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【ゲネプロレポート】ミュージカル『王様と私』▷この時代だからこそ届く美しさ

なんと美しいグランド・ミュージカルであることか。4月9日から東京・日比谷の日生劇場で開幕した往年の名作『王様と私』。8日に行われたゲネプロでは、ミュージカル初挑戦となる北村一輝と明日海りおが、分断と不寛容のこの時代にこそ輝く物語を美しく謳いあげた。

オーケストラが奏でる美しい旋律を聞けば、心が浮き立つ。言わずと知れた名作である。だが、なぜこの時代に。演出の小林香率いるカンパニーは、きっと何度も問いかけたことだろう。近代化を目指すシャムの王様(北村)と、子供たちの教育のために招かれたイギリス人未亡人・アンナ(明日海)。小林はそんなふたりを、「地球の反対側から歩いてきたような人たち」と表現した。一方は欧米による植民地支配から免れ、独立を保つ専制君主。一方は新時代の権利意識の高い教師。確かにふたりは正反対なのだ。だが、共通点がひとつ。それは、どちらも「誇り高い」こと。

主演のふたりが、それぞれに異なる誇り高さを実に見事に体現してみせた。北村は、せっかちで独善的だが、好奇心が強く、憎めない王様がハマり役。金色の宮殿に君臨する王の圧倒的なオーラを示しながら、王国の将来に懊悩する一人の人間としての弱さも等身大に演じる。

制作会見でこそ、「歌は初めて。人様にお金をいただけるようなものを演じられるか…」とオファーを受けたときのとまどいを明かしていたが、これがどうして。《A Puzzlement》をはじめとした名曲を、パワフルな美声で魅せた。肩の力の抜き加減が実に〝王様〟。そのカリスマ性と人間性で、演劇空間を自在に操ってみせた。国王という立場を超えて、人を魅了するチャーミングさ。きっと誰もが、北村の王様を好きになってしまうはずだ。

対するは明日海。このたたずまいの美しいことといったら。冒頭、純白のドレス姿で船の甲板に凛と立つ姿から、一気に観客を惹き付ける。しっかりと権利を主張する強い女性でありながら、鼻につくところがない。夫に先立たれ、残された息子とたったふたり、見知らぬ異国に乗り込む不安。

その不安を吹き飛ばす《I Whistle a Happy Tune》。怖いときは口笛を吹こう、見せかけの強さでも、信じればきっと勇気になる―。本作のテーマとなる一曲を、チャーミングに歌い上げる。タイ王室の妃たちが、初めてみたアンナの裾が大きく膨らんだ西洋風のドレスに「どんなに大きな体なのかしら?」と不思議がるシーン。あっけらかんとスカートをめくる所作とキュートな表情に、きっと誰もが明日海アンナに惚れてしまうはずだ。

物語のもうひとつの軸となるのが、王に献上された踊り子のタプティム(朝月希和)とその恋人ルンタ(竹内將人)の悲恋。ふたりとも張りのある抜群の歌唱力で、若いふたりの強い想いをビビッドに演じてみせた。第一夫人のチャン王妃(木村花代)やイギリスの外交官・ラムゼイ卿(中河内雅貴)らも盤石の演技力で舞台を支えた。そして王子・王女たちを演じる子どもたちのかわいらしさといったら!思わず笑みがこぼれる。

翻訳と訳詞も手掛けた小林は、異なる文化に属する人間同士が分かりあうことの美しさを、非常に誠実に掬い上げてみせた。知らない人はいないだろう名曲《Shall We Dance?》にのせ、王様とアンナが手を取り踊る場面はその最高潮だ。ため息の出るような美しい舞台セットや衣裳には、実際にタイを訪れて取材したというタイ文化への敬意があふれる。

そしてその次に訪れるシーンで、分かりあうことの困難さも、痛々しいほどに描く。けれど絶望を乗り越えていくものはただ、文化と文化でなく、人間と人間が互いに好きになることなのだということを、ごくごく自然に伝えてくる。それはやはり、主演ふたりの魅力ゆえなのだ。

劇中で皇太子のチュラロンコン王子(立石麟太郎/前田武蔵、この日は前田)と、アンナの息子・ルイス(木村亜有夢/田中誠人、この日は田中)が、大人たちをみて「確かなものは何一つないと分かるために人は大人になる」というように、私たちは不完全だ。だが、不完全だからこその美しさが、きっとこの2024年の『王様と私』にはある。

(前列)王様/北村一輝さん、アンナ/明日海りおさん
(後列左から)ルンタ/竹内將人さん、タプティム/朝月希和さん、チャン王妃/木村花代さん、クララホム首相/小西遼生さん、オルトン船長/今拓哉さん、ラムゼイ卿/中河内雅貴さん

取材・文/塩塚 夢(産経新聞社)
撮影/吉原朱美



Stage Information

ミュージカル『王様と私』

音楽:リチャード・ロジャース
脚本・歌詞:オスカー・ハマースタインⅡ
翻訳・訳詞・演出:小林 香
振付:エミリー・モルトビー

出演:王様/北村一輝 アンナ/明日海りお

タプティム/朝月希和
ルンタ/竹内將人
チャン王妃/木村花代
ラムゼイ卿/中河内雅貴
オルトン船長/今 拓哉
クララホム首相/小西遼生  ほか

【東京公演】日生劇場
2024年4月9日(火)~4月30日(火)

【大阪公演】梅田芸術劇場 メインホール
2024年5月4日(土)~5月8日(水)

公演公式サイトはこちら

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