昨年、「MANKAI STAGE『A3!』ACT2!」の秋組新メンバー、泉田莇(いずみだ・あざみ)役に抜擢され、一躍注目を浴びた俳優、吉高志音さん(23歳)。180センチの恵まれたスタイルと歌唱力が魅力で、今年も3月にドイツのエリートスポーツ学校を舞台にしたミュージカル『フィーダシュタント』に出演するなど活躍が続きます。もともと歌手を目指していたという学生時代の話から、俳優としての現在地、今後の目標などをたっぷり伺いました。
――昨年はどんな年でしたか?
心がすごく動いた1年でした。舞台上でも、観劇や映画、ドラマを見ても、自分だったらどう感じるかを想像するようになったし、演者それぞれの色を見るようになりました。これまで感じてきたものに新たなエッセンスが加えられて、心が動いていく感じでしょうか。以前は感じられなかったものを感じることができて、自分の表現に少し深みが出たように思います。
――「MANKAI STAGE『A3!』ACT2!~SUMMER 2022~」とそれに続く「~AUTUMN 2022~」で吉高さんを知った人も多いと思います。振り返っていかがですか?
学ぶことが多く、役者として少し成長できたかなと思います。最初の本読みの時から、心の中で「絶対に負けねぇ!」と思っていたんですけど(笑)、早く皆に追いつきたくて、監督(ゲームのプレイヤーのこと。舞台では、観客が監督とされる)に認めてもらいたい気持ちでいっぱいでした。もちろん最初は秋組の一員としてなじめるか不安もあったんですけど、皆さん温かく受け入れてくれて、公演をするごとに家族のような絆が深まっていくのを感じました。
「~AUTUMN 2022~」で莇は、(中村太郎さん演じる)十座から言われた「なりたいものになる」「舞台の上では違う誰かになれる」というセリフに希望を見出します。ぼくも公演中、毎回この言葉について考えていました。そのときに莇が返すセリフは「まだよくわかんねえわ」なんですけど、ぼくの中でも、役者として落とし込めているかといわれると完全ではなくて…。99%理解できても、あと1%をどう埋めていくかを考える。役者として、そこに楽しさを見出す時間でした。
――ゲームのキャラクターを演じるのは難しかったですか?
難しさはもちろんありました。でも、今回の舞台で描かれたのは、誰もが経験する思春期の物語。自分も当時こんなことを感じていたな、親とこういうことでぶつかったな、と思い返しながら演じました。自分の過去の体験が、舞台上で「生きる」ことにつながると思ったんです。演出の松崎史也さんからは、「心配することはないから、感じたままぶつかってほしい」とおっしゃっていただき、秋組の熱い気持ちに乗っかっていくことができました。松崎さんとふたりだけで稽古場を2時間くらい借りて、「ポートレート」の演出をつけていただいたのも、楽しかったです。身体で表現しながら歌うという経験が初めてだったので、すごく多くのものを学ばせてもらいました。
――もともとは歌手になりたかったそうですね? 莇役では、歌唱も見事でした。
小さい頃から歌うことに憧れていて、母や姉と、多いときは週4回くらいカラオケに行くほど歌うことが好きでした。当時は、自分を表現できるのが歌だけだったんだと思います。今はダンスもお芝居も、歌と同じで自分の気持ちを表現する手段と思えるようになりました。最初はカウントも分からず、ボックスも踏めず、ダンスには苦手意識がありましたが、順応が早いのか、今ではもっといろんなジャンルを踊ってみたいと思っています。
「~AUTUMN 2022~」では、振付の梅棒さんが「あえて振付に余白を作っている。その余白を役者が埋めてくれる」とおっしゃっていたんですが、ダンスのアクセントを考えることに楽しみを覚えるようにもなりました。少しずつ「余白」を埋められるようになってきた気がします。成長したのかな。自分ではわからないですけど(笑)。
――その順応性の高さは、幼少期からですか?
小さい頃はそうでもなかったです。ぼくは6歳まで中国にいて、小学校に入学する段階で日本に来たんですが、最初は言葉が分からず、戸惑うことばかりでした。漢字は分かるんですけど、平仮名が分からなくて。生ものを食べる習慣もなかったので、お寿司が食べられなかった。今は大好きですけど。
言葉を覚える以上に大変だったのが、人の輪に入っていくことです。中国ではすぐ友達ができていたのに、日本では難しくて。あるとき、クラスで人気の子とぼくが、体育の時間に50m走のタイムを競うことになったんです。その子はすごく応援されていたのに、ぼくは全然応援されなかった。ぼくとその子は何が違うんだろう、と悩みました。絶対に負けたくなかったんですが、タイムでもしっかり負けて…(笑)。そのせいか、中学校ではめちゃくちゃがんばって、リレーにも選抜されたし、校内で3番目くらいに足が速くなりました。バスケ部に入って、走りこんでいたおかげかもしれないですけど。
――スポーツ少年から、歌を仕事にしたいと思うようになったのはなぜですか?
部活で運動はやっていたんですが、歌が好きで、歌をやりたいという気持ちが根底にずっとありました。日本に来た日、母が車内で小田和正さんの「my home town」を流してくれたんです。言葉の意味は分からなかったけど、なんて優しい歌なんだろうと感動しました。当時の光景、乗っていた車の色、車窓から見えた東京タワー。今も忘れられません。その日以来、いつも歌に助けられてきました。
友達ができなくてつらかった小学生の時、ふとテレビで流れてきた日本の歌は優しくて。家族とカラオケに行く時間は、ご飯を食べるより楽しかった。高校生の頃は、「ONE OK ROCK」を好きになり、ひたすらライブ映像を見ていました。客席に熱く語りかけ、魂を燃やしながら歌で伝える姿に心を動かされ、自分もこんな仕事をしたいと思ったんです。
――歌手になりたいと明確に定まったんですね。
はい。当然、親には反対されました。親とカラオケに行き、なぜかアカペラで歌ってみろと言われ、歌ったのに「ダメだ」と言われ、何回も喧嘩しました。親としては、心配だったんでしょう。でもぼくは絶対認めてほしかったし、やりたいことを仕事にしたかった。「黙って見てて!」と何度も説得しましたが、進路を決めるタイミングでも親の納得は得られなくて、いらだちを壁にぶつけたこともありました。パンチの跡はこっそりコルクボードを貼って隠してたんですけど、引っ越しのタイミングでばれて、怒られました(笑)。
当時は、自分なら絶対に大丈夫という謎の自信がありました。今思えば、それは過信でした。好きという気持ちは大きくても、きちんと表現する力がなければ意味がない。好きだ、と自信を持って言える力をつけないといけないと今は思います。
――中国語だけでなく英語もしゃべれるそうですが、独学ですか?
大学ではアメリカに留学して歌をやってみたいという気持ちがあって、語学に強い国際高校に進学したんです。今思えばなんて短絡的なんだろうと思いますが、とりあえず、アメリカの路上で歌えば夢はかなうと思っていて(笑)、留学を視野に入れて語学を勉強していました。大好きな「ONE OK ROCK」さんが英語をしゃべっていて、憧れたのもありました。結局、高校時代は1カ月、アメリカに旅行しただけで終わったんですが、いつか必ず、ニューヨークに行ってみたいです! そのためにも語学の勉強は続けたいです。
――3月にはミュージカル「フィーダシュタント」に出演されます。韓国の大学路(テハンノ)で人気が出た作品で、フェンシング選手を目指す生徒たちの物語ですね。
出演するのは初めてですが、韓国ミュージカルには切ない話が多くて、大好きなんです。しかも、フェンシングをやれるなんて貴重な機会。ビジュアル撮影の時に剣の持ち方や突き方を簡単に教えてもらったんですが、慣れない姿勢が大変でした。試合ならこの姿勢をキープして、もっと激しく動かないといけないわけで…。大変そうですが、フェンシングの五輪メダリストの太田雄貴さんが監修をされていて、プロに指導していただけるのも楽しみのひとつです。撮影の時、自分の顔の前に剣を構えるポーズがあったんですが、このポーズには、自分の剣に刻まれたしるしに口づけして誓いを立てる、という意味があるそうです。出演するからには、そうしたフェンシングの歴史や知識も学びたいと思います。
――確かに貴重な機会になりそうですね。役者になって良かったですか?
良かったと思うことだらけです! 役者として他人を生きること、深いところに潜っていくことが、今はただただ楽しいです。今まで自分が感じてこなかったことを感じられるし、普段はしない、声をあげて叫んだり伝えたりすることができるのも役者だから。いろんな役を生きて、もともと湧き出なかっただろう感情が出てくると、新しい色が見えるんです。その色が自分に足されて、人として少しずつ成長できていると感じます。自分がパレットになって、いろんな色を足されていく感じ。それがとても楽しいです。でも、まだまだ表現者としての深みは全然足りていない。深みと色をもっと増やして、表現者として豊かになりたい。そのために精進を続けたいです。
――役者として、今後やってみたい役や目標はありますか?
うーん…、全然幸せになれない男をやってみたいです(笑)。舞台の上でボロボロになってみたい。幸せなものってキラキラしていて美しいですけど、ぼくはそれが砕けたときが一番綺麗だと思うんです。そのままでもガラスは綺麗ですけど、割れたときにいろいろな色が見えますよね。それと同じで、人間も葛藤すればするほど、人間味や深みが出るのかなと思います。
これからも絶対に自分の最大限を更新していくので、更新されていく景色とぼくの姿を見てほしいです。もっとわくわくしてもらえるように、ぼく自身も楽しみながら成長していきたいと思います。
取材・文/道丸摩耶(産経新聞社)
撮影/黒澤義教
吉高志音(Yoshitaka Shion)
1999年7月2日生まれ。6歳まで上海で育つ。幼少より日本の歌が大好きで、歌手になる夢を描く。日本語・中国語(北京語、上海語)・英語が話せるトリリンガル。高校を卒業する頃、芝居に興味を持ち俳優デビュー。2022 年秋より開催された MANKAI STAGE『A3!』ACT2! ~AUTUMN 2022 にてファン待望の“泉田 莇 役”をオーディションで勝ち取り、注目を集める。今年3月、2022年韓国・大学路にて話題になった Musical『フィーダシュタント』に出演する。
Stage Information
ミュージカル『フィーダシュタント』
作・作詞:チョン・ウンビ
作曲:チェ・デミョン
編曲:シン・ウンギョン、チェ・デミョン
演出:キム・テヒョン
振付:イ・ヒョンジョン
アクション:ソ・ジョンジュ
オリジナルプロダクション:ミスティックカルチャー
日本版演出:ほさかよう
日本語翻訳/訳詞:安田佑子
フェンシング監修:太田雄輝
フェンシング指導:徳南堅太
音楽監督:宮崎誠
主催/企画/制作:LDH JAPAN
RIKU(THE RAMPAGE from EXILE TRIBE)・糸川耀士郎
正木郁・吉高志音・浦川翔平(THE RAMPAGE from EXILE TRIBE)・藤田玲
公演日程
2023年3月16日(木)~3月26日(日)
会場:ニッショーホール(東京都/旧ヤクルトホール)