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【観劇コラム】ミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』▷輝くふたつの星

観終わってもずっとメロディが頭の中で繰り返されている。それほどまでに強烈な世界だった。

『ジョジョの奇妙な冒険』。コミックの枠を超え、日本の文化史に燦然と輝く巨大な星だ。この原作にどう挑むのか。カンパニーは原作のスピリットに沿いながら、想像を上回る答えを叩きだした。

圧巻は主人公のジョナサン・ジョースター、“ジョジョ”役をWキャストで演じる松下優也と有澤樟太郎のふたり。裕福なイギリス貴族のひとり息子として生まれた純粋な少年が、宿命のライバルであるディオ・ブランドー(宮野真守)と出会ってさまざまなものを失い、傷つきながらも自らの誇りを貫いて生きていく。そんな成長物語を色鮮やかに演じてみせた。

ミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』 ジョジョ(松下優也)
ジョジョ(松下優也) 製作:東宝 ©荒木飛呂彦/集英社

松下は自身の持つ圧倒的な陽の力で観客の目を一身にひきつける。一幕の後半、“ジョジョ”がひとり父親を救うためロンドンに乗り込むシーン。光芒を背負って、ひとり松下“ジョジョ”が現れる場面はまさに〝降臨〟といいたくなるようなスター性、カリスマ性を見せつけ、思わず鳥肌がたった。天性の存在感にくわえて、ソロでアーティスト活動も行っている松下の歌唱力たるや。柔らかでありながら遠く高く強く響くその歌声。ナンバーに応じて、巧みに声を使い分ける表現力も見事。一幕終盤の《勇気》、父親のジョースター卿から受け継がれる誇り高き精神を歌い上げる《黄金の精神》は身体の内側から見えない光が放たれるかのような存在感をみせた。

ジョジョ(有澤樟太郎) 製作:東宝 ©荒木飛呂彦/集英社

もうひとりの“ジョジョ”有澤はまさにハマり役。本作の記者会見の受け答えでもみせた彼自身の持つピュアさと品の良さ、ひたむきさが、名家で大切に育てられた少年とぴったりと重なった。勇敢で純粋なだけではない、自分自身への無力さとライバルへの嫉妬に苦しむさまを等身大で演じてみせた。衣裳を汗で染めるほど、全身全霊で“ジョジョ”を体現する有澤。「人間・“ジョジョ”」がそこにいるからこそ、人間ドラマが色濃く浮かび上がる。激烈な運命の果てのラストには感涙を禁じえなかった。高い身体性が求められる作品だが、長い手足が映え、アクションシーンはもちろんのこと、立ち姿、歩き姿、すべてが様になる。〝美丈夫〟っぷりを存分にみせつけた。

劇中の重要なファクターとして、〝星〟がある。ジョースター卿が獄につながれた騎士のエピソードを息子たちに語るのだ。「牢獄から騎士がみていたのは、目の前にある泥か。それとも星か」。“ジョジョ”は答える、「騎士は星を見上げていた」と。
着実にキャリアを重ねてきた若い松下と有澤だが、帝劇初主演となる本作で、名実ともに日本ミュージカル界の燦然たる〝星〟となったのではないか。

ミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』ディオ・ブランドー(宮野真守)ディオ・ブランドー(宮野真守) 製作:東宝 ©荒木飛呂彦/集英社

“ジョジョ”と対をなす存在が、ディオ。貧民街で育ったが、あることをきっかけにジョースター家の養子となる。ジョースター卿の問いに対し、「騎士は生きるため、泥を見つめていた」と答えるディオ。泥の中を這いつくばって生きてきたこの人物を、宮野は血を通わせて演じ上げた。悪の権化ともいえるキャラクターでありながら、そう生きざるを得ない少年の哀しみも繊細に表現。甘く伸びやかな歌声の中にも哀しみ、苦しみをひそませ、その葛藤、陰影が泥濘に咲く美しき悪の華として結実した。劇中何度も“ジョジョ”と呼びかけるディオの声。たった二音が、こんなにも心情を映して変化するのかと感嘆させられた。それほどの演技力だ。

ミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』 エリナ(清水美依紗)
エリナ(清水美依紗) 製作:東宝 ©荒木飛呂彦/集英社

唯一の女性のメインキャストとなるのが、“ジョジョ”が思いを寄せるエリナ(清水美依紗)。高い歌唱力を誇る清水が、ソロナンバー《引き合う星》をはじめ、凛とした女性のたたずまいを透明感のある歌声で演じて、濃厚な世界観のなかに、清冽感をもたらした。

ミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』 ジョースター卿(別所哲也)
ジョースター卿(別所哲也) 製作:東宝 ©荒木飛呂彦/集英社

“ジョジョ”とディオを育て、見守るのが、“ジョジョ”の父であるジョースター卿(別所哲也)。〝本物の紳士〟である彼の深くあたたかなキャラクターをリアルかつチャーミングに演じる人物として、別所ほどの適任はいまい。

音楽は世界的音楽家、ドーヴ・アチア(共同作曲:ロッド・ジャノワ)。ダイナミックでエモーショナル。ロック調からJazzyなテイストまで多彩な引き出しで、幕開けからアンコールまで耳を飽きさせることがない。高低差のある難曲も多いが、実力派キャストらは見事に歌いこなしてみせた。《光と闇》からはじまり、ラストまで繰り返し紡がれる主旋律の魂を揺さぶるような強さ。ミュージカルの持つ音楽の力を改めて感じさせられた。特に“ジョジョ”とエリナのデュエット《淡い時間》は心に残るメロディラインですぐに口ずさめるほど愛唱性があり、これからミュージカルのスタンダードナンバーとして歌い継がれていくのではないかとすら思うほどの名曲だった。一つの世界観としてまとめあげた音楽監督の竹内聡の手腕も素晴らしい。

熱烈なファンも多い原作の世界初のミュージカル化。それがいかほどのプレッシャーだったか、想像に難くない。そんななか、巨大で精巧複雑な舞台装置をフルにいかし、原作のもつ独特で強烈な世界を帝劇に出現させた演出の長谷川寧をはじめとするスタッフのクリエイティビティと胆力。そして、最後まで走り切り、存分に魅せたキャスト。開幕までに困難はあったが、「人間の誇りと勇気」という人間讃歌をうたい上げる幸福な作品となったのではないか。

取材・文/塩塚 夢(産経新聞社)

Stage Information

ミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』

原作:荒木飛呂彦「ジョジョの奇妙な冒険」(集英社ジャンプ コミックス刊)
演出・振付:長谷川寧
音楽:ドーヴ・アチア
共同作曲:ロッド・ジャノワ
脚本・歌詞:元吉庸泰
製作:東宝
©荒木飛呂彦/集英社

【キャスト】
松下優也/有澤樟太郎(Wキャスト)、宮野真守、清水美依紗、YOUNG DAIS、東山義久/廣瀬友祐(Wキャスト)、河内大和、島田惇平、コング桑田、別所哲也 ほか

【東京公演】
帝国劇場  
公演終了

【全国ツアー公演】
札幌文化芸術劇場 hitaru
2024年3月26日(火)〜3月30日(土)

兵庫県立芸術文化センター KOBELCO 大ホール
2024年4月9日(火)〜4月14日(日)

★4月13日(土)17:00 兵庫公演、14日(日)12:00 兵庫大千穐楽公演のLIVE配信を予定。https://www.tohostage.com/jojo/stream.html

公演公式サイトはこちら

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