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COLUMN

#5『笑う男』|ソウルからミュージカル・ラブレター

ジーザスVSジャン・バルジャンの演技対決を見逃すな!
韓国オリジナル・ミュージカル『笑う男』

条件が緩和されたものの、まだまだ観光ビザが必要な韓国旅行…。と思いきや、8月限定で、ノービザで韓国へ観光に行けることになったといううれしいニュースが飛び込んできました!2022年夏、ついに、ソウルでのミュージカル鑑賞がより気軽にできるようになりました!

「滞在中にどの作品を観れば良いか?」という質問には、大学路(テハンノ)のエネルギーを感じられる小劇場の作品一つと、大迫力の大劇場作品を必ず一つずつ答えるようにしていますが、記念すべき韓国観光が再開されたこの夏に相応しい大劇場作品が『笑う男』。幼い時に口を裂かれた主人公、グウィンプレンの数奇な運命を『ジキル&ハイド』のフランク・ワイルドホーンの美しいメロディに乗せて壮大に描く大作ミュージカルです。『レ・ミゼラブル』のヴィクトル・ユーゴーの同名小説を原作とし、クリエーターも欧米からの才能が結集しているために、ライセンス物と誤解を受けやすいのですが、この作品は韓国で企画・制作された、れっきとした韓国オリジナル・ミュージカル。日本でも浦井健治×山口祐一郎主演で上演されたので、記憶に新しい方も多いと思います。


よくぞ集めた!と評判の‘スリー・パク’の皆さん。左から、パク・ヒョシン、パク・ウンテ、パク・ガンヒョン
写真提供:EMK MUSICAL COMPANY

この夏で三演目となる『笑う男』ですが、上演史上最もチケットが取れにくくなっており、それは、4年ぶりの舞台復帰となる歌手、パク・ヒョシン×次世代スターのパク・ガンヒョン×大劇場主演ならまかせろ!のパク・ウンテの意外すぎるキャスティングという、三人の人気絶頂のパクさんが主人公のトリプルキャストとして集結したことが最大の理由です。この三人のパクさん、現在韓国では‘スリー・パク’と称され、連日連夜劇場を訪れる観客達の心を魅了し続けており、リピーターが増えているのも大人気の理由。三人の中では神が与えし最上級の歌声を持つパク・ヒョシンのチケットが秒速で売切れるために、彼の回を観劇することは困難になってきているものの、どの日に会場の世宗文化会館を訪れても歌声・ビジュアル・演技の三拍子揃った‘スリー・パク’のうち一人を堪能できるため、最高のミュージカル体験が出来るようになっています。


左よりグウィンプレン役パク・ウンテ、ウルシュス役ヤン・ジュンモ
写真:EMK 公式インスタグラム @emk_musical より

‘スリー・パク’の中では最も舞台歴が長いベテランであるものの、今回初めて『笑う男』に挑戦したパク・ウンテは、制作会社のEMK MUSICAL COMPANYの代表が今期初日に「実は初演からラブコールを送っていたのに、初演、再演と断られて、三演目にしてようやく実現しました!」と感慨深く舞台挨拶したくらい、熱望されていたキャスティング。舞台を見ると、そりゃ代表もやって欲しいと願うだろうよ…と心底思ってしまう程の風格で、グウィンプレンという役をとてつもない深みを持って演じています。『ジーザス・クライスト・スーパースター』のジーザス、『モーツァルト!』、『フランケンシュタイン』の怪物/アンリ等、数々の名作で主演を演じ、ここ10年の間韓国ミュージカル界のスターの座に君臨している彼の最大の魅力は、一単語一単語大切に歌う‘歌詞伝達力’。韓国でミュージカルを観ていると、俳優たちは皆歌唱力を誇示することに集中してしまい、感動できるストーリーも歌合戦のように感じてしまうことがあるのですが、パク・ウンテの『笑う男』の歌声はその反対で、キャラクターになりきり、時に儚く、時に力強く、時に切なく、運命に翻弄される青年の哀しみを表現し、今主人公はどんな思いなのか観客は手に取るようにわかるために、自然と感情移入してしまい、気づいた時には目から涙が溢れていた…なんていうマジックを見せてくれるのです。そして特筆すべきは、ヒロイン・テアに対する王子様然とした優しさ。盲目の彼女のために、優しく手を取りリードする紳士な姿、ラストシーンでようやく再会できた彼女を前に‘君は僕の星♪’と世にも甘い歌声で囁くシーンは会場の約2000人の観客達が「惚れてしまうやろ…」となってしまうくらいのトキメキを与えてくれます。

そんなウンテ・グウィンプレンを包むのが、初演から主人公の育ての親・ウルシュスを演じるヤン・ジュンモ。日本で『レ・ミゼラブル』のジャン・バルジャンを演じたため、その歌唱力と演技力をよく知っている方もたくさんいらっしゃるかと思いますが、ここ韓国では『オペラ座の怪人』のファントム、『屋根の上のバイオリン弾き』ティヴィエ、『ハデスタウン』ハデス、『ジキル&ハイド』、『スウィニー・トッド』のタイトルロール…と、作品を列挙するだけで泣く子も黙ってしまう実力を持ついぶし銀の俳優。ウンテ×ジュンモが同じ舞台に立っているだけでも、韓国ミュージカルマニアはちょっと涙が出てしまう位胸アツなのですが、二人の演技派が繰り広げるプロ中のプロの姿といったら!特に、1幕で反抗する息子と心配する父がぶつかるナンバー『幸せになる権利』の火花が飛び散るような迫力はものすごく、この1曲の完成度だけでも入場料の価値があるほどです。

これまで主人公が歌手・アイドル・新人俳優のキャスティング枠だったために、ユーゴー原作の物語の細かい部分までが伝わらず、ストーリー展開が少し物足りない印象すら与えていた『笑う男』。しかし、今回パク・ウンテというベテランの投入されたことにより、作品自体のクオリティが底上げされ、ラストシーンでは劇場の至る所で嗚咽が聞こえてくるほどの感動大作になっています。この夏もしソウルに来ることが可能であれば、まずは世宗文化会館にレッツ・ゴー!

取材・文/日韓公演コーディネーター・高原陽子


高原陽子

東京都出身。青山学院大学英米文学部在学中に韓国・梨花女子大学に留学。その後韓国に渡り、日韓の公演コーディネーターとして、数々の韓国作品や俳優を日本に紹介、また近年では、日本の才能ある俳優達を韓国の観客達にも紹介している。韓国人パートナーとの間に一女を設け、現在はソウル在住。
主なコーディネート作品:『SMOKE』『BLUE RAIN』『僕とナターシャと白いロバ』他
日本:『レ・ミザラブル』ヤン・ジュンモ、『ミス・サイゴン』キム・スハ、『ミュージック・ミュージアム』パク・ウンテ 他
韓国:『Seoul Musical Festival』中川晃教、安蘭けいpresents日韓交流ミュージカルコンサート等多数

Stage Information

『笑う男』

公演期間:2022年6月10日〜8月22日
劇場:世宗文化会館 大劇場(5号線・光化門)
上演時間:180分

出演:パク・ヒョシン、パク・ウンテ、パク・ガンヒョン、ヤン・ジュンモ、ミン・ヨンギ、シン・ヨンスク、キム・ソヒャン、イ・スビン、ユ・ソリ他

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