2役への挑戦「おもしろい立ち位置」

出演中のミュージカル『アナスタシア』では今回、ディミトリとグレブいう2つの役に挑戦させていただきました。結末も、生きてきた人生も違うけれど、対アーニャの物語を生きるという意味では共通する2人。共通する部分も相反する部分も、2役をやってみて気づくことがたくさんありました。

今回は特に個々を尊重する演出方法だったので、通し稽古でも他の方のノーツ（ダメ出し）も絶対に聞かないようにと言われていました。そのため、ゲネプロで別キャストを見たときは、ここまで違うのかとおもしろかったです。ディミトリについてもグレブについても、両方のノーツを聞いているのはぼくしかいないので、おもしろい立ち位置にいられたと思います。2役の演じ分けに混乱することはなかったですが、グレブ役の日に楽屋で待機していたら、ディミトリ役で出ているときの音楽が聴こえて、あ、今日は出ていないんだと思うことはありました（笑）。

『アナスタシア』の大阪公演が終わったら、次は日本初演となるミュージカル『ベートーヴェン』、年が明けるとコンサート『ATTENTION PLEASE!2』があります。『ベートーヴェン』では、ベートーヴェンの弟役ということで、井上芳雄さん演じるベートーヴェンと花總まりさん演じる不滅の恋人、アントニーの物語にどうかかわっていけるかが楽しみです。誰もが知る偉大な音楽家であるベートーヴェンですが、今回はこれまでの作品とスポットを当てている部分が違いますし、ベートーヴェンの曲がベースになっている曲も多いそうです。同じウィーンミュージカルの『モーツァルト！』などとはちょっと違う仕上がりになっているかもしれません。ベートーヴェンとその弟、という2人の関係性をしっかり描けたらと思っています。

しっかり発信していける役者に

続く『アテプリ2』は、年初ということで、とにかく楽しんでいただける、幸せな気持ちで劇場を出ていただける企画になったらいいなと思って準備を進めています。前回より音楽的にもパワーアップできそうで、信頼できるスタッフ、キャストと作っていけるのは楽しいです。前回はそれぞれのクルーの個性も際立っていましたし、今回もどうなるのか、今から楽しみです。

それにしても、もう来年の舞台の話をする時期なんですね。1年が過ぎるのが速いです。今年は『アテプリ』『ダ・ポンテ』と、オリジナル作を一から作る大変さと楽しさを経験させてもらいました。ライブツアーもあり、すごく濃い1年でしたね。特に『ダ・ポンテ』は楽曲も脚本も何もないところからのスタートで、乗り越える壁も高かったですが、得るものも多かったです。アイデア出しからセリフまで、自主的に考えて形にする機会が増えた1年でした。

来年も、『アテプリ2』で演出スーパーバイザーとして構成や演出にも関わらせていただき、クリエイティブなことに関わる機会は続きそうです。年齢を重ねるにつれ、自分より若い世代も増えていくので、彼らを引っ張っていく立場として、言うべきことはしっかり発言し、自分から発信していける役者になりたいと思います。

取材・構成／道丸摩耶（産経新聞社）
撮影／三尾郁恵（産経新聞社）
ヘア＆メイク／三輪昌子
スタイリスト／津野真吾(impiger)
衣装協力／Saint Laurent by Anthony Vaccarello

海宝直人 (Kaiho Naoto)
1988年生まれ。千葉県出身。7歳で劇団四季『美女と野獣』でデビュー。その後も舞台を中心に活躍中。主な出演作は『アナスタシア』『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』『ノートルダムの鐘』『アラジン』『ライオンキング』など。2012年に始動したロックバンド「シアノタイプ」のライブ活動では、ヴォーカリストとしての新たな魅力でファン層を拡大中。第46回（2020年度）菊田一夫演劇賞を受賞（『アリージャンス忠誠』のサミー役、TOHO MUSICAL LAB. 『Happily Ever After』男役の演技に対して）。
12月は日生劇場で日本初演ミュージカル『ベートーヴェン』に出演。2024年は海宝直人コンサート『ATTENTION PLEASE!2』が1月26日（金）市川市文化会館、1月30日（火）～2月16日（金）シアタークリエ、3月6日（水）～9日（土）梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで上演が決定している。