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COLUMN

【MICHIMARU劇評】『ジャージー・ボーイズ イン コンサート』

 新型コロナウイルスの感染防止のため会話のない静まり返った客席に、音合わせをするオーケストラの音が響く。配信映像では味わえなかった生の音色に、ここは劇場なのだと喜びに胸が震えた。7月23日午後1時半、「Endless Shock!」が2月28日に公演中止となって以降、実に148日ぶりに帝国劇場に観客が帰ってきた。

 再開を飾ったのは、「フランキー・ヴァリ&ザ・フォーシーズンズ 真実の物語」と銘打たれたミュージカル「ジャージー・ボーイズ(JB)」のコンサート版である「ジャージー・ボーイズ イン コンサート」。唯一無二の歌声を持つ米ニュージャージー出身の歌手、フランキー・ヴァリと、彼がリードボーカルを務め1960年代に大ヒットしたロックポップスグループ「フォー・シーズンズ」の栄光と挫折の物語だ。米ブロードウェイで05年に開幕し、トニー賞ミュージカル作品賞などを受賞。14年にはクリント・イーストウッド監督によって映画化もされた。

 日本では16年にシアタークリエで日本人キャストで初めて上演され、第24回読売演劇大賞の最優秀作品賞を受賞。トゥワング(高音発声)を自在に操り観客の度肝をぬいたフランキー役の中川晃教は同大賞の最優秀男優賞に輝き、再演でも唯一無二の日本のフランキーとして歌い続けている。今回は劇場をクリエから帝劇に移しての再々演だが、新型コロナの感染拡大を受けて、約1時間短い1幕もののコンサート形式に変更。日本のJBチームは18年に東急シアターオーブで世界初のコンサート版を2日間上演した実績があり、本国と培ってきた信頼がこの非常時に生きた。

 「ジャージー・ボーイズ、復活しました。帝国劇場の再開です」の開幕アナウンスに、客席から大きな拍手があがる。前回同様、ペンライトは使用可能だが、うっかり出そうになる歓声は我慢しないといけない。ソーシャルディスタンスが気になる時期、メンバーがぶつかり合うシーンなどストーリー部分は、過去映像をスクリーンに映すなどの工夫がみられた。当初予定されていた中川以外の主要キャストの役替わり(チームブラックとチームグリーン)も、コンサート版では同じ役の2人の役者が同時に舞台に登場する。しかし、結果としてこの演出が、役者の個性を際立たせ、人物を多面的に描き出す効果につながった。


写真提供 / 東宝演劇部

 物語は、メンバー4人を春、夏、秋、冬の季節に分け、それぞれの視点でヒストリーを語らせる。トミー・デヴィート(藤岡正明、尾上右近)の語りで始まる「春」では、JB初出演の尾上の小気味良いはっちゃけぶりが新鮮で、どうしようもない男の中に絶妙な魅力を醸しだす藤岡との差異がおもしろい。

 フォー・シーズンズの作曲家、プロデューサーとしてグループをヒットさせたボブ・ゴーディオ(矢崎広、東啓介)が語る「夏」では、2人の歌唱が対照的だ。東がソロで高音を響かせたと思えば、初演からボブを演じ続ける矢崎は丁寧に歌い上げる。「Dawn(悲しき朝やけ)」では、ダブルキャストの全員が登場。中川を中心に7人のハーモニーが結実し、グループの充実期がストレートに伝わってきた。

 メンバーの金銭問題、女性関係などによりグループが瓦解していく「秋」は、グループを脱退するニック・マッシ(spi、大山真志)のパート。18年から同役で参加しているspiと初挑戦の大山が、ともに輪に溶け込めない男の疎外感を表現し、暗い気分に沈む客席を深みのある歌声で救った。
 そして、四季(フォーシーズンズ)のラスト「冬」はフランキーのパート。ミラーボールが回る中で歌われる代表曲「Can’t Take My Eyes Off Of You(君の瞳に恋してる)」は日本語で歌われ、「やっと本当の愛に出合えた」「君こそ奇跡だ」などの歌詞に、生の舞台を見ることができる奇跡が重なる。


写真提供 / 東宝演劇部

 中川は客席からペンライトの光が見えたとき、観客の前で上演できたことを実感したという。多くの舞台が「自粛」を迫られた期間、今もなお歌い続けるフランキーの生き方に自身を重ね、「こんな時代だからこそ努力して技術を磨き、どうやって役と重なっていけるかを考えてきた」と語る。
演出の藤田俊太郎も、自身が関わる105回もの公演が延期になった。本来なら7月18日に開幕予定だったこの舞台も、帝劇スタッフの新型コロナ感染により23日に遅れた。その間、キャストは無観客の舞台に立ち配信を続けた。幕が開いたから一安心とはいかない。他劇場では再開した舞台が再び中止になるなど、いまだ衰えないウイルスにギリギリの対応が続く。「毎日を千秋楽だと思って」。藤田はキャストたちにそう伝えたという。

 それでも、この厳しい局面がもたらしたのは苦労だけではない。身体的なぶつかり合いが難しい中、作品のテーマである出会い、別れ、再会をハーモニーで表現できるのではないかと考えた藤田は、「身体的距離はあるけれど、メンバーの精神的距離は近づいた。(初演から)4年かかってこのハーモニー、関係性が作れた」と誇った。作品を愛してきた観客の役割も大きい。藤田を始め、無観客の公演を経験した役者たちは「観客は舞台を作る最後のピースだ」と強調する。奇跡のミュージカルを共に作っているのは紛れもなく観客なのだ。


写真提供 / 東宝演劇部

 ただ、忘れてはならないのは、どれほど生の舞台に飢えていても、劇場に足を運べないファンもまだ多いということ。今回、主催者は7回もの配信を用意。多くのスタッフが工夫を重ねて、日々、映像表現に磨きをかけている。
 バラバラになってしまったフォー・シーズンズは90年、「ロックの殿堂」入りを果たし、オリジナルメンバーで復活する。別れの後に訪れた再会。彼らのたどった道は、コロナ禍に響く力強いメッセージだ。何度壁にぶつかっても諦めることなく、この時期にぴったりの舞台を届けるため尽力してくれたすべての関係者に感謝したい。

 距離を保つため客席が半分しか使えないなら、2人分の拍手を送ればいい。足を運べない人の思いも背負って劇場に行こう。そんなファンの思いが表れたのだろう。無言の客席で揺れるペンライトは、誰より雄弁に再会の喜びを語っていた。

(7月23日の初日を観劇)


『ジャージー・ボーイズ イン コンサート』

 8月5日(水)まで、帝国劇場(生配信あり)
 公演公式サイト>>>コチラ


道丸摩耶(みちまる まや)

産経新聞記者。文化部、SANKEI EXPRESSの演劇担当を経て、観劇がライフワークに。
幼少時代に劇団四季の「オペラ座の怪人」「CATS」を見て以来、ミュージカルを中心に観劇を続けてきたが、現在は社会派作品から2.5次元作品まで幅広く楽しむ。
舞台は総合芸術。「新たな才能」との出会いを求め、一度しかない瞬間を劇場で日々、体感中。

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