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COLUMN

#4 『アイーダ』|ソウルからミュージカル・ラブレター

受けつがれる次世代へのバトン

2005年のソウル・LGアートセンター初演から5回のシーズンが上演されてきた、ディズニー制作のブロードウェイミュージカル『アイーダ』の韓国版。ディズニーが新演出版の構想を明らかにしたため、当初は2019年2020年のソウル公演で、オリジナル・ブロードウェイバージョンの大々的なフィナーレを韓国版でも飾る予定だったにも関わらず、そこに直撃したのがコロナ。感染状況の拡大により、不本意な状況で閉幕してしまったために、韓国版制作のシンシ・カンパニーがディズニーに掛け合って、この夏、再び『アイーダ』のグランドフィナーレ公演が実現しました。現在、世界的にもブロードウェイ演出版を見ることが出来る唯一のチャンスだけあって、初日の幕が上がった後には、「劇中アイーダの紫のドレスを見ただけで、ジーンとしてしまった。」なんていう感想が、SNSにも多数上がってくるほどでした。

もう見られないと思われていたバージョンの上演だけあって、今回の『アイーダ』は韓国側の制作、シンシ・カンパニーの絶対に成功させる!という並々ならぬ情熱をあらゆる所で感じました。まず、韓国初演を知らない若い世代向けに、YouTubeで主演俳優たちによる楽曲紹介からトークショーに到るまで様々なコンテンツを準備。また、地下鉄やバス停などありとあらゆるスポットにポスターを設置し、初夏夏にかけてソウルで『アイーダ』の広告を見ない日はなかったぐらいでした。それが功を奏し、今シーズンの『アイーダ』は、チケット売上でもトップ圏内にランクインし、17年前の初演から延べ100万人の観客動員数を記録しました。


(アイーダ役のキム・スハ)
写真提供:シンシ(SEENSEE)・カンパニー

そんな、‘絶対にハズせない’上演であったにも関わらず、韓国側の制作会社、シンシ・カンパニーが果敢にも挑戦したのが、若い世代のミュージカル女優の起用。これまで数度アイーダ役を務めてきたユン・コンジュ(『ジキル&ハイド』のルーシーや、『ラ・マンチャの男』アルドンサ役を演じて来たベテラン)とチョン・ナヨン(オランダで『ミス・サイゴン』のキムを務め、韓国では『レ・ミゼラブル』のファンティーヌ役でその名を轟かせたグローバル俳優)という二大巨頭と共に、まだ20代のミュージカル界のライジング・スター、キム・スハをアイーダ役に抜擢し、トリプルキャストにしたのです。前回はコンジュ&ナヨンの二人だけでアイーダ役を回していたので、今回のトリプルキャストは、‘若い才能を潰さず、未来のために伸ばす!’という、韓国の制作カンパニーの懐の大きさを表していました。

‘キム・スハ’という名前でピンっ!ときた方が日本にもいらっしゃるかと思いますが、彼女は2016年の東宝『ミス・サイゴン』で日本語が話せないにも関わらず、オーディションを勝ち抜きキムとして日本デビューを果たし、韓国帰国後には『RENT』、『ハデスタウン』で主演を務め、今回この『アイーダ』の好演で、名実共に韓国ミュージカルスターへの階段を駆けあがっています。スハ・アイーダの一番の魅力は、どこまでも伸びていく歌声と繊細な演技。日本のサイゴンでも、若くて元気いっぱいに見えるのに、クリスとの恋を前にするとどこか切なく、優しい雰囲気に多くの観客を泣かせていましたが、今回の『アイーダ』でもその魅力は健在。1幕最初では、国の一つや二つ独立させちゃうんじゃないか?と思えるくらいの強さを醸し出しているのに、ラダメスと恋に落ちた後では、彼女特有の儚さが炸裂。二幕の『Written in the Stars』のやるせない演技は、ブロードウェイ初演のヘザー・ヘッドリーを彷彿させるくらいの表現力を見せていました。そんな彼女の魅力が見られる映像が、こちら。

【キム・スハ『Dance of The Robe』】

自らの運命を受け入れると決心したスハ・アイーダの歌声(5:00頃)も必見ですが、韓国で‘GOD(神のような)’+‘Ensemble(アンサンブル)’=ガッサンブルと賞賛されるアンサンブルの動きと歌声にも注目です。


(アムネリス役のミン・ギョンア)
写真提供:シンシ(SEENSEE)・カンパニー

アイーダに対峙するエジプトのプリンセス:アムネリス役には、これまた20代の煌めく才能、ミン・ギョンアがベテランのIVYと共にダブルキャストを務め、『シカゴ』のロキシー・ハート役で話題となったコケティッシュな魅力を今回も振りまいています。特に1幕の『My Strongest Suit』ナンバーとラダメスを前にした寝室のシーンでドカン、ドカンとドリフ並に笑いを取り、観客を一瞬にして彼女のファンにしてしまうほど。

【ミン・ギョンア『Every Story Is A Love Story』】

昨今、アイドルや芸能人のキャスティングが韓国ミュージカル界でも話題となっていますが、その反面、韓国の制作会社はミュージカルを専門とする若い才能たちにも手を差し伸べ、観客達に紹介することも積極的にしています。韓国のオフ・ブロードウェイと呼ばれる大学路ではこの動きが顕著ですが、1000席以上の大劇場では『笑う男』の初演に抜擢されたパク・ガンヒョンや『キンキー・ブーツ』のローラ役、ソ・ギョンスなどがその良い例です。そして、今回『アイーダ』のキム・スハ&ミン・ギョンアも圧巻の歌唱力と演技力で期待以上の結果を残し、韓国ミュージカルの次世代へのバトンは、しっかりと引き継がれていることを証明しています。


(今シーズンのキャスト:上段左より時計周りで、キム・ウヒョン、ユン・コンジュ、IVY、キム・スハ、ミン・ギョンア、チェ・ジェリム、チョン・ナヨン)
写真提供:シンシ(SEENSEE)・カンパニー

取材・文/日韓公演コーディネーター・高原陽子


高原陽子

東京都出身。青山学院大学英米文学部在学中に韓国・梨花女子大学に留学。その後韓国に渡り、日韓の公演コーディネーターとして、数々の韓国作品や俳優を日本に紹介、また近年では、日本の才能ある俳優達を韓国の観客達にも紹介している。韓国人パートナーとの間に一女を設け、現在はソウル在住。
主なコーディネート作品:『SMOKE』『BLUE RAIN』『僕とナターシャと白いロバ』他
日本:『レ・ミザラブル』ヤン・ジュンモ、『ミス・サイゴン』キム・スハ、『ミュージック・ミュージアム』パク・ウンテ 他
韓国:『Seoul Musical Festival』中川晃教、安蘭けいpresents日韓交流ミュージカルコンサート等多数

Stage Information

ミュージカル『アイーダ』

公演期間:2022年5月10日〜8月7日
劇場:ブルースクエア 新韓カードホール
上演時間:160分

出演:ユン・コンジュ、チョン・ナヨン、IVY、ミン・ギョンア、キム・ウヒョン、チェ・ジェリム他

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