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MUSICAL/PLAY

【観劇コラム】オフ・ブロードウェイ・ミュージカル『マーダー・フォー・トゥー』

役をまとう。
たった2人のキャストで13ものキャラクターを演じるオフ・ブロードウェイ・ミュージカル『マーダー・フォー・トゥー』。その最大の魅力は、俳優が役柄を次々にまとって見せるところだ。

ステージが始まり上手側・下手側のドアから登場した坂本昌行さん、海宝直人さんはにこやかな笑顔を見せ、客席に向かって手を振る。そこにいるのは、自然体な素のお二人のよう。舞台中央にあるピアノに近づいた二人は先を争って演奏しようとする。やがて海宝さんのピアノ演奏に合わせて、坂本さんが人気ミステリー作家アーサー・ホイットニー殺人事件の模様を演じる。坂本さんがさまざまな容疑者たちを次々に演じるのだ。坂本さんから容疑者たちへ、そして海宝さんから事件を捜査するマーカスへ、役をまとう様を私たちは目撃する。

「役をまとう」ということ、そして、本作の演出がScott Schwartzさんといえば、海宝さんが日本初演キャストを務めたミュージカル『ノートルダムの鐘』(Scott Schwartzさん演出)のカジモド登場シーンを連想する人もいるかもしれない。作品の方向性や描くものはまったく違うけれど、「演劇が無から有を生み出す」という点ではこの2作品は共通する。

坂本さんは殺人事件の容疑者たち=アーサーの妻でお喋りなダーリア、妖艶なプリマ・バレリーナのバレット、活発な女子学生のステフ、守秘義務を破る精神科医グリフ、少年合唱団の男の子たち等、さまざまな人物へ瞬く間に変身する。しかも驚くべきは、髪形も衣裳も同じままで、年齢も性別もやすやすと飛び越えていくこと。声も振る舞いもしっかりと特徴づいていて、誰を演じているかすぐわかる。いや、演じているというより、眼前にそのキャラクターが出現するのだ。想像力が刺激され、それぞれの役がありありと見えてきて、まるで魔法にかかったようだ。捜査官・マーカスが坂本さん演じるバレットに質問しようとすると「まだ私よ」とステフに瞬時に変わるところなど、意表を突いた変身ぶりに抱腹絶倒! 本作の初演で第24回読売演劇大賞・優秀男優賞を受賞した坂本さんが今回の再演にあたってさらに上を目指して取り組んだパフォーマンスは圧巻の一言だ。 

観客がイマジネーションを働かせる手助けとなるのは、海宝さん演じるマーカスだ。明晰な口跡でアガサ・クリスティーばりの推理劇のストーリーをしっかりと観客に伝える。坂本さんが演じる多彩な容疑者たちに対応するマーカスの「受け」の演技が明確だからこそ、キャラクターたちの特徴や関係性が浮き彫りになる。定評ある歌声はミュージカル作品としての魅力を豊かに彩る。確かな実力に裏打ちされた海宝さんが演じることで、事件解決に奮闘するマーカスの必死さがより際立って感じられ、思わす笑いが込み上げる。

4人の出演者で多数の役を演じる『THE 39 STEPS』や主役が8人の被害者を演じる『紳士のための愛と殺人の手引き』など一人が多数の役を演じる作品は他にもある。しかし、『マーダー・フォー・トゥー』が他と一線を画しているのは、二人が役を演じるだけでなくピアノ演奏も兼ねている点だ。

2013年のオフブロードウェイでの初演は音楽のJoe Kinosianさんが容疑者役を演じていた。ピアノが堪能であろうKinosianさんだからスタートした設定かもしれないが、俳優の坂本さん・海宝さんが全編のピアノ演奏も担当するというのは驚くべきことだ(例えば、韓国でもこの作品は上演されているが、演奏はピアニストが担当している)。坂本さんがアリバイや打ち明け話を歌うときには海宝さんがピアノを奏で、海宝さんが謎解きをしようと歌うときには坂本さんが巧みに鍵盤上に手を滑らせる。二人がピアノの高音部と低音部を同時に行き来しながら、軽快にピアノ曲を一緒に奏でる場面では胸が躍った。 

異なる出自を持つ二人は今回が初共演だが、息の合ったパフォーマンスを見せる。特に、海宝さん演じるマーカスの台詞に合わせて坂本さんが複数の役をパントマイムで演じるシーンは、まるで一心同体のようだ。観客を夢の世界に連れて行くには、素晴らしい俳優二人が演じるだけでいい。大がかりな舞台美術もオーケストラ演奏も必要ない。坂本さんと海宝さんが生み出す化学反応は、ミュージカルの持つパワーをもっともシンプルに伝えてくれる。

文/大原 薫(演劇ライター)
撮影/吉原朱美

Stage Information

オフ・ブロードウェイ・ミュージカル『MURDER for Two マーダー・フォー・トゥー』

作:KELLEN BLAIR
音楽:JOE KINOSIAN
演出:SCOTT SCHWARTZ & J.SCOTT LAPP
翻訳:北丸雄二
訳詞:高橋亜子
音楽監督:岩崎廉
振付:本間憲一

出演:坂本昌行 海宝直人

【東京公演】2022年1月8日(土)〜1月23日(日) Bunkamura シアターコクーン
【大阪公演】1月26日(水)〜2月1日(火) 森ノ宮ピロティホール
【仙台公演】2月8日(火)、9日(水) 仙台電力ホール
【松本公演】2月12日(土)、13日(日) キッセイ文化ホール(長野県松本文化会館)大ホール

【Story】

偉大なアメリカ人作家のアーサー・ホイットニーが、自らのバースデーパーティーの席で銃に撃たれ、致命傷を負って殺された。現場から1時間と、最も近い町にいた新米刑事マーカスは、寡黙な相棒のルーを引き連れ現場に向かう。個性豊かな容疑者たちが立ちはだかる。

犯人はアーサーの有名女優の妻 ダリアか?それとも第一容疑者として疑われている、プリマドンナのバレットか? はたまた馴れ馴れしい態度で接してくる、精神科医のグリフか?ベテラン刑事が到着するまでの限られた時間の中で、事件を翻弄する容疑者たち。果たしてマーカスは真犯人を見つけることができるのか?

時間は限られている、急げマーカス!
逃げ切れるか真犯人!

音楽と騒乱と殺人事件が、完璧な配分でブレンドされたミュージカル。2人の役者が演じるのは、計13人のキャラクター。全編生ピアノ、捧腹絶倒のステージ!

公式サイトより

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