昨年、デビュー45周年を迎えられた島田歌穂さん。ミュージカル『レ・ミゼラブル』のエポニーヌ役で脚光を浴び、エリザベス女王御前コンサートにも出演。以降、数々の作品で活躍し、現在は大阪芸術大学教授として後進の指導にも力を注いでいます。島田さんの45年を振り返り、デビュー45周年記念アルバム『Slow Ballade おとこごころ』や2021年6月開催の『Musical, Musical, Musical!! vol.2』について、コロナ禍の中で感じたことなどをお話いただきました。
帝劇の神様が応援してくれた
――デビュー45周年、改めておめでとうございます!
ありがとうございます。45周年と言うと皆さんに「何歳なんだろう」とびっくりされるんですが(笑)、(『がんばれ!!ロボコン』の)ロビンちゃんから、気づいたらそんなにたってしまいました。でも、どんなときも振り返ると歌・ダンス・芝居と好きなことばかりをさせていただいてきたのは、なんて幸せなことなんだろうと思います。本当に感謝の気持ちでいっぱいですね。
――45年の中で印象に残る作品を挙げていただけますか?
やはり、『レ・ミゼラブル』ですね。一気に人生を開いてもらったのは『レミゼ』ですし、エポニーヌ役を1,000回以上演じさせていただき、20代、30代、40代とずっと『レミゼ』と共に生きることができた。かけがえのない特別な存在ですね。
――今年8月の『THE MUSICAL CONCERT at IMPERIAL THEATRE』では島田さんは『レ・ミゼラブル』よりエポニーヌのナンバー『オン・マイ・オウン』を歌われました。エポニーヌは革命に燃える青年マリウスに恋し、彼をかばって命を落とす役。島田さんの中には今もエポニーヌの魂が生き続けているのだと感じましたが、歌われたときのお気持ちは?
帝国劇場で『オン・マイ・オウン』を歌うことは二度とないと思っていました。だから、お話をいただいたときは、『レミゼ』の中の『オン・マイ・オウン』を記憶に残してくださっている方々がどう感じられるだろうと思って、実はプレッシャーだったんです。これまでずっと自分のコンサートなどでこの曲を歌ってきましたが、あらためて今回、こんなに練習したことはなかったというくらい練習しました(笑)。コンサートに照準を合わせて稽古をしていくうちに、当時の声の出し方などをだんだん思い出してきて。帝劇の空間に立った瞬間、タイムスリップというか当時の景色が蘇ってきて……不思議でしたね。『レミゼ』の神様か帝劇の神様が本当に応援してくれたように感じて、本当に幸せな気持ちで歌わせていただきました。今まで頑張ってきてよかった、と感謝でいっぱいでした。
――他には、どんな作品が思い出に残っていますか。
女優としての経験でいうと『飢餓海峡』(2006年)。素晴らしい戯曲と役者さんに恵まれ、演出の木村光一先生の「歌穂ちゃん、大丈夫だよ。そのままでいいんだからね」という言葉を信じて必死に食らいつき、挑戦した作品。思いがけず紀伊國屋演劇賞個人賞をいただき、一つ大きな自信につながったかなと思います。生涯感謝する作品ですね。
――島田さんはミュージカルのみならず、音楽劇やストレートプレイなどいろいろなタイプの作品に出演されていますね。
『レミゼ』のオーディションを受ける前に、こまつ座の『日本人のへそ』で井上ひさしさんの作品に出演したのが、芝居との出合い。それまではミュージカルしか知らない私が井上先生の台詞に向き合わせていただいたのがカルチャーショックでした。言葉一つ一つの大切さを知り、もがきながら『イーハトーボの劇列車』『花よりタンゴ』と必死に挑戦させてもらえたことが、『レミゼ』にもつながっていったと思います。『レミゼ』は全編歌ですが、歌として歌ってはいけない。全部を台詞としてどう伝えていくかということを心がけました。「ミュージカルはただ歌や踊りを見せるものではない、ミュージカルは芝居が大事」ということは、今も(大阪芸術大学で)学生たちに最初に伝えていますね。
――大阪芸術大学舞台芸術学科の教授として、学生たちにどんなことを指導されているのですか。
ミュージカルには歌・踊り・芝居と3つの要素がありますが、私は「歌と踊りをすべて、芝居で包んでいく」とまず教えていますね。私は歌の実技を教えていますが、歌詞を台詞として、どう伝えていくか。例えば、翻訳ミュージカルでは(言葉数の問題で)元の歌詞の内容のすべてを日本語に訳せないから、「日本語ではこれしか言葉がないけれど、その奥にはこういう意味が込められている。それをどう芝居で伝えるか」ということなどを様々な楽曲を通して学生たちに伝えています。私が伝えたことでどんどん変わっていく瞬間を見ると、とても嬉しいですね。
一曲一曲の男心を伝えたい
――昨年はデビュー45周年を記念して、数多くのJ-POPスタンダードの中から男性アーティストの名曲をカヴァーしたセルフプロデュース・アルバム『Slow Ballade -おとこごころ-』をリリースされました。どうして男性アーティストをカヴァーしようと思われたのですか?
節目の年にアルバムを作りたいとテーマを絞っていく中で、これまでもコンサートで日本のアーティストの曲をたくさん取り上げてきたなと思い出して。私は結婚してからはずっと(夫であるピアニスト、作・編曲家、プロデューサーの)島健と一緒にコンサートをやってきました。名曲で、皆様の中でイメージがあればあるほど、それを島健アレンジでどう伝えるかというのがやりがいのある挑戦だったんですね。集大成として、男性アーティストの曲を集めようというのがこのアルバムのコンセプトなんです。名曲ばかりですが、女優・島田歌穂が一曲一曲の男心をどう伝えられるか、ということに力を注ぎましたね。
――特に思い入れのある楽曲は?
厳選に厳選を重ねた楽曲ですが、『いっそセレナーデ』(井上陽水)は結婚してすぐに始めた島健とのデュオ第一回目から歌っている曲。そして、『I LOVE YOU』(尾崎豊)や『どんなときも。』(槇原敬之)、『瞳をとじて』(平井堅)はコンサートでずっと歌ってきた曲なんです。『ひまわりの約束』(秦基博)と『メロディー』(玉置浩二)は今回のレコーディングで初めて歌いました。
このアルバムの個人的なビッグ3は、青春時代からアルバムを聞きまくってきた小田(和正)さんと桑田(佳祐)さんと(山下)達郎さんの曲。小田さんの楽曲は選曲に悩みましたが、自分が歌うなら、と『たしかなこと』を。島健が20年くらい仕事をご一緒している桑田さんは『月』を歌わせていただきました。お母様が亡くなったときにお母様を思って書かれた曲だというエピソードも伺って、ぜひ歌わせていただきたいと思ったんです。達郎さんの楽曲の中で一番好きな曲が『FUTARI』。「(忌野)清志郎さんもいいのでは?」と言われ、意外性を狙って挑戦した(RCサクセションの)『スローバラード』をアルバムタイトルにさせていただきました。全部に思い入れがある曲ばかりです(笑)。
――アルバムを聞くと島さんのピアノが島田さんの歌にやさしく寄り添っているのがとても素敵で、お二人の繋がりや愛情を感じさせるなと思いました。
ありがとうございます。ピアノとボーカルを中心にストリングスを入れたアコーティックサウンドが、本当に美しい島健の世界の象徴のような気がします……妻の私がこう言うのもなんですが(笑)。
――一曲一曲に思いを込めて、ドラマを感じさせる歌を歌われる島田さん。島田さんにとって歌とは?
私、名前に「歌」の字が入っているじゃないですか。芸名だと思われるかもしれませんが、本名なんです。なんてプレッシャーな名前をつけてくれたんだろうと思いますが(笑)、父が音楽家で母が女優・歌手でしたから、歌という文字を名前に使ったんですね。
不思議なことに母が亡くなったときも父が亡くなったときも、コンサート中でした。「何があっても歌っていきなさい」と両親から言われている気がします。振り返ると、ずっとそこには歌があった。歌うことによって自分も力をもらいながら生きてきたんだなと思います。だから、これからも声の続く限り、何があっても歌い続けていかなくてはと思いますね。
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取材・文/演劇ライター・大原 薫
撮影/吉原朱美
島田歌穂(Kaho Shimada)
1974年、子役デビュー。87年、ミュージカル『レ・ミゼラブル』で脚光を浴び、出演回数は1,000回を超えた。同作の世界ベストキャストにも選ばれ、英国王室主催のコンサート「ザ・ロイヤル・バラエティ・パフォーマンス」に出演。参加したベストキャストアルバムが米国にてグラミー賞を受賞するなど国際的にも高い評価を得る。
他の主な出演作品は『ウエストサイド・ストーリー』『黙阿弥オペラ』『江利チエミ物語』『飢餓海峡』『ビリー・エリオット』『メリー・ポピンズ』『ナイツ・テイル』など、ミュージカルからストレート・プレイまで幅広い。
他にもディズニー映画『美女と野獣』『メリー・ポピンズ リターンズ』にて吹替を務める。
芸術選奨文部大臣新人賞、紀伊國屋演劇賞個人賞、読売演劇大賞優秀女優賞など受賞多数。大阪芸術大学教授。
Information
舞台『モンテンルパ』
公演日:2021年1月23日(土)〜1月30日(土)
会場:東京芸術劇場シアターウエスト
島田歌穂 Musical,Musical,Musical!! vol.2
スペシャルゲスト:山崎育三郎
音楽監督:島健/演奏:島健&The Happy Fellows
公演日:2021年6月17日(木)19:00開演
会場:Bunkamuraオーチャードホール
アルバム『Slow Ballade ー おとこごころ ー』
昨年(2019年)デビュー45周年を迎えた女優・
楽曲は、山下達郎『FUTARI』、尾崎豊『I LOVE YOU』、平井堅『瞳をとじて』 、秦基博『ひまわりの約束』、桑田佳祐『月』などいずれも名曲
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