フランス王妃、イザボー・ド・バヴィエールの生きざまを描くオリジナルミュージカル『イザボー』が1月15日、東京・池袋の「東京建物Brillia HALL」で開幕します。世界に通用する日本発のミュージカルをクリエイトする、「MOJO(モジョ)プロジェクト -Musicals of Japan Origin project-」の第一弾作品で、どのような作品になるのか気になるところ。タイトルロールであるイザボー(望海風斗さん)の息子、シャルル七世を演じる甲斐翔真さんに、今作に賭ける意気込みや作品について語ってもらいました。
――日本発のオリジナルミュージカルです。どんな作品なのでしょうか
イザボーという女性はそこまで有名ではないですから、初めて名前を聞いた人も多いかもしれません。でも、彼女が歩んできた人生は本当に劇的で、今まで彼女を題材にした舞台作品がなかったのが不思議なくらいです。舞台美術もすごくて、このセットでこんな風に曲を表現するんだ、と僕たちもびっくりしています。アトラクションのような疾走感もあって、皆さんが予想するさらに斜め上を行く作品になりそうです。
(作・演出の)末満(健一)さんとは初めてお仕事をさせていただきますが、以前からエッジの効いた舞台を作るのがとても上手な方だと聞いていました。イザボーは、末満さんがずっとやりたかった題材。日本のミュージカルファンになじみのあるフランスの歴史ものでありながら、固定観念をぶち壊していく作業を目の当たりにして、挑戦をひしひしと感じています。
歌もミュージカルっぽくない、予想を裏切られるような曲調です。口が回らないくらい速い曲もあって、皆でひいひい言いながらやっています。歴史ものなのでそこはないがしろにしてはいけないですが、イザボーがぶっ飛んだ人なので、作品自体もぶっ飛んでいていいんじゃないかなと思います。日本のオリジナルミュージカルを産み落とすという作業は、型を写すのではなく、ゼロからのもの作り。やりたくてもなかなかできないことなので、参加させてもらえるのはとても光栄です。
――演じるシャルル七世はどんな役ですか?
皆はひとつの時代の時間軸を生きているんですが、僕の役はちょっと特殊で、『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』のクリスチャンみたいな、回想しながら過去を語っていく立ち位置です。ある日突然、王になる日が来て、今までフランスで起きていたことと本気で向き合わざるを得なくなります。一番大きいのは母、イザボーのことで、聞きたくもない、知りたくもないことを、育ての親でもあるヨランド(那須凜さん)から聞かされる。子から大人になっていくまでの、王になるための追体験をしていく役です。なので、最初は能動的ではなく、結構受け身なんですね。
なにしろ、イザボーについては母でありながら、最悪の王妃という噂しか知らない。でも、彼女のことを知っていくうちに、その人間味を感じ、自分にも意志が出てきて、心の中に一本の筋が通っていく。母を受け入れることはできなかったとしても、歩き出せる何かを受け取れる。心で分かっていく。受け身だったシャルル七世が能動的になっていくまでのプロセスは、しっかり考えたいと思います。
どんなに憎んでいても、血は繫がっているのが母と子。人間だからこそ、こじれるものがあるのでしょう。母だと信じたくない。でも母だ、という本能的なところと論理的なところのぶつかり合い。そういう言葉にできない何かというのは、共演を多くしてきた望海さんとだからこそ表現できそうな気がしています。
――望海さん始め、共演者は『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』から一緒の人も多いですね
ミュージカルのお稽古は歌稽古から始まるんですが、普通は皆の関係性がまだ薄くて緊張するんですよ。それが今回、まったく緊張せず、すっとカンパニーに入れたのは、『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』で一緒にやっていたメンバーが多くて助けられたからだと思います。プリンシパルだと、那須さん以外は全員共演したことがありますし。『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』で培ったものを持ち込んで、仲の良さをカンパニーの皆に広げて、一緒に日本のミュージカルを作る仲間になっていけたらと思っています。
望海さんとは、お互いのセンスというか、立ち回り方や思考というのがこの数年で何となくわかっているので、「親子の役作り」はあまり必要ないかなと思っています。望海さんは強い女性がとても似合う。今作でも、ファンの皆さんの期待は絶対に裏切らないでしょう。逆に僕からすると、一番の敵であり母であるという役どころなので、望海さんがあまりにも強く生き抜いていくさまを見て、どう太刀打ちしていこうかな、これは大変だなと思っています(笑)。
――太刀打ちするための秘策はありますか?
今までは、そういう対決する役どころは、がむしゃらにパワーで押し切ってきました。でも、本当の強さって、相手の心に問いかけたり、無駄な力を一切使わずピンポイントで相手の心を揺らすことなんじゃないかと思います。皆さん無意識に、日常的に相手の心を響かせていますよね。芝居でそれをやるのは難しいですが、今回は芝居のシーンで母の心を揺らすことに挑戦したいです。
舞台に立たせていただけるというのは本当にすごいことで、僕はひとつひとつの作品でいかに自分をレベルアップしていけるかにこだわってきました。新しいことへの挑戦は自分のキャパシティを広げてくれるので、今回もチャレンジしていけるのが楽しみです。
――大作での大きな役が続いていますが、休みはちゃんと取れていますか?
しっかり取っています! 僕はオンとオフの切り替えがとても得意なんですよ。稽古が終わった瞬間に、秒でオフになります(笑)!稽古や舞台の上で集中して、パッとオフにするのが楽なんです。がっつり寝ますし、健康第一でよく食べています。
芝居を始めたばかりの頃は、家でも台本を見て考えたりしていましたが、台本を見つめている時間よりも、稽古場で実際に立ってしゃべってそこで見つかるものが多いことに気付きました。もちろん台本を掘り下げていく作業も必要ですが、実際に立つことによって分かることは、絶対に見逃しちゃいけないと思っています。感じながら役を深くしていくという作業ができるようになるのが目標です。難しいですが。
――最後に、お客さまへの一言と今年の抱負をお願いします
楽しみにしてくださっている皆さん、得体のしれない作品だと思っているでしょう(笑)? 実は僕らも同じで、形のないものを今、作っていっている最中です。日本人が、日本から何かを生み出そう、世界に挑戦しようという心をもって、一丸となって作っていることに意味があると僕は思っていて、お客さまに、『イザボー』という作品を作る最後の1ピースになってほしいと思います。
2024年の抱負…。うーん…変わらずに(笑)! もちろん仕事の質は上げていきたいし、自分のキャリアも重ねていきたいですが、スタンスは変えてはいけないと思います。僕は、演劇という芸術の中に自分がいるということにすごく誇りを持っているので、演劇、そして芸術を愛する自分は変えないまま、今年どころではなく、この先ずっと、そのスタンスでやっていきたいです。
――実は、甲斐さんを取材させていただくのは3年ぶりでした…! ※その記事はコチラへ
前回は、舞台1年目の時でしたよね。あの時とも僕は全然変わっていないんですよ。もちろん、経験を重ねて引き出しが増えたことで、やれることは多くなりましたけど、真ん中にあるものは全然変わっていない。これからも、スタンスは変えずにレベルアップしていきたいです!
取材・文/道丸摩耶(産経新聞社)
撮影/黒澤義教
スタイリスト/伊里瑞稀
ヘア&メイク/ASUKA(a-pro.)
衣装/ジャケット&パンツ(BALMAIN)
甲斐翔真(Kai Shouma)
1997年11月14日生まれ。東京都出身。2016年「仮面ライダーエグゼイド」パラド役で注目を浴び、その後、映画やテレビドラマに出演。主なミュージカル出演作は、2020年に『デスノート THE MUSICAL』夜神月(やがみらいと)役、『RENT』のロジャー役。2021年にミュージカル『ロミオ&ジュリエット』でロミオ役を務める。2022年~23年ミュージカル『エリザベート』にてルドルフ役に抜擢され、『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』日本初演でクリスチャン役(Wキャスト)を演じ、更なる注目を集めた。2024年3月22日(金)~24日(日)LINE CUBE SHIBUYAにて開催されるSUPER HANDSOME LIVE 2024「WE AHHHHH!」に出演が決定している。本ライブ詳細は公式サイト https://www.handsomelive.com/2024/ へ。
Stage Information
MOJOプロジェクト -Musicals of Japan Origin project-
ミュージカル『イザボー』
作・演出:末満健一
音楽:和田俊輔
主催・企画・製作:ワタナベエンターテインメント
【出演】
イザボー:望海風斗
シャルル七世:甲斐翔真
シャルル六世:上原理生
ジャン:中河内雅貴
ルイ:上川一哉
ヨランド:那須凜
フィリップ:石井一孝
ほか
【東京公演】
2024年1月15日(月)〜30日(火):東京建物Brillia HALL
【大阪公演】
2024年2月8日(木)~11日(日):オリックス劇場
【お問い合わせ】
ワタナベエンターテインメント TEL03-5410-1885(平日11時~18時)
Story
百年戦争の時代。バイエルン大公の娘として生まれた少女は、やがて隣国フランスの王妃イザボー・ド・バヴィエール(望海風斗)となる。夫であるシャルル6世(上原理生)はイザボーをこよなく愛したが、ある出来事を境に狂気に陥ってしまう。破綻した王政につけ入り、権力を掌握しようとするのはシャルル6世の叔父ブルゴーニュ公フィリップ(石井一孝)とその息子ジャン(中河内雅貴)。彼らと対立するシャルル6世の弟オルレアン公ルイ(上川一哉)は、イザボーと不貞の関係となり、彼女が権力を獲得するために助力していく。混沌の時代の中で、イザボーは愛と衝動のままに生き抜こうとする。のちにフランス・ヴァロア朝の第5代国王となるシャルル7世(甲斐翔真)は、義母ヨランド・ダラゴン(那須凜)と共に、実の母であるイザボーの生き様を辿っていくこととなる。フランスの歴史上でもっとも嫌われた最悪の王妃の生きた道を──。