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COLUMN

【#5】「英雄であれ」から「普通の人生」へ成長していく姿を(マタ・ハリ)|東啓介と聴活♪

ぼくにとって大切な、そして皆さまから「再演してほしい」というお声をいただくことも多かったミュージカル『マタ・ハリ』の再演が決まりました。2回目の上演ということで、今回は『マタ・ハリ』の中から、「英雄であれ」と「普通の人生」の2曲について話します!(1曲に絞れませんでした…!)。「普通の人生」は昨秋のミュージカルコンサートでも歌わせていただいた大好きな曲ですが、この曲に続いていく大事なきっかけとなる曲が、1幕ラストに歌う「英雄であれ」なんです。

「英雄であれ」は、戦場に飛ばされることになったアルマンが、戦地を恐れる若い兵士に「国のためだ。一緒にがんばろう」と自分と周囲を奮い立たせる曲。アルマンだって正直、怖いし、戦場へは行きたくない。ただ格好よく「行くぞ!」という曲でないのが魅力的です。

そして2幕、一命を取り留めたアルマンはケガをして捕虜になります。車いすで空を見上げながら歌うのが、「普通の人生」。何でもいいから彼女(マタ・ハリ)に会いたい、他愛もない話で笑い合う普通の人生が欲しい、と。それをつかみにいくのは自分しかいないと気づき、アルマンは車いすから立ち上がります。

実は、この「車いすから立ち上がる」演出をめぐっては、初演のときに印象深い出来事がありました。アルマンが決心を決めた表現として、あるとき、ぼくが稽古場で歌いながら車いすから立ち上がったんです。そうしたら曲が終わった瞬間に、さち子さん(演出の石丸さち子さん)が、「立つことを選ぶ…」と言いながら何かを書き始めて…。今のは何?いいの?悪いの?とまったく分からなくて…もう、怖い怖い(笑)! 結局、このプランは採用されて、もちろんアルマンはケガをしていて普通に立ち上がれるわけないので、不自然に見えないように立ち、足を引きずりながら歩く形に落ち着きました。

こうやって2曲を並べてみると、1幕の「英雄であれ」と2幕の「普通の人生」の間には、怖さを感じながらも命令から逃げられなかった男が、自分で自分の道をつかみにいくという成長があるのが分かります。今回は再演なので、ぼくも自分の成長を皆さまに見てもらいたいという気持ちがあって…。アルマンの姿に少し重なるかな、と思うんです。

もちろん、プレッシャーも感じます。あの頃の自分は、猪突猛進というか、ひたすらがんばるしかなかった。ダブルキャストも初めてで、しかもその相手が加藤和樹さんと佐藤隆紀さんだったので、「なんで、自分?」みたいな(笑)。

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今回、アルマンのダブルキャストは三浦涼介くん。アルマンという役から何を引き出すかは十人十色、自分たち次第です。さち子さんに「あなたのアルマンは、いい意味で太陽みたい。ただ、あなたには影がない。三浦くんには影があるから、あなたより素敵かもしれない」と言われて(笑)。これはもう、がんばるしかありません! 初演でも、(加藤)和樹さんがやらないことをやろうと思い続けてきたんです。良い切磋琢磨をしたいし、三浦くんのアルマンは、ぼくも見たいです!

マタ・ハリ役も、前回のちえさん(柚希礼音さん)に加え、愛希れいかさんが出演されます。ちえさんは強い感じに見えると思いますが、実は乙女! それが、踊ると本当に格好良くて…。相手が違うとこちらも変わってくると思うので、それも今回の楽しみのひとつです。がちがちにし過ぎて相手が動けないのも良くないですし、動きはあまり決め過ぎません。以前は紙に「こう動く」と動き方の段取りを書いていたんですが、予定通りに人間は動けないと分かってやめました(笑)。あるとき、「あ、動くの忘れた!」って思ったんです。でも、「動くのを忘れたって、そもそも何?」って(笑)。感情があって体が動くのであって、動きのことばかり考えて、感情が出てこないのは逆ですよね。さち子さんも「演出や美術も変えて、進化した作品を見せたい」とおっしゃっています。初演とはちょっと違った「マタ・ハリ」になるんじゃないかと思います。

実は、初演でぼくが歌いこなせなかった歌が、「普通の人生」でした。最後の「しあわせ」のところの音が出なくて…。幕が開くまでは、自分を「英雄であれ」と鼓舞する日々ですが、お客さまにお見せするときには、「普通の人生」を歌いこなして、自分の一歩を進む俳優になっていたい。再演を前にして、またチャレンジできる喜びと、もう一段、ステップアップした歌声や表情を見ていただきたいという気持ちでいっぱいです。

※2021年2月に取材

聞き手・道丸摩耶=産経新聞
撮影・三尾郁恵=産経新聞

♪今月のミュージカルソング

「普通の人生」|『マタ・ハリ』(韓国ミュージカル/EMKミュージカルカンパニー)

東啓介(Keisuke Higashi)

1995年7月14日生まれ、東京都出身。2013年デビュー。舞台『剣乱舞』など気舞台で活躍し、『5DAYS 辺境のロミオとジュリエット』『命売ります』『Color of Life』などの作品で主演を務める。近年はミュージカル界の新星として頭角を現している。2020年11月にはファーストソロコンサートも開催。NTV「ウチの娘は、彼氏が出来ない‼︎」にイケメン整体師・渉周一役で出演し話題に。ミュージカル『イン・ザ・ハイツ』(神奈川・大阪・名古屋・東京公演)に出演。6月〜7月、ミュージカル『マタ・ハリ』でアルマン役に再び挑む。

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Stage Information

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ミュージカル『マタ・ハリ』

劇作・脚本:アイヴァン・メンチェル
作曲:フランク・ワイルドホーン
歌詞 ジャック・マーフィー
オリジナル編曲・オーケストレーション ジェイソン・ホーランド
訳詞・翻訳・演出 石丸さち子

出演:マタ・ハリ(Wキャスト)/柚希礼音 愛希れいか
ラドゥー(Wキャスト)/加藤和樹 田代万里生
アルマン(Wキャスト)/三浦涼介 東啓介
アンナ/春風ひとみ
ヴォン・ビッシング/宮尾俊太郎、他

【東京公演】2021年6月15日(火)〜27日(日)東京建物 Brillia HALL
【愛知公演】2021年7月10日(土)〜11日(日)刈谷市総合文化センター アイリス 大ホール
【大阪公演】2021年7月16日(金)〜20日(火)梅田芸術劇場メインホール

公演公式サイトはこちら

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