼女は娼婦』、『王家の紋章』、『ビューティフル』、『ジャージー・ボーイズ』、『レ・ミゼラブル』など。今夏『ミス・サイゴン』エンジニア役で出演予定だったが公演中止に。「舞台芸術を未来に繋ぐ基金」で賛同人代表を務める。
2020年7〜8月『Defiled-ディファイルド-』(DDD青山クロスシアター)、7月26日『The Voice』、伊礼彼方×北川辰彦トーク&ライブ(俺のGrill&Bakery大手町)、9月『Billboard Live presents Premium Musical Selection』東京・横浜・大阪、11月ミュージカル『Beautiful』(帝国劇場)に出演予定。

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Stage Information

「Defiled-ディファイルド-」(リーディングスタイル)

※VR配信
日程:7月1日(水)8月2日(日)DDD青山クロスシアター
料金:劇場観劇8,500円、VR配信3,500円
・7月13日(月)13:00 三浦宏規&伊礼彼方(ハリー役)【配信日:7/21(火)19時】
・7月29日(水)18:30 小西遼生&伊礼彼方(ハリー役)【配信日:8/09(日)19時】
・8月01日(土)13:00 伊礼彼方(ブライアン役)&小西遼生【配信日:8/12(水)19時】

Stage Information

「The Voice」伊礼彼方×北川辰彦トーク&ライブ

*ライブ配信あり
日時:2020年7月26日(日)12:00開場/13:30 開演、17:00 開場/18:30 開演
場所:俺のGrill&Bakery 大手町(千代田区大手町1-7-2東京サンケイビルB2F)
料金:6,800円※ご飲食代別(1フード&1ドリンクオーダー制)

公式サイト

Information

芸術を未来に繋ぐ基金

【公益基金とプロジェクトの目的について】
この公益基金では、寄付による原資を使い、新型コロナウイルス感染症の拡大防止によって活動停止を余儀なくされた舞台芸術に携わる出演者・クリエイター・スタッフ(個人、団体問わず)に対して今後の活動に必要な資金を助成。
クラウドファンディング実施中

公式サイト

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