『1789-バスティーユの恋人たち-』などで知られるフランスの作曲家、ドーヴ・アチア氏が手掛けるミュージカル『キングアーサー』て演出を手掛ける韓国気鋭の演出家、オ・ルピナさんと、主人公、アーサー(浦井健治さん)の前に立ちはだかる最強の騎士、メレアガンを演じる加藤和樹さん(伊礼彼方さんとWキャスト)のスペシャル対談<後編>をお届けします!
※<前編>はコチラへ
日本の繊細な表現を大事に
――「キングアーサー」の見どころはどこでしょうか
加藤(敬称略) 韓国の『キングアーサー』は観劇できなかったんですが、韓国ミュージカルの俳優の力強さ、歌の表現力は本当にすばらしく、いろいろな作品を見させていただいています。今回、この作品を自分たちがやるとなった時に、どう日本らしくできるかをまず考えました。日本人のお芝居に対する繊細な感性をミュージカルで表現できれば、より良いものになるんじゃないか。ルピナさんのヒントを元に我々がキャラクターを愛し、その内面を表現できれば、フランスとも韓国とも違う日本らしい『キングアーサー』になるんじゃないかと思います。
稽古場写真撮影:田中亜紀
ルピナ(敬称略) 日本人の繊細さはすごく感じています。俳優の皆さんももちろんですが、スタッフさんも。仕事が丁寧で、必要なものを前もって準備してくださる。私が言うひとことひとことをしっかり聞いていてくださる。その分、お稽古のスピードはゆっくりですが……。
加藤 え? ゆっくり?
ルピナ 韓国で演出するときはもっと速く進めます。韓国人は待つことができないし、特に私は韓国の演出家の中でもせっかちで、速く作る方だと思います。だから今、日本で待つことを学んでいます。
加藤 (爆笑)。
ルピナ 少し待っていれば、次のシーンで俳優はこういう準備をして、スタッフもすごく丁寧に、細かく準備をしてくださると分かったので、感動することが増えました。その分、全体を見る余裕ができています。
加藤 我々は今回、お稽古のスピードが速いなぁと思っていたから、びっくりですよ(笑)。本番まであと1ヶ月ある状況で、2幕までやれているんですから。
ルピナ いつもの日本のシステムより速い?
加藤 全然、速いです!!! 普段の稽古なら、開幕1ヶ月前はたぶん1幕通しをしているくらいです。日本人はゆったりしているので、このペースに驚いています(笑)。だからこそいいのは、いい意味で役者が焦ること。ルピナさんが求めるものについていかなきゃ、と燃えています!
ルピナ 韓国でやるときも、私は早い段階で最初から最後まで終わらせますね。ひとつのシーンだけを突き詰めていくと全体が違う方向に行ってしまう恐れがあるので、早い段階で全体を見るようにしているんです。そうすると俳優もスタッフも、この場面は全体の中でこういう部分なんだと分かり、何が足りないかが見えてきます。そして通しをたくさんすると、ブラッシュアップできて、俳優の皆さんも自分で探せることが多くなるんです。
――韓国発のミュージカルは、スピード感があると感じることはありましたが…
加藤 こちらが息をつく暇があまりない作品が多いですよね。暗転が少ないイメージもあります。観客の気持ちが途切れないというか。演じている側は大変かもしれませんが……。
ルピナ 韓国はお客さんもせっかちなんです。
加藤 (笑)。
ルピナ お客さんも待っていられない(笑)。暗転すると、『なんで暗転するの?』って思われちゃう。全部つなげなきゃいけないし、スピーディーにしないといけないんです。韓国でオリジナル作品を作る上で一番悩むのが、スピード感。本当はゆっくり、俳優のポーズをたくさん作りたいシーンでも、そうしていいか悩みます。以前、ある作品で、照明が付くまで40秒かかるようにしたら、スタッフが『大丈夫?』『退屈じゃない?』と何度も確認してきたくらい。ゆっくりやるというのが、韓国の人には本当に難しいんです。
加藤 役者としては全体の通しを何回もやれた方がいいに決まっているし、スタッフさんもそうだと思います。足りないところは、抜き稽古で補っていくのがベストですよね。ただ、アンサンブル、ぼくはアンサンブルという言い方はあまり好きじゃないんですが、彼らは本当に大変だと思います。皆さんほとんどシングル(キャスト)だし、踊りもお芝居もあって息つく暇がない。運動量に換算したらとてつもないと思います。この作品を彩ってくれる彼らには、本当に頭が上がりません。
ルピナ 日本の他のカンパニーを経験したことはないですが、今回のカンパニーは俳優もスタッフもいい人たちばかりで、こんなに運が良くていいのかな、と毎日楽しくお稽古しています。和樹さんは、最初にお稽古場に来た時から、いい人、優しい人というオーラが伝わってきて、外国から来た私が環境にまだ慣れない中で、初めからすごく気を使ってくれましたよね。すごく心の支えになりました。
加藤 ありがとうございます(韓国語で)。
ルピナ 他のスケジュールの関係で和樹さんが稽古場にいないと、不安になります。あ、和樹さんがお稽古をよく休んでいるということじゃないですよ? 前に1回、他のスケジュールで来られなかったときがあったんです。寂しかったなあ(笑)。
加藤 この先は大丈夫です!(笑) ぼくは韓国の文化やミュージカルにすごく惹かれるので、こうしてルピナさんと一緒にやれるのはすごくプラスなこと。日本の皆にとってもすごく良いことだと思います。韓国と日本は地理的にも近いですし、お互い良い部分を交換し合って、刺激し合えると素敵ですよね。ルピナさんが韓国に戻られた時、ルピナさんから受け取ったものを糧に変えていける気がします。
メレアガン役/加藤和樹さん(右)、モルガン役/安蘭けいさん ※稽古場写真撮影:田中亜紀
――いつか加藤さんにも韓国の舞台に立ってほしいです
加藤 自分のことは自分が一番よく分かっているので、まだまだだと思います。でも、韓国の俳優さんと接する中で、かなわないと思ったままにするのはすごく悔しいんです。今回、ルピナさんが来てくださったことは刺激になりましたし、ひとつひとつやれることを地道に…。コミュニケーションが取れる事は大切ですから、韓国語もしっかり勉強したい。もっと早くからやっておけばよかったと後悔していますが(笑)。
ルピナ 私もまた日本で演出したいです。プロデューサー、また呼んでください(笑)! 和樹さんも、韓国で舞台に立ってください。稽古があまりに速くてびっくりするかもしれませんが、鍛えられると思います。朝10時から夜10時まで稽古をするので、ご飯を食べないともたないですよ。ご飯休憩が1時間ずつ、2回あります(笑)。
加藤 わかりました(笑)! 今回の『キングアーサー』は楽曲の印象が強い作品ですが、その中で生きるキャラクターが何を背負い、どう人と接して自分が歩む道を選択していくのか。そこには、我々の日常生活に通じるものがあると思います。壮大なエンターテイメントの中に詰め込まれたメッセージを受け取ってもらえたらうれしいです。
ルピナ お客さまはショーを楽しみに来てくれるかもしれません。もちろんショーもありますが、ストーリーを細かく演じる俳優さんのキャラクターや関係性も見てほしいです。この作品を、私たちが生きる世界に重ねて考えられるきっかけにしてもらえればいいなと思います。
稽古場写真撮影:田中亜紀
通訳/キム・テイ
取材/文 道丸摩耶(産経新聞)
対談撮影/吉原朱美
加藤和樹(KATO KAZUKI)
2005年ミュージカル『テニスの王子様』で脚光を浴び、2006年4月Mini Album『Rough Diamond』でCDデビュー。毎年CDリリースや単独ライブ、全国ライブツアーを実施するなど、音楽活動を精力的に行っている。2009年韓国、台湾、中国でCDデビューを果たす。俳優としてはドラマ・映画・舞台のほか、ミュージカルや声優としても活躍している。2023年1月~3月ミュージカル『キングアーサー』、4月~5月『BACKBEAT』に出演。7月~9月ミュージカル『ファントム』でふたたびファントム役に挑む。第46回(2020年度)菊田一夫演劇賞受賞。
WOWOW「加藤和樹のミュージックバー『エンタス』」でMCを務める。
オ・ルピナ(오루피나)
成均館大学校芸術大学演技芸術学科演出専攻卒業。イ・ジナ氏に師事。演出助手としての活動を経て、2008年、26歳の若さで商業ミュージカル演出家としてデビュー。ミュージカル、ストレートプレイ、児童劇、舞踊劇、マジックショー、コンサートなど幅広く手掛ける。18年に『ロッキー・ホラー・ショー』の演出でイェグリンアワーズ外国ミュージカル部門クリエイティブ賞を、20年に『HOPE』の演出で第4回韓国ミュージカルアワーズ演出賞を受賞。ほか主な演出作品にミュージカル『42ndストリート』『マリーセリー』『ワイルドグレー』『ママドントクライ』『黒い司祭たち』『影を売った男』『GOOD BYE,イサン』、舞台『カポネ トリロジー Capone Trilogy』『アンニョン ヨルム』など。また『デスノートTHE MUSICAL』韓国プロダクション(15・17/栗山民也演出)に演出捕として参加。ミュージカル『キングアーサー』は韓国プロダクション(19・22)に続いての演出。日本での演出は今回が初。
Stage Information
ミュージカル『キングアーサー』
日本版台本・演出:オ・ルピナ
翻訳・訳詞:高橋亜子
音楽監督:竹内聡
演出家通訳/台本下訳:キム・テイ
アーサー:浦井健治
メレアガン:伊礼彼方/加藤和樹 (Wキャスト/五十音順)
ランスロット:太田基裕/平間壮一 (Wキャスト/五十音順)
グィネヴィア:小南満佑子/宮澤佐江 (Wキャスト/五十音順)
ガウェイン:小林亮太
ケイ:東山光明
マーリン:石川禅
モルガン:安蘭けい 他
【公演日程】
■東京公演/新国立劇場 中劇場 2023年1月12日(木)~2月5日(日)
※1月12日~15日の公演は中止
■群馬公演/高崎芸術劇場 大劇場 2023年2月11日(土祝)~12日(日)
■兵庫公演/兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール 2023年2月24日(金)~26日(日)
■愛知公演/刈谷市総合文化センターアイリス 大ホール 2023年3月4日(土)~5日(日)