東映が企画、プロデュースする少人数での濃厚な会話劇のシリーズ最新作として、三人芝居「オブセッション」が9月14日、CBGKシブゲキにて開幕した。開幕に先駆けて行われたゲネプロと囲み取材では、演出の粟島瑞丸が「『人を楽しませるには、自分たちが楽しむ』をモットーにがんばりたい」と力を込めた。
交通事故で最愛の婚約者を亡くした三原雄吾(赤澤燈)が、加害者の曽根崎勇(本田礼生)を廃墟に監禁しようとするところから、物語は始まる。官僚の父親の力で事故をもみ消した曽根崎を恨み、復讐しようとした瞬間、曽根崎に最愛の彼女が憑依する。事前の公演紹介でも明かされていた通り、事故の加害者の男が愛する彼女に変わってしまうという設定が、まず面白い。
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殺そうとすると彼女になり、彼女といい雰囲気になると憎い男に戻ってしまう曽根崎を、本田が器用に熱演。ゲネプロ前の囲み取材で、赤澤は「ぼくの彼女が本田礼生というところが見どころ」と語っていたが、MANKAI STAGE『A3!』で長く共演する2人はテンポもよく、やりとりに安心感がある。曽根崎と話していたつもりが愛らしい彼女になったり、彼女が現れたと喜んでいたら曽根崎が冷めた目で見ていたり、と次々に中身が入れ替わる曽根崎の振れ幅は見事で、いちいち振り回される三原がおかしさを倍増させる。
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そこへ、同じく曽根崎の命をねらう柳(大内厚雄)が現れ、ドタバタの憑依劇は思わぬ方向へ転がっていく。彼女が曽根崎に憑依した理由を知りたい三原と、そんな三原の気持ちを理解していく曽根崎、そしてひとり、場違いにも思える行動をとる柳。廃墟の一室に集まった3人の微妙な関係は、彼女の「憑依の理由」が明らかになるにつれ変わっていく。
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演劇集団キャラメルボックス劇団員の大内は、よく通る声に硬軟織り交ぜた演技で、気心の知れた2人をうまくかき回す。ひたすら振り回される三原役の赤澤、本心を押し隠し加害者と彼女を行ったり来たりする曽根崎役の本田と、キャストの特性にぴったり合うおかざきさとこの脚本は、廃墟の一室という舞台転換のない設定でも最後まで飽きさせない。囲み取材で「一番信頼できる人は、本当に信用していいのか、といった社会の問題に切り込んでいる作品」と大内がちょっと踏み込んでコメントした理由も、終盤ではっきりわかるだろう。
「ほぼ全員が初めましてだったが、まず思ったのは、3人はお芝居が大好きなんだなということ。稽古では新しいものを出してくれるし、3人から生まれたいろんなネタがあった」と演出の粟島が振り返った通り、「憑依」をテーマに濃密な会話劇を繰り広げた3人は、人間同士の絆や真実の姿をストレートに表現した。
19日まで、CBGKシブゲキ。チケットは全日完売だが、初日公演と19日の2公演の計3公演をライブ配信(アーカイブ付き)。DVDの発売も決定した。なお、配信の見どころについて、本田は「見ていただきたいポイントを抜いて見ていただけるので、ストレートに伝わる」、赤澤は「家でリラックスして見たり、飲食しながら見たり、夜中に見たい人も見たい時間に見られる」とアピールした。
コロナ禍に劇場で大声を出して笑うのははばかられるという人も、配信で笑い転げ、最後にほろりとするだろう。
取材・文/道丸摩耶(産経新聞)
Stage Information
三人芝居「オブセッション」
脚本:おかざきさとこ
演出:粟島瑞丸
日程 :2022年9月4日(水)~9月19日(月・祝)
会場:東京・CBGK シブゲキ!!
チケット:全席指定 8,500円(税込) ※未就学児入場不可
出演:本田礼生 赤澤燈 / 大内厚雄(演劇集団キャラメルボックス)
【ライブ配信】
配信サービス: Streaming+ (https://eplus.jp/obsession/)
ローチケ LIVE STREAMING (https://l-tike.com/obsession/)
視聴チケット:4,400円(税込)