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【#25 公開取材スペシャル】場をかき回す狂言回しの面白さ「ミルク」(エリザベート)|東啓介と聴活♪

昨年12月25日に、「聴活」初のイベントを行いました。ご来場いただいた皆さま、ありがとうございました。残念ながら今回はご来場が難しかった皆さま、またイベントをできたらいいなと考えているので、そのときは是非いらしてください。


東啓介、聞き手/産経新聞記者・道丸摩耶(左)

今回の「聴活」は、イベントで行われた公開取材会を元にお届け! ゲストにいらしてくださった田代万里生さんの『エリザベート』のお話は、勉強になることばかりで、ずっと聞いてたい!と思いました。


SPゲスト/田代万里生さん

万里生さんとは、ミュージカル『マタ・ハリ』の再演(2021年)で初めてご一緒しました。コロナ禍だったので稽古場もパーテーションで区切られていて、本読みでは自分のiPadに台本を映して、手でめくっている出演者もいました。でも、万里生さんは桁が違った! 画面を触ることなく、リモコンのボタンで台本や楽譜のページをめくっていらっしゃったんです。未来から来た人かと思いました(笑)。劇場の2階ロビーで一緒にウォームアップをしながら趣味のカメラの話なんかをしたのを覚えています。

そんな万里生さんが出演されたミュージカル『エリザベート』を、ぼくは昨年、帝国劇場で拝見しました。久しぶりに『エリザベート』の世界観と音楽を目の当たりにして、いい意味で、シシィ(皇后エリザベートの愛称)の人生を体験した気分になって、「しんどい~!」と思いました。ぼくは、歴史上の人物の一代記が好きで、こうやって生きてきたんだ、とその人の歴史を調べるのが好きなんですが、エリザベートの人生も気になって、当時の歴史を調べたいと思いながら見ていました。

キャストによって作品の印象は変わりますが、今回見たのはトート(黄泉の帝王)が山崎育三郎さん、エリザベートが愛希れいかさん、エリザベートを暗殺するルイジ・ルキーニが黒羽麻璃央さんの回。そして、ぼくが一番好きなシーンは、万里生さんが演じるオーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフ(佐藤隆紀さんとWキャスト)が、シシィを見初めるシーンです。フランツが、シシィの姉のヘレネのところに行くと思わせて、シシィに行ってしまうバート・イシュル(オーストリアの町)の場面。音楽を力にして、音楽に合わせて動くのがすごくて、感動したんです。万里生さんによると、あのシーンは今回から演出のニュアンスが変わったそうで、以前はもっと人形のような動きのステージングだったそうです。

さて、今回の「聴活」の1曲ですが、ルキーニが歌う「ミルク」を選びました。韓国の『エリザベート』のライブコンサートで、パク・ウンテさんが歌っている映像を見て、「カッコいい!」と驚いたのが、この曲に興味を持った最初でした。『エリザベート』を初めて見たときは「トートをやってみたい」と思ったんですが、この曲の影響もあって、今は「ルキーニをやってみたい」に変わりつつあります。『ジャージー・ボーイズ』のボブ・ゴーディオ役で語りを経験したこともあるかもしれませんが、『エリザベート』で狂言回しを担うルキーニがとても気になって…。冒頭から物語を引っ張っていく感じをやってみたいなと思ったんです。場をかき回していく役は面白いし、歌の曲調もロックで、トートとの掛け合いもあって、格好いいですよね。


「ミルク」のシーン。(写真中央)ルイジ・ルキー二/黒羽麻璃央さん ※写真提供:東宝演劇部

そんなルキーニの歌の中でも、「ミルク」は「ミルクはどこへ行った?」っていう歌詞のインパクトがすごい。そんなことを歌にしちゃうの?とカルチャーショックでした。民衆がリズムをとるように、足をドンドンと踏み鳴らすのも格好いい。つらいことが多い『エリザベート』の物語にあって、あの全員で盛り上がっていく感じがお客様にとっても高揚感というか、気分転換になるんじゃないかと思います。だって、エリザベートとフランツの関係はどんどんつらくなるし、フランツのお母さんは、あれもひとつの愛の形ではあるんでしょうけれど、シシィに対する態度が厳しくて…! お母さんのゾフィー!(怒)

(※編集部:ここからは、ゲスト・田代万里生さんと東さんの会話でお楽しみください)

田代(敬称略) そんな言い方をしちゃいけません!(笑)ゾフィーは宮廷や国を守るために必死なんです!

(敬称略) え!?

田代 実はゾフィーもシシィと同じようにバイエルンからやって来て宮廷で冷遇され、何度も流産を経験し、やっとの思いでフランツを産んだ。だから、シシィにもフランツを支えてほしいし、自分と同じ苦しみを負ってほしくない。シシィに対するあの厳しさは、国やシシィを守ろうとした結果なんです! ちなみに、『エリザベート』の楽曲を作ったシルヴェスター・リーヴァイさんは、当初、エリザベートのミュージカル化に乗り気じゃなかったらしいです。ところが、リーヴァイさんの奥さまがエリザベート皇后の熱烈な支持者で、「あなた、引き受けて!」と言われて受けることにしたそう。トートやルキーニの曲はロック調に、フランツやルドルフ、ゾフィーはクラシック調に、と身分によって曲調を変えているのがおもしろいですね。

 ゾフィーさん、すみませんでした(笑)。万里生さん、早速、勉強になる話をありがとうございます。ここで、万里生さんにも「エリザベート」から1曲を選んでもらおうと思いますが、どの曲でしょうか?

田代 フランツとシシィのデュエット「夜のボート」です! フランツは舞台にはいっぱい出るんですが、実はソロの曲がないんです。1幕で、22、23歳のフランツと15、16歳のシシィが「夜のボート」と同じメロディーの「あなたが側にいれば」という曲を歌いますが、2幕の「夜のボート」は、晩年になると低い声になると思いきや、実は「あなたが側にいれば」より全音高い。「夜のボート」は2人のすれ違いの歌と言われていますが、高揚した愛のデュエットなんです!


2幕「夜のボート」のシーン。エリザベート/花總まりさん、フランツ・ヨーゼフ/田代万里生さん ※写真提供:東宝演劇部

 物語後半では、シシィも力を持って、自分がしたいことをやるようになっていきますが、それだけにフランツがシシィの部屋のドアを開けてくれ、というシーン、フランツとのすれ違いが本当にかわいそうだと思ってしまいます。ぼくは愛希さんのシシィを拝見しましたが、花總まりさんのシシィとは、このすれ違いのシーンの印象もまた違いそうです。

田代 エリザベート役のおふたりは対照的ですね。ぼくはこれまで250回以上、フランツを演じていますが、「夜のボート」は同じ相手役であっても今日と明日で違う。フランツを拒絶するセリフも冷たく感じる日もあれば、愛をもって言ってくれている、と感じることもあるんです。一度として、同じ舞台はありません。

 ぼくが見に行った回では、シシィの黒いベールがフランツの軍服の勲章に引っかかってくっついてしまうアクシデントがありました。何ごともなかったように離れていったのがすごかったですね。ちなみにぼくの失敗談は、『ジャージー・ボーイズ』の稽古場で、楽譜を「できた!」って持ってこなきゃいけないシーンなのに、持ってくるのを忘れて、「頭の中に書いてきた!」と言ったことでしょうか。
 

田代 稽古場も入れたら、我々はアクシデントなんて100万回は経験していますよね(笑)。だから、こういうことが起きたらこういう風にしようと準備はできていて、動揺することはほぼないです。でも、それは今だから言えることかも。ぼくもデビュー作の『マルグリット』でやりました。ピアノの弾き語りの前に吸っていたたばこを、火を消すためのジェルが入った吸い殻入れに入れて火を消すところで、緊張しすぎて指が震えてジェルに指を入れちゃった。ヌルヌルの指で超絶技巧を弾かなきゃいけなくて、どんどん鍵盤がヌルヌルになっていく…。最悪でしたね(笑)。

 でも、ヤバいと思った時の集中力って半端ないですよね。なんとでもできる。舞台は生きているってことだと思います(笑)!

田代 そうだね。生きているんですよ! 出演者も、それに作り手も。ぼくはクラシックを勉強していたので、モーツァルトとかベートーベンとか、250年前に活躍した作曲家に会うことはできなかった。でも、リーヴァイさんやアラン・メンケンさん(『ノートルダムの鐘』など)、アンドリュー・ロイド=ウェバーさん(『オペラ座の怪人』など)、フランク・ワイルドホーンさん(『マタ・ハリ』など)といったミュージカルで活躍する作曲家には、会えるわけですから。

 確かに! 以前、『RENT』の作曲家をモデルにした映画「tick, tick…BOOM!」を見たときにも、同じ時代を生きた人なんだと感動しましたが、ミュージカルではそういうことが起きるわけですよね。

田代 コロナ禍になる前でしたが、リーヴァイさんが『エリザベート』の場当たり(劇場で位置を確認しながら行う稽古)を客席から見学されたことがありました。その後、ゲネプロ(最終稽古)を始めようとしたら、「ちょっと待って」とオーケストラピットに行って、楽譜の冒頭に4数小節くらい書き足されたんです。ぼくはリーヴァイさんが作曲されたミュージカル『マリー・アントワネット』にも出させていただいたんですが、その時もリーヴァイさんが、ぼくの歌声に合わせて最後の旋律を変えてくれたことがありました。

 ええ! すごいですね!!!

田代 オペラには300年以上の歴史がありますが、ミュージカルは50年前の作品が古いと思われるほど、まだまだ創世記の文化。でも、とんちゃんが今度出演する『ザ・ビューティフル・ゲーム』の作曲者であるロイド=ウェバーさんの作品はきっと100年後も残っているでしょうし、リーヴァイさんやロイド=ウェバーさんは、未来ではモーツァルトのようになっていると思います。それに、この先『オペラ座の怪人』や『レ・ミゼラブル』を超える作品が現れるかもしれない。そういう作品で自分が初演キャストになれるかもしれない。そう考えると、ミュージカルは夢のある世界だと思います。

 すごい! 本当に夢があります。

田代 ぼくがとんちゃんを初めて見たのは『スカーレット・ピンパーネル』(2017年)に出ていた時でしたが、『マタ・ハリ』の再演の時にそのイメージで会ったら、ものすごく大人びていて芯が太くなってる気がしたんですよね。ぼくの中で、とんちゃんは日本のヒュー・ジャックマン! いつかジャン・バルジャン(『レ・ミゼラブル』の主人公)を演じてほしいし、(同じくヒュー・ジャックマンが主演した)『グレイテスト・ショーマン』の舞台化があったら、やってほしいな。

 うれしい!がんばります!! 万里生さん、今日は本当にありがとうございました!!

聞き手/道丸摩耶(産経新聞)
イベント撮影/吉原朱美



東啓介(Higashi_Keisuke)
1995年7月14日生まれ。2013年デビュー。『5DAYS 辺境のロミオとジュリエット』『命売ります』『Color of Life』などの作品で主演を務める。近年はミュージカル界の新星として頭角を現している。2020年11月にはファーストソロコンサートも開催。最近ではミュージカル『イン・ザ・ハイツ』(神奈川・大阪・名古屋・東京公演)やミュージカル『マタ・ハリ』に出演。映像作品でも、NTV「ウチの娘は、彼氏が出来ない‼︎」やTBS火曜ドラマ「ファイトソング」などに出演し話題に。最近では、TX木ドラ24「チェイサーゲーム」やMBS「闇金ウシジマくん外伝 闇金サイハラさん」に出演。2022年10月~12月ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』にボブ・ゴーディオ役で出演。2023年1月にはミュージカル『ザ・ビューティフル・ゲーム』にトーマス役で出演中。
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田代万里生(Tashiro Mario)
1984年1月11日生まれ。東京芸術大学 音楽学部 声楽科テノール専攻卒業。3歳からピアノを学び、7歳よりバイオリン、13歳よりトランペットを始め、15歳から本格的に声楽を学ぶ。大学在学中の2003年「欲望という名の電車」で本格的にオペラ・デビュー。2009年『マルグリット』のアルマン役でミュージカル・デビューを果たし、以降数々の作品に出演している。近年の主な出演作に『エリザベート』『ガイズ&ドールズ』『ラビット・ホール』『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』『ジャック・ザ・リッパー』『マタ・ハリ』『スリル・ミー』『マリー・アントワネット』等。第39回菊田一夫演劇賞受賞。23年『マチルダ』『アナスタシア』出演予定

Stage Information

ミュージカル『エリザベート』

脚本・歌詞:ミヒャエル・クンツェ
音楽・編曲:シルヴェスター・リーヴァイ
演出・訳詞:小池修一郎
製作:東宝

出演:
エリザベート:花總まり、愛希れいか
トート:山崎育三郎(東京公演のみ)、古川雄大、井上芳雄(福岡公演のみ)
フランツ・ヨーゼフ:田代万里生、佐藤隆紀
ルドルフ:甲斐翔真、立石俊樹
ルドヴィカ / マダム・ヴォルフ:未来優希
ゾフィー:剣幸、涼風真世、香寿たつき
ルイジ・ルキーニ:黒羽麻璃央、上山竜治

公演日程:
■東京公演/帝国劇場 2022年10月9日~11月27日
■愛知公演/御園座 2022年12月5日~21日
■大阪公演/梅田芸術劇場メインホール 2022年12月29日~2023年1月3日
■福岡公演/博多座 2023年1月11日~31日

公演公式サイトはこちら

Stage Information

『ザ・ビューティフル・ゲーム』

作曲:アンドリュー・ロイド=ウェバー
作詞:ベン・エルトン
上演台本・演出:瀬戸山美咲
振付:ケイティ・スペルマン

出演:小瀧望(ジャニーズWEST)、木下晴香、東啓介、豊原江理佳、加藤梨里香
新里宏太、皇希、木暮真一郎、益岡徹  ほか

■東京公演:2023年1月7日(土)~26日(木)日生劇場
■大阪公演:2023年2月4日(土)~13日(月)梅田芸術劇場 メインホール

公演公式サイトはこちら

【アンケート結果】

「東啓介と聴活」アンケートにご協力いただいた皆様、ありがとうございました!
集計結果をお知らせします。

 コラムを読んで観たくなった作品(1~3作品を選択)
1位 「Dear Evan Hansen」
2位 「モーツァルト!」
3位 「RENT」

 東さんに歌ってもらいたい曲
1位 モーツァルト!「僕こそ音楽」
2位 ミス・サイゴン「神よ、なぜ」
3位 エリザベート「闇が広がる」
   ジキル&ハイド「時が来た」
   マタ・ハリ「普通の人生」 

 東さんに演じてもらいたい役
1位 モーツァルト(モーツァルト!)
2位 アンジョルラス(レ・ミゼラブル)
3位 トート(エリザベート)

今後とも、東啓介さん、
そしてコラム「聴活」をよろしくお願いいたします!

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