移民大国フランスでは、移民が映画製作の大きな動機の一つになりつつあるようだ。
例えば、『最高の花婿』(フィリップ・ドゥ・ショーヴロン監督)は、移民男性と結婚した4人の娘の父親が婿たちのそれぞれの文化、習慣と衝突するさまを描く社会派コメディー映画。フランスでは5人に1人が観たといわれ、シリーズ3作目が作られるほどの人気。松竹大船調とまでは言わないが、ホームドラマ的な要素は、日本人にもとても見やすいフランス映画だろう。
この『ウィ、シェフ!』も移民を題材にしたフランス映画だ。『最高の花婿』同様、非常に優れた社会派のコメディーとして成立している。
こちらは、フランス料理を絡めたのがミソか。移民は、もはや料理と同じぐらい、かの国を象徴する存在なのだろう。
監督のルイ=ジュリアン・プティは、初監督作ではホームレスの問題を取り上げた社会派。やはりコメディーで仕上げた同作でも主演した女優、オドレイ・ラミーを、再び主演に迎え、勝ち気な料理人、カティ・マリーの役を託した。
カティは、シェフと対立して人気レストランを飛び出し、ひょんなことから移民少年の自立支援施設の食堂で働き始める。
施設長のロレンゾ・カルディ(フランソワ・クリュゼ)は頑固なところもあるが、規定の年齢までに少年たちを就労させ、強制送還を回避しようと奮闘している。
少年たちは実際の移民の若者だという。終盤、彼らがフランスに来た理由や祖国に戻れない事情を語るモノローグが交錯する場面がある。これは、オーディションで彼らが語った実際の身の上なのだそうだ。
ロレンゾの助言もあり、少年たちのうち9人が厨房(ちゅうぼう)で、カティの手伝いをすることになる。カティの心境の変化や少年たちとの交流が、淡々と、しかし丁寧に描かれる。
厨房では、スタッフはシェフの指示に、次のような声を出して応える。
「ウィ、シェフ!」
カティと少年たちも、その掛け声のもとで一丸となっていく。
豪華なフランス料理が出てきたり華やかなレストランの雰囲気を楽しめたりする映画ではないが、プティ監督は胸を打つドラマティックな展開を最後に仕掛けてくる。
カティはロレンゾに協力しようと賞金の出るテレビの料理バトル番組に挑む。実は、カティにはある〝たくらみ〟があり、番組は意外な方向へ転がり出す。
この終盤のひとひねりは圧巻だ。監督の伝えたいことのすべてが、ここに詰まっている。ラストシーンは厳しい現実も示し、しかし未来への希望が託されている。笑って、泣いて、そして考えさせられる佳作だ。
5日から全国順次公開。1時間37分。
文/石井 健(産経新聞社・文化部)
Information
邦題『ウィ、シェフ!』
5月5日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町 他、全国ロードショー
監督:ルイ=ジュリアン・プティ
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
出演:オドレイ・ラミー、フランソワ・クリュゼ 他