韓国ミュージカルのトレンドを感じるならこれ!
オリジナルミュージカル『フリーダ』
今回の「ソウルからのミュージカル・ラブレター」は、メキシコを代表する女性画家、フリーダ・カーロの生涯を描いた韓国オリジナルミュージカル『フリーダ THELAST NIGHT SHOW』について。日本にも『SMOKE』、『BLUE RAIN』、『INTERVIEW~お願い、誰か僕を助けて~』等の作品で進出、今や韓国のオフ・ブロードウェイと呼ばれる大学路(テハンノ)で、手掛けた作品が上演されていない時期は言われるほどのヒットメーカー、チュ・ジョンファ作・演出×ホ・スヒョン作曲によるコンビの新作です。
YouTube:『フリーダ』EMK MUSICAL COMPANY
今作の最大の特徴は、110分の上演時間に登場する全てのキャラクターを、たった4人のミュージカル女優達が演じていることです。劇中、フリーダが出演する「たった一夜限りのショー」を通じて、彼女が歩んできた道のり、障害、悲しみ、苦しみを描き切るという斬新な形式を取っており、主演のフリーダ役以外の3人は、彼女を取り囲む人物たちを老若男女関係なくマルチマンのように演じきっています。中でも圧巻だったのが、ショーの進行役であるナレーターと、フリーダの画家としての才能を賞賛するものの私生活では浮気を通して彼女に傷を与えた夫・ディエゴの二役を演じたチョン・スミ!
ナレーター/ディエゴ役 チョン・スミ
提供:EMK公式instagram @emk_musical
韓国ミュージカル界ではベテランとして数々の作品に出演してきた彼女ですが、ディエゴを演じるパートでは持前のタップの腕前を活かし、フリーダを魅了するセクシーな誘惑者に。宝塚歌劇の魅力的な男役のように舞台で駆け引きをする姿は、これまで韓国ミュージカルではあまり描かれてこなかった新鮮なキャラクターで、男性でなくてもここまで格好良くできるんだ! と素晴らしい印象を与えていました。この役だけでなく、『フリーダ』に登場するキャラクター達はどの人物も魅力的。
韓国では「#MeToo」運動以降、ジェンダーをテーマにした作品が数々生みだされました。優れたオリジナルミュージカルに贈られる、韓国ミュージカルアワーズ各賞を総なめにした『レッドブック』、『マリ・キュリー』、『HOPE』は女性が主人公の作品として再演を重ねており、最近ではジェンダーフリーキャスティングとして、これまで男性が演じて来たキャラクターを女性が演じたり、同じ役を男性と女性の両方が同時期に演じるといった試みが続いています。
女性の権利を提起し、女性としての生きにくさ、抑圧された環境を描く作品への制作にGOを出す韓国の制作会社も賞賛に値しますが、それを応援する観客達の情熱的な反応も目を見張るものがあります。この『フリーダ』も3月1日の公演初日から女性観客たちを通して熱狂的な口コミが伝わり、5月末の千秋楽まで良席の完売が続いています。「ミュージカルの観客層は女性だから、男性が主人公のヒーローものしか受けないだろう……」こういった固定概念を蹴散らし、どんどん挑戦を続ける韓国ミュージカル。クリエーター×制作会社×観客が三つ巴となって進んで行く勢いに、これからも目が離せません。
取材・文/日韓公演コーディネーター・高原陽子
高原陽子
東京都出身。青山学院大学英米文学部在学中に韓国・梨花女子大学に留学。その後韓国に渡り、日韓の公演コーディネーターとして、数々の韓国作品や俳優を日本に紹介、また近年では、日本の才能ある俳優達を韓国の観客達にも紹介している。韓国人パートナーとの間に一女を設け、現在はソウル在住。
主なコーディネート作品:『SMOKE』『BLUE RAIN』『僕とナターシャと白いロバ』他
日本:『レ・ミザラブル』ヤン・ジュンモ、『ミス・サイゴン』キム・スハ、『ミュージック・ミュージアム』パク・ウンテ 他
韓国:『Seoul Musical Festival』中川晃教、安蘭けいpresents日韓交流ミュージカルコンサート等多数
Stage Information
ミュージカル『フリーダ』
公演期間:2022年3月1日〜5月29日
劇場:世宗文化会館Sシアター(光化門)
制作:EMK MUSICAL COMPANY
出演:チェ・ジョンウォン、キム・ソヒャン、リサ、チョン・スミ、イム・ジョンヒ、チョン・ヨンア、チェ・ソヨン、ホ・ヘジン
上演時間:110分