ミュージカルの名曲を紹介してきたこの「聴活」ですが、今回は少し趣向を変えて、今月公開された映画「エルヴィス」から、伝説のスター、エルヴィス・プレスリーが歌った曲を紹介したいと思います。エルヴィスの成功の影に強欲なマネージャーがいた、という実話を元に作られた映画で、エルヴィスをオースティン・バトラー、彼のマネージャーであるトム・パーカー大佐をトム・ハンクスが演じています。聞いたことのある有名な楽曲がたくさん出てきて、彼の音楽が今もまったく色あせていないことが分かります。いつ聞いても、この曲いいねと思える作品を残してくれたのは、さすが伝説のスター。できるなら、生のステージを見てみたかったです。
ミュージカル「モーツァルト!」なんかもそうですが、ぼくはどうやら、偉人の一代記が好きみたいです(笑)。今回の映画もまさにエルヴィスの一代記で、42歳の若さで亡くなった彼の生涯を描いています。音楽界だけでなく時代に革命を起こした人だし、浮き沈みのある人生はドラマティックだし、このままミュージカルにしてほしいと思うほど、音楽も映像も最高でした。そして、彼の成功を支えるべきマネージャーの大佐が、実はものすごい搾取をしていて、そんなことを知らずにがんばっているエルヴィスの姿は、見ていて苦しくなるほど。「エルヴィス」というタイトルではあるけれど、この映画は大佐の話でもあるんです。
(C)2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
自分もエンターテインメントの世界に身を置いているので、あんな風にマネージャーと歪な関係ができてしまったら、本当に怖いです。もしかして、ぼくもマネージャーに転がされていたりして? それはないはずですけど(笑)、でも自分がこういう仕事をしているからこそ刺さるものがありました。
(C)2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
映画に出てくるどの曲にも感じたのは、エルヴィスの魂の叫び。歌のうまさより先に魂が来る、みたいな。歌じゃなく、叫びに聞こえるというか。これは、ミュージカル俳優としてだけでなく、役者としての自分にすごく響きました。
中でも、今回選んだ「Heartbreak Hotel」は、失恋して行き着いた先にハートブレイクホテルがあるというストレートな歌詞。孤独を歌っているのに、沈んだ感じじゃないのがいいんです。ステージは盛り上がっても、終わったらひとり。俳優も、千秋楽が終わったらちりぢりになって別の道に行くわけで、実は孤独な仕事です。だから、エルヴィスの孤独に共感しますし、彼ほどの人でも孤独を感じるんだから、人はひとりでいちゃいけないと改めて思いました。
(C)2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
映画の最後で、大佐が「自分が殺したんじゃない。エルヴィスを殺したのはファンの愛だ」というようなことを言うんですが、この言葉も刺さりました。「あの歓声が忘れられない」「あの拍手の音が忘れられない」というのは、アーティストにはつきものですよね。ファンに愛されるのはありがたいことですが、売れ続けなきゃいけないというプレッシャーにもつながってしまう。売れるまでも苦しいし、売れたら売れたで、維持し続けなければ、とこれまた苦しい。ぼくも、その気持ちはわかります。
(C)2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
ありがたいことに、ぼくは舞台をずっとやってきて、ミュージカルにも出させていただき、映像のお仕事もやらせていただくようになりました。認知度は上がっていると思うんですが、このままずっと行けるのか、この先も食べていけるのか、そういう不安はやっぱりあります。俳優仲間の「ミュージカル決まりました」「ドラマ決まりました」という情報解禁を見ると、自分は今動いていないのに大丈夫かな、と焦ってしまうときもあります。もがいた時間があって良かった、と思える日がいつか来ると信じていても、それでも焦るものなんです。
エルヴィスは歌手で売れて、俳優をやっても売れて、そこからまた歌をやりたいと大型のコンサートに出て…。大佐がいたからとんとん拍子だった部分はあるでしょうけど、全部ヒットさせている。ラスベガスで800回以上公演して、すべて完売ってすごいことですよね。でも、お金があればいいってことでもないんだなというのもしっかり描かれている。「ジャージー・ボーイズ」でもメンバーのお金のトラブルが出てきますが、人間って欲深いもので…。つくづく、すごい世界に入っちゃったな(笑)。
(C)2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
「エルヴィス」は本人とそのマネージャーを描いた映画ですが、ファンの存在もすごく大きい物語です。確かにエンタメ業界はすごい世界かもしれませんが、エルヴィスの時代も今も、お客さまがすごいパワーを与えてくれることは変わらない。お客さまが来てくれて、ステージに立つ自分から何かを感じてくれたという喜びが、しんどい時もがんばれる力になる。だからまた、次の舞台に立とうと思えるんだな、なんてことを考えました。
<聞き手/道丸摩耶(産経新聞)
今月の聴活♪SONG
Elvis Presley – Heartbreak Hotel (Official Audio)
東啓介(Higashi_Keisuke)
1995年7月14日生まれ、東京都出身。2013年デビュー。舞台『剣乱舞』など気舞台で活躍し、『5DAYS 辺境のロミオとジュリエット』『命売ります』『Color of Life』などの作品で主演を務める。近年はミュージカル界の新星として頭角を現している。2020年11月にはファーストソロコンサートも開催。2021年1月〜3月、NTV「ウチの娘は、彼氏が出来ない‼︎」にイケメン整体師・渉周一役で出演し話題に。 2021年3月〜4月ミュージカル『イン・ザ・ハイツ』(神奈川・大阪・名古屋・東京公演)に出演、6月〜7月ミュージカル『マタ・ハリ』でアルマン役に再び挑み好評を博した。2022年秋に開幕するミュージカル『ジャージー・ボーイズ』にボブ・ゴーディオ役で出演が決定した。
東啓介がセルフプロデュースした写真集「何色」発売中!
詳細は>>>Amazonへ
Stage Information
(C)2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
『エルヴィス』
配給:ワーナー・ブラザース映画
(C)2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
Stage Information
ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』
脚本:マーシャル・ブリックマン&リック・エリス
音楽:ボブ・ゴーディオ
詞:ボブ・クルー
演出:藤田俊太郎
出演:中川晃教、花村想太、藤岡正明、尾上右近、東 啓介、有澤樟太郎、spi、大山真志 ほか
会場:日生劇場(東京)
製作:東宝/WOWOW
【Story】
はじまりはニュージャージー州の貧しい片田舎。
“天使の歌声”を持つフランキーは、成功を夢見る兄貴分のトミーと ニックのバンドグループ に 迎え入れられる。 早速3人での音楽活動をスタートさせるが、フランキーの歌声をもってしてもグループには未だ何かが欠けていた。
鳴かず飛ばずの日々が続く中、作曲の才能溢れるボブが加入する。フランキーの歌声に魅了されたボブは、その声のために曲を書きたいと思うのだった。しかし金もコネもない彼らを待っていたのは 過酷な下積み生活。そんな中でも彼らは自分たちの音楽を磨き、それぞれの才能を開花させていく。そしてついにボブの楽曲と4人のハーモニーが大物プロデューサーの目に留まった。彼らは「ザ・フォー・シーズンズ」としてレコード会社と契約し、《Sherry》をはじめとする全米ナンバー1の楽曲を次々と生み出していく。ヒット曲につぐヒット曲、長期にわたるツアーで、家族を顧みずに酒と遊びを繰り返す日々が続く。富も名声も手にしたはずの4人だったが、輝かしい活躍の裏では、莫大な借金やグループ内の確執、家族の不仲など、様々な問題が勃発し、彼らの固い絆を蝕んでいった。それらはやがて取り返しのつかない大きな軋轢となり、グループを引き裂くのだった。
成功と挫折。あまりに劇的な春夏秋冬を駆け抜けていく4人がその先で見たものとは―。