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INTERVIEW

咲妃みゆさん「応援してくださる方々に喜んでもらいたい気持ちが原動力」

ミュージカル『衛生』リズム&バキュームに出演される咲妃みゆさん。
この作品に出てくるのは悪者ばかり。モラルと節操に欠けた一家の悪行三昧をポップかつグロテスクに、それでもどこかあっけらかんと、音楽に乗せて描きます。
咲妃さんが演じるのは諸星良夫(古田新太さん)・大(尾上右近さん)親子と深く関わる花室麻子と、大の娘・小子の二役。
元宝塚歌劇団雪組トップ娘役の咲妃さんが繰り広げる異色のミュージカルへのチャレンジについてお聞きしました。また、第46回菊田一夫演劇賞受賞についても話を伺いました。

「役者・咲妃みゆのお手並み拝見」(笑)という気持ちで観にいらしてください

――この作品に出演を決められた理由は?

お話をいただいて台本を読み始めたら「これはなかなか……」と驚きの連続でした。でも、物語の題材になっている、「人は必ず悪の感情を持っている、だからこそ人間は美しい」というテーマが面白いなと率直に思いました。私が演じさせていただくお役に関しても、今まで演じたことがない人物像だったので、挑戦させていただきたいと思い、一瞬で出演を決意しました。

――新しいことにチャレンジしたいという気持ちがあったのですか?

大きかったですね。その気持ちを原動力にお稽古に踏み出したのですが、今は案の定苦戦しております(笑)。

――どんなところで苦戦されている?

素晴らしい台本のもと、お話が繰り広げられていますが、今回いただいている二役は心情表現がなかなか複雑で。内側に秘めている感情と表に出す言動がちぐはぐなんですよ。「これはどうしたものかな?」と悩んでいたところに脚本・演出の福原(充則)さんが「それでいいんです」と一言おっしゃって。「極端に演じた先に見えてくるものがあると思うので、今はとにかく体当たりでやってみましょう」と言っていただいたので、その言葉を胸にとめて挑戦していますが、難しいです。

――悪事の限りを尽くす諸星良夫(古田新太さん)とその息子・諸星大(尾上右近さん)が主役のストーリーで、咲妃さんが演じる女性は物語のキーポイントになる二役を演じます。まず、花室麻子という役をどうとらえていますか?

一見悪の被害者のように見える女性ですが、そんな彼女だって必ずしも善人ではないのですね。麻子は今自分が置かれている閉鎖的な環境を脱して自分で人生を切り開こうとした矢先に諸星親子に出会い、人生が思わぬ方向に転がっていく女性。抗うことをやめて流れに身を任せる方が楽だという感情すら抱いていますが、心の奥底には周りの人を見下す感情も根深くあって……。麻子の人間像をもっともっと深く突き詰めていきたいし、限られたシーンでどこまで表現できるかが課題です。

福原さんには「『すいません』を連発して生きる女というコントだと思ってやってみたら?」と言っていただきました。もしかしたら麻子はそうやって生きているほうが楽だと思っているのかもしれない。謝りながらも、本心から謝っていない麻子の感情の流れが興味深いなと思いますし、いろいろな角度から麻子という女性を楽しんでいただけたらいいなと思います。

咲妃みゆimg

――後半で演じる小子はいかがでしょうか。

二役目の小子は、諸星一族の血を受け継いだ女性です。古田さん演じる良夫おじいさんと右近さん演じる大お父さんを観察して悪を盗んでいきたいと思います。ネタバレにならないように多くを語らないでおきますが(笑)、麻子と小子はまったく違う役なので、声のトーンから立ち居振る舞いまでガラッと変えていきたいと思います。

――稽古はどのように進んでいますか。

感染対策はバッチリですね。かなりの熱量で台詞がやり取りされる、活気に満ち溢れた稽古場ですが、休憩に入ると皆さんが同じ方向を向いて、それまでの熱気が嘘かのようにシーンと静まり返って換気されるのを待つ、みたいな(笑)。それも極端で面白いですよ。偉大な役者さんが勢揃いしていて、役作りを探っている方がいらっしゃらない。「自分はこうやってみます!」と思い切りよく演じてらっしゃいます。古田さんも右近さんも凄味のある演技を見せながら、「自分が、自分が」とならずに、色濃い登場人物のやりとりをキャッチしてくださって。どっしりと構えてくださっているのが頼もしくて心強いです。

――水野良樹(いきものがかり)さんと益田トッシュさんによる楽曲はどんなイメージですか?

良い意味で、いちいち壮大です(笑)。登場人物が個性的な分、楽曲もかなりパンチの効いた色濃いものになっています。歌わせていただくと不思議と気持ちが高揚しますし、芝居の流れの中で決してお客様を飽きさせない楽曲が続くなと思います。麻子にしても小子にしても「らしくない」楽曲を歌うんです。意外性がいろいろなところにちりばめられているなと思いますね。

――これまでにないタイプの作品への出演に、びっくりされているファンの方もいらっしゃるかもしれません。でも、台本を読んでみたところ、初めは悪事の数々に驚いても、最終的には爽快さを覚える舞台になるのではと感じました。一面の悪の中で、咲妃さんがより一層輝きを放つのではないかと期待しています。

輝けるように頑張ります(笑)! 私を応援してくださっている皆様には、「お芝居が好きで、ここまで歩んできた」と繰り返しお話させていただいていますが、今回も私自身のスタンスは何ら変わらずに務めております。「役者・咲妃みゆはどんなものだろう、お手並み拝見」(笑)という気持ちで客席にお座りいただけたらと思います。

負の感情は人間が生きていく上では切り離せないものだと思いますが、日常生活ではそれをさらけ出していないですよね。自分たちが隠している部分をこの作品の登場人物たちは放出している。先ほど言っていただいたように、最後には爽快感を覚えるものになると信じて取り組みたいです。

菊田一夫演劇賞受賞で改めて初心に帰りました

――話変わりまして、第46回菊田一夫演劇賞受賞おめでとうございます!

ありがとうございます。

――『NINE』のルイザ役、『GHOST』のモリー役の演技に対しての受賞ですが、受賞されてどんなことを感じられましたか。

私自身喜んだのはもちろんなのですが、周りの方々が本当に喜んでくださって祝福の言葉をたくさん掛けて下さったことが嬉しかったし、驚きでした。長らく応援してくださっているファンの方々が「今まで応援してきて本当に良かった」と言ってくださったり、両親もとても喜んでくれて、『NINE』や『GHOST』の共演者の方々にも「共演出来てよかった」と言っていただいたりして、とても嬉しかったです。私は自分の意志で演劇の世界に飛び込みました。もちろん今まで苦労がなかった時期はないのですが、好きで演劇のお仕事をさせていただいていることに改めて感謝しました。これからも頑張ろうと身が引き締まり、挑戦心が湧きあがりました。

――授賞式には、ご両親から成人式に贈られた振袖の着物をお召しになって出席されたんですね。

今までお着物をお召しになった歴代の受賞者の方々を拝見して、素敵だなと思っていたのです。私も宝塚歌劇団時代から着物を身にまとうのが大好きだったので、「授賞式は着物で」と思ったとき、母が一言「振袖を着たら?」と言ってくれました。両親は遠く離れた東京まで足を運べないので、家族一緒にという気持ちで振袖を身にまといました。久しぶりに袖を通した振袖は美しくて、20歳当時のまま待っていてくれたのかなと思いましたね。今年で30歳になったのですが、ギリギリ着てもいいかなと思い……(笑)、20歳という特別な瞬間から10年という節目に振袖を身にまとえたのもありがたいご縁だなと思いました。初心に帰れましたね。

――今回の受賞作に限らず、咲妃さんがこれまで様々な挑戦をされたことが評価されて受賞につながったのだと思いますが、咲妃さんが挑戦する原動力になっているものは何ですか?

応援してくださっている方々に喜んでいただきたいという気持ちが一番強いです。きれいな言葉を並べたいということではなくて……。最近「何のためにこの仕事をさせていただいているのかな?」とよく考えます。もちろんこの仕事が好きだからなのですが、ずっと寄り添ってくださっているファンの方々や応援してくれている家族に「面白いね」「観てよかった」と思っていただける時間を一瞬でも多くお届けしたいと思うことが、私の原動力になっています。

――受賞第一作がミュージカル『衛生』なのですね!

「さあ、次章の始まり!」ということでしょうか(笑)。演劇人生、まだまだ突っ走ります!

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――最後に作品に期待していらっしゃる皆さんに向けてメッセージをいただければと思います。

ミュージカル『衛生』の誕生に携われることを本当に光栄に思っています。ご覧になるお客様には冒頭から大いに驚き、大いに笑って、一味違うミュージカルの楽しみ方を実体験していただきたいなと思います。粗筋だけ読むと「どんなお話だろう」と身構えてしまうかもしれませんが、登場人物やストーリーは実は至ってシンプル。日本が舞台の話で、不思議な親近感を持ってお楽しみいただけるのではないかなと思います。ぜひ何度でも、悪者たちを観にいらしてください。

取材・文/大原 薫(演劇ライター)
撮影/吉原朱美
ヘアメイク/本名和美



咲妃みゆ(Sakihi Miyu)

1991年生まれ。宮崎県出身。2010年宝塚歌劇団へ入団、2014年より雪組トップ娘役に就任。2017年『幕末太陽傳』を最後に退団。その後は女優・歌手として幅広く活躍。近年の主な舞台は、ミュージカル『シャボン玉とんだ 宇宙までとんだ』『ゴースト』、朗読劇『逃げるは恥だが役に立つ』など。ほかにTVドラマ『まだ結婚できない男』、映画『窮鼠はチーズの夢を見る』などに出演。歌手としては昨年、アルバム『MuuSee』をリリース。2021年、ミュージカル『ナイン』のルイザ役、ミュージカル『ゴースト』のモリー役で第46回(2020年度)菊田一夫演劇賞を受賞。

Stage Information

ミュージカル『衛生』リズム&バキューム

ミュージカル『衛生』リズム&バキューム

脚本・演出:福原充則
音楽:水野良樹(いきものがかり)、益田トッシュ
振付:振付稼業air:man

出演:古田新太、尾上右近、 咲妃みゆ、石田明(NON STYLE) 、ともさかりえ、六角精児、他

【東京公演】 2021年7月9日(金)〜25日(日) TBS赤坂ACTシアター
【大阪公演】 2021年7月30日(金)〜8月1日(日) オリックス劇場
【福岡公演】 2021年8月9日(月)〜11日(水)久留米シティプラザ

公式サイト

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