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COLUMN

【映画】#5『エリザベート 1878』▷パンクなエリザベートは誰と踊るか

オーストリア皇妃、エリザベートと聞いてウィーンミュージカル『エリザベート』を思い出す人も多いだろう。

日本では1996年に宝塚歌劇雪組が初演。いまや宝塚の代表作の1つとなっている。
また、その後に続いた東宝ミュージカル版も、そうそうたるスターが出演する大作として人気が高い。

この映画は、そのエリザベートが40歳を迎えた1877年12月から1878年10月までの出来事を描く。いや、これは一筋縄ではいかない作品だ。
 


©2022 FILM AG – SAMSA FILM – KOMPLIZEN FILM – KAZAK PRODUCTIONS – ORF FILM/FERNSEH-ABKOMMEN – ZDF/ARTE – ARTE FRANCE CINEMA

オーストリア出身のマリー・クロイツァー監督が脚本も手掛け、史実に基づいているであろう、あるいは史実の謎を補うような、短く断片的なエピソードを次々と積み重ね、エリザベートの孤独をジリジリと、しかし淡々と描いていく。

変わらぬ美しさで王朝の象徴でいることを皇帝から求められ、コルセットをきつく巻いてウエストを絞るなど美の維持に努める半面、医師から「40歳は平民の女性の平均寿命です」と告げられ、精神の安定のためにヘロインを処方される。
 


©2022 FILM AG – SAMSA FILM – KOMPLIZEN FILM – KAZAK PRODUCTIONS – ORF FILM/FERNSEH-ABKOMMEN – ZDF/ARTE – ARTE FRANCE CINEMA

ミュージカルのエリザベートは「死」に魅入られるが、この映画のエリザベートは死を求める。

いや、本質的には死ではなく精神の解放や自由を求めたのか。

あるいは監督は、非業の死を遂げる史実の運命にさえあらがい、どこまでも自らの意思で生きようとする女性としてエリザベートを描いているのかもしれない。このへんの解釈は難しい。

いずれにせよ、ドラマチックな出来事は何も起きないし、宝塚のような絢爛(けんらん)なハプスブルク王朝のウィーン宮殿でもない。
 


©2022 FILM AG – SAMSA FILM – KOMPLIZEN FILM – KAZAK PRODUCTIONS – ORF FILM/FERNSEH-ABKOMMEN – ZDF/ARTE – ARTE FRANCE CINEMA

米ニューヨークパンクの女王、パティ・スミスがこの映画に「格別」というコメントを寄せているが、ルクセンブルク出身のヴィッキー・クリープスが演じるエリザベートは中指を立て、たばこをふかし、肩にタトゥーも彫り、まさにパンクロックの女王だ。

病院の視察などミュージカルと重なるエピソードもあるが、宝塚版の延長線でこの映画を見ようとすることは、あまりおすすめしない。

世俗に唾を吐き、運命にあらがってもがく姿は、現代に生きづらさを感じている人こそ見る意味があるのかもしれない。

なお、映倫は「身体一部の傷害の描写がみられる」として小学生の鑑賞には保護者の判断が必要としている。また、性的な表現もある。

文/石井 健(産経新聞社・文化部)

Information

『エリザベート 1878』

8/25(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下 ほか
全国順次公開


©2022 FILM AG – SAMSA FILM – KOMPLIZEN FILM – KAZAK PRODUCTIONS – ORF FILM/FERNSEH-ABKOMMEN – ZDF/ARTE – ARTE FRANCE CINEMA

ハプスブルク家最後の伝説的皇妃エリザベート
自由を渇望した彼女の知られざる心の軌跡

ハプスブルク帝国が最後の輝きを放っていた19世紀末、「シシィ」の愛称で親しまれ、ヨーロッパ宮廷一の美貌と謳われたオーストリア皇妃エリザベート。1877年のクリスマス・イヴに40歳の誕生日を迎えた彼女は、コルセットをきつく締め、世間のイメージを維持するために奮闘するも、厳格で形式的な公務にますます窮屈さを覚えていく。人生に対する情熱や知識への渇望、若き日々のような刺激を求めて、イングランドやバイエルンを旅し、かつての恋人や古い友人を訪ねる中、誇張された自身のイメージに反抗し、プライドを取り戻すために思いついたある計画とは——。

脚本・監督:マリー・クロイツァー
製作:アレクサンダー・グレール、ヨハンナ・シェルツ
音楽:カミーユ
出演:ヴィッキー・クリープス、フロリアン・タイヒトマイスター、カタリーナ・ローレンツ、マヌエル・ルバイ、フィネガン・オールドフィールド、コリン・モーガン  ほか
配給:トランスフォーマー、ミモザフィルムズ

公式サイトはこちら

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