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【観劇コラム】ミュージカル『ラグタイム』▷記念すべき大作

この作品の記念すべき日本初演に立ち会えたことを感謝したい。そう心から思える圧巻の大作だった。

1998年のブロードウェイ初演以来、世界中で何度も上演されてきた名作ミュージカル『ラグタイム』。最優秀脚本賞などトニー賞で4部門を受賞したミュージカル叙事詩が、四半世紀をへて、いよいよ今年9月、名門・日生劇場で日本上陸を果たした。

舞台は20世紀初頭、激動の時代のアメリカ。ラトビアからのユダヤ系移民、裕福な白人家庭、そして才能あふれる黒人ピアニスト。状況も人種も異なる3者がドラマを織りなす。設定だけ聞けば硬派だ。はたして日本でどれほど共感をもって受け入れられるだろうか…その懸念は冒頭で一瞬で崩れ去る。


写真提供/東宝演劇部

冒頭、舞台に歩み出る、粗末な身なりに包んだ男。ラトビアから、娘を守るためにアメリカへとやってきたユダヤ系移民・ターテ(石丸幹二)が現れ物語が始まる。

幕開けを飾る一曲にして、物語自体を貫く《♪Ragtime》。作品のタイトルともなっている「ラグタイム」とは、19世紀末から20世紀初頭にかけて流行した黒人発の音楽スタイルだ。

真っ白な貴族的衣裳に身を包んだ白人、鮮やかな色彩の黒人、黒と灰色のボロきれをまとう移民。この色彩が象徴する3つの人種が、かわるがわる舞台に現れて歌い上げるが、彼らは決して交わることがない。物語のテーマを端的に提示するこの出だしの鮮やかさよ。


写真提供/東宝演劇部

かたちを変えて繰り返されるメロディの巧みさ、ビッグカンパニーから発される音の分厚さ。とにかく“歌”なのだ、この作品は―。そう、見るものも覚悟を決めざるを得ない。

物語の軸となるのは、圧倒的な求心力の石丸ターテのほか、黒人ピアニスト、コールハウス・ウォーカー・Jr(井上芳雄)と、裕福な美しい白人女性、マザー(安蘭けい)。井上は、前半の体の内側からリズムがあふれ出るようなセクシーで弾ける演技から一転、後半は鬼気迫るドラマティックな演技へと、その変貌が素晴らしい。新境地を拓いたのではないか。そして安蘭は、裕福で賢く、理解のある白人女性…という、理想的すぎてある意味では難しい役柄の中に、自立を求める女性という人間らしさを吹き込んだ。姿かたちだけではない、人間としての芯の強さ、美しさを体現した。

さらに、マザーの弟のヤンガーブラザー(東啓介)と、コールハウスの恋人のサラ(遥海)も、若い才能を思う存分ぶつけてくる。東はおそらく、作中で最も変化を遂げる役柄なのだが、青年ならではの高揚感や夢、揺れ動く心を瑞々しく演じた。そして、遥海は、ひとこえで日生劇場の空気をひきつけるおそろしいほどの歌唱力。


写真提供/東宝演劇部

新しいリズム、新しい時代のうねりを作り出していく彼らに対して、新しい音楽になじめない者もいる。マザーの夫で工場経営者のファーザー(川口竜也)も、そんな苦悩に満ちた人物を陰影深く演じきった。

序盤の石丸、安蘭、川口の《♪Journey On》 は、立場も人種も異なる人物が、同じメロディを歌うという、まさにミュージカルの醍醐味を味わえる一曲だった。井上と遥海の希望あふれる《♪The Wheels of a dream》、魂ふるえる大合唱《♪Till We ReachThat Day》、安蘭と石丸のしっとりとした歌声で聴かせる《Our Children》など、名曲は、もはやあげればきりがない。

この怒涛の名曲が観客の胸を震えさせるのも、トニー賞最優秀脚本賞を受賞した脚本ゆえ。それぞれの役が、自分自身を三人称で語るなど、演劇的な手法が特徴的だ。実在の人物や歴史上の出来事なども織り交ぜながら、人間と人間がぶつかり合い、最後の最後で感動が爆発する完璧な構成は、さすがは名手、テレンス・マクナリー。韻を踏んだ歌詞とともに、違和感なく日本語で紡ぎなおした翻訳・小田島恒志、訳詞・竜真知子の手腕も素晴らしい。

そして、このカンパニーを率いた演出の藤田俊太郎。正確なまなざしでこの壮大な作品の日本初演という仕事を見事に成し遂げた。

キャスト、スタッフ。それぞれの年代に、これだけの才能がきらめく、2023年のいまだからこその日本初演なのだと実感させられた。

取材・文/塩塚 夢(産経新聞社)

Stage Information

ミュージカル『ラグタイム』

脚本:テレンス・マクナリー
歌詞:リン・アレンズ
音楽:スティーヴン・フラハティ
演出:藤田俊太郎
振付:エイマン・フォーリー

石丸幹二、井上芳雄、安蘭けい
遥海、川口竜也、東啓介、土井ケイト、
綺咲愛里、舘形比呂一、畠中洋、EXILE NESMITH  ほか

公演日程:
【東京公演】
2023年9月9日(土)~9月30日(土) 日生劇場

【大阪公演】
10月5日(木)~10月8日(日) 梅田芸術劇場メインホール

【愛知公演】
10月14日(土)、15日(日) 愛知県芸術劇場大ホール

公演公式サイトはこちら

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