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INTERVIEW

尾上松也さん 「見納めのつもりでいらしてください」▷後輩にバトン渡せるように

歌舞伎界の明日を担う若手俳優たちが活躍する「新春浅草歌舞伎」が来年、3年ぶりに復活します。2020年の前回に続きリーダー的な立場の尾上松也さん始め、中村歌昇さん、坂東巳之助さん、坂東新悟さん、中村種之助さん、中村隼人さん、中村橋之助さん、中村莟玉さんが、1月2日から24日まで、リニューアルされた浅草公会堂の新春を華やかに彩ります。歌舞伎公演は1年ぶりになるという松也さんに、意気込みを聞きました。

――第1部は「双蝶々曲輪日記 引窓」と「男女道成寺」、第2部は「傾城反魂香 土佐将監閑居の場」と「連獅子」です。演目はどのように選んだのですか?

皆で話し合いをしながら、ですね。過去に浅草歌舞伎で上演されている演目も入っておりますが、浅草歌舞伎は新しいことにチャレンジをするというより、古典の大作を精いっぱい勉強させていただく場。出演者が違えば空気も違いますし、ぼくは浅草歌舞伎でやりたいことをたくさん経験させていただきましたので、今回は後輩たちにバトンを渡していけるような流れを作れたらいいなという思いもあります。コロナ禍で出演者が昼の部と夜の部をまたいで出演ができない状況ということもあり、後輩たちが希望する演目を中心に入れさせていただきました。

――松也さんは第2部にご出演ですが、どのような舞台になりそうですか?

なんといっても、歌昇さん、種之助さんのご兄弟が、「吃又」(どもまた=「土佐将監閑居の場」の通称)をなさることは、ぼくの中で非常に意義のあることです。ご兄弟は、亡くなられた播磨屋のお兄さん(中村吉右衛門さん)にご指導いただいて、勉強会(「双蝶会」)で「吃又」をなさったことがあります。

ぼくの役は狩野雅楽之助で、それほど長い時間出演しているわけではありません。ですが、主人のピンチを伝えて助けを求めに行く若武者で、歌舞伎ではよくある格好いい忠臣です。ぼくは何度か、土佐修理之助役を勤めさせていただいていて、その時は、格好いいなと思いながら雅楽之助を見ていましたので、今回そのお役を経験させていただけるのはとてもうれしいです。

その修理之助役は、莟玉さんが勤めます。自分が演じていた当時のことも思い出しますし、経験していたからこそわかる気持ちもたくさんある。歌舞伎の先輩、後輩たちはその繰り返しです。歌舞伎では役の年齢と役者の年齢は関係なく、ベテランでも修理之助を勤める方はいらっしゃいます。それも歌舞伎ならではと言えますが、若手が経験できるお役は少ないので、「吃又」のような演目はとてもありがたいと思います。

――2部のもう1演目、連獅子では親獅子を勤めますね

連獅子はわかりやすく、いろいろな要素がつまった重みのある舞踊演目ですので、やりがいもあります。親獅子は踊りの会などで何度か踊らせていただいておりますが、仔獅子は実は1回しか踊ったことがありません。ぼくの年齢になりますと、おそらく仔獅子を勤める機会はもうないだろうと思うのですが、親獅子では年輪を重ねた成長をお見せしたいと思っています。
仔獅子というのは、とにかく純粋無垢で活発で火の玉のよう。何を目指すのかが明確なんです。ですが、親獅子に求められるのは、早く動くことや機敏な表現をすることなどではありません。親獅子が担っているのは、主に情感の部分。その辺の表現力は人生経験とともに深めていきたいですし、だからこそやりがいのある演目だと感じます。

――松也さんにとって、「新春浅草歌舞伎」はどういう場ですか?

間に公演の出来ない時期はありましたが、2015年からぼくたちが任せていただけるようになりました。東京の公演で一座を任せていただける経験は浅草が初めてでしたので、自分にとっても大きなチャレンジであり転機でもありました。毎年1カ月間、大役を勤めることで、先輩方の大きさや歌舞伎の難しさを改めて痛感することが山ほどありました。だからこそ、歌舞伎以外の舞台や映像、さらに歌舞伎座で何かを上演するときに、「浅草で1カ月間勤められた」という経験が知らず知らずのうちに生きている気がします。

うまくなったなと実感するのはなかなか難しいのですが、あのときはこうだったとか、あのときああいう風に教えていただいたという経験が応用できる場は増えました。そうした経験や自分の引き出しは、浅草で大役をさせていただき、先輩方にご指導いただくことで増えていきます。歌舞伎以外の部分で、役者として浅草の経験を生かせたと感じることは大いにあります。

若手にとっては経験を積む大きなチャンスですし、皆も「いずれは歌舞伎座でこの演目をやりたい」と常に思い描きながら挑戦していると思います。浅草の仲間が少しずつ責任あるお役を与えていただいているのを見ると、チームの一員としてとてもうれしいです。

――いつか松也さんも、浅草を卒業しないといけないのでしょうか?

ぼくは1月で38歳になります。今回で終わりということはないと思いますが、再来年あたりは危ないと思っています(笑)。決まりがあるわけではないのですが、30代後半から40代になりますと、浅草を卒業というケースが多いので。ぼくもそういう年齢に近くなってきましたし、浅草歌舞伎のおかげで、いろいろなところでさまざまな挑戦や勉強をさせていただく機会が増えました。そうしたチャンスのバトンを後進に繋げていくことも、歌舞伎界では必要です。我々もそういう風にしていただいて、今があるわけですから。でも、「50歳まで松也さんを」という投書をしてくれたら、もしかしたら行けるかもしれないですね(笑)。

――少し気が早いですが、2022年はどんな年でしたか?

今年はほとんど舞台には出演していないんです。歌舞伎は1月の歌舞伎座だけでしたし、3月に舞台「怖い絵」に出演させていただいた後は、現在上演中の「ショウ・マスト・ゴー・オン」まで出演はありませんでした。特に理由はなく、たまたまそうなってしまったのですが、今年は映像作品が多い一年でしたね。

「ショウ・マスト・ゴー・オン」からは、しばらく舞台が続くことになります。来年は、ほぼ1年間ずっと舞台に出る予定でして、逆に映像は少なくなると思います。

1月の浅草は、まるまる1年ぶりの歌舞伎ですので、不安でしかないです(笑)。1年も離れていた経験がありませんでしたので。久しぶりに歌舞伎の先輩方とお会いして歌舞伎界の空気を味わうと、落ち着くような、気が引き締まるような、不思議な感じです。ホームのようなホームじゃないような(笑)。

――来年1月以降は、しばらく歌舞伎が続くんですね。

はい。浅草の後は、新作歌舞伎「ファイナルファンタジー」に出演予定でして、これが4月まで続きます。その後も、基本的にはしばらく歌舞伎中心になると思います。

――新作の歌舞伎と伝統的な歌舞伎の演目では、演じる上で気持ちは変わりますか?

古典に出演させていただくときは必ず先輩方に教えていただきますし、逆に新作は先輩方に教えていただいたことを駆使して、どういう風に歌舞伎として成立させていくかというチャレンジになります。まったく違うようでいて、繋がっている部分もあります。自身が培ってきたものが試されるという部分でいうと、新作を作るときの方が、より試される気がしますね。何しろ、自分で一から役を構築していかないといけませんから。

ですが、伝統芸能と言われる演劇以外ではそれは当たり前のことです。一般の演劇で、先輩に教えていただけることは少ないですから。ただ、新作歌舞伎は、一般の演劇に「歌舞伎である」という要素を加え、歌舞伎で培った要素を駆使して、どれだけ自分の中で納得できるかというところにかかってきます。お客様に新作歌舞伎と思っていただけるように作品を届けることは、古典演目や一般のストレートプレイよりも難しいかもしれません。

とはいえ、何か新しいものを作るときは、チャレンジしかありません。アイデアを出して、どんどん思ったことをやってみる。そうすることで見えてくるものがあります。表現方法が違うだけで、「ショウ・マスト・ゴー・オン」も「ファイナルファンタジーX」も、新しい何かを発見するためのチャレンジという気持ちは同じです。

ですが、新作の前に、新年の浅草歌舞伎がありますからね。時間的にも料金的にも観やすい設定になっておりますし、浅草という場所もお正月気分を味わうのに最適です。ここ2年はコロナ禍で公演が開催できませんでしたが、お店もどんどん復活しているみたいですし、町全体がアミューズメントパークみたいなところですので、その一部に加えていただけるのはうれしいことです。皆さん、ぼくの浅草歌舞伎の見納めのつもりで、まだ見納めにはしたくないですけど(笑)、ぜひ観にいらしてください。

取材・文/道丸摩耶(産経新聞社)
撮影/吉原朱美


尾上松也(ONOE MATUSYA)

1985年1月30日生まれ。歌舞伎俳優。5歳で「伽羅先代萩」の鶴千代役にて初舞台。近年は立役として注目され、「鳴神」の鳴神上人、「弁天娘女男白浪」の弁天小僧菊之助など大役を任されている。2014年6月コクーン歌舞伎「三人吉三」(共演:中村勘九郎、中村七之助)ではお坊吉三を演じ、連日立ち見が出るほどの大成功を収めた。また、20歳代が中心となる新春浅草歌舞伎では最年長のリーダー的な立場を勤め、2015年「仮名手本忠臣蔵・六段目」早野勘平、2016年「与話情浮名横櫛」切られ与三郎、「義経千本桜」佐藤忠信(狐忠信)を演じて評価される。
歌舞伎以外では、蜷川幸雄演出の騒音歌舞伎(ロックミュージカル)「ボクの四谷怪談」(2012年)お岩役、東宝ミュージカル「エリザベート」ルイジ・ルキーニ役(2015年68月)などで活躍。大河ドラマ「鎌倉殿の13人」では後鳥羽上皇役で注目を集める。


Stage Information

新春浅草歌舞伎

出演:尾上松也、中村歌昇、坂東巳之助、坂東新悟、
中村種之助、中村隼人、中村橋之助、中村莟玉  他

演目:
<第一部> 11:00開演
一、双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき) 引窓
二、男女道成寺(めおとどうじょうじ)

<第二部> 15:00開演
一、傾城反魂香(けいせいはんごんこう) 土佐将監閑居の場
二、連獅子(れんじし)
※第1部・第2部で出演者が異なります。
出演者情報・詳細は公式サイトにてご確認下さい。

取扱公演:
2023年1月18日(水)15:00開演(第2部)
2023年1月20日(金)11:00開演(第1部)
2023年1月23日(月)15:00開演(第2部)

※予定枚数終了しました※

料金:1等席: 9,500円→特別価格 7,500円

※別途、送料・手数料が1件につき600円かかります。
※お客様のご都合でチケットが当社に戻ってきた場合、チケットの再発送費は、お客様のご負担とさせていただきます(着払いで発送)。

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日本キャンドル協会イベントに尾上松也さん登壇!
「歌舞伎と連携したい」

  • 尾上松也さん(左)とJCA代表・金指琢也さん
    尾上松也さん(左)とJCA代表・金指琢也さん
  • 10月29日・30日、日本キャンドル協会(JCA、金指琢也代表)はキャンドル制作者の日本一を決定する「ジャパン キャンドル アーティスト アワード 2022」を開催。29日には、昨年JCA理事に就任した尾上松也さんも最終審査とセレモニーに参加しました。(撮影/吉原朱美)

  • セレモニーでは、松也さんとJCAの金指代表とのトークショーも行われました。松也氏は、「コロナ禍が明けて、(日本を代表するキャンドルアーティストの一人である)キャンドル・ジュン氏のショップに行ったときに久しぶりに大興奮した! 」とキャンドルの虜となったきっかけを振り返りました。


「ジャパン キャンドル アーティスト アワード 2022」審査員のみなさん

また、「キャンドルとの出会いで世界観が変わった。キャンドルを灯すと解放される感じがするし、リフレッシュできる」と日々の生活にキャンドルが必要不可欠な存在と熱く語り、「これからも(キャンドル協会の)理事としてキャンドルの魅力を伝えていきたい。いつか(キャンドルと)歌舞伎を連携した企画を実施したい」と意欲を示した。

日本キャンドル協会公式サイト

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