次から次へと音楽が押し寄せる。怒涛のナンバーと濃厚な人間ドラマもあいまって、見終わったあとには、マラソンを走り切ったかのような達成感すらおとずれた。
名作ブロードウェイ・ミュージカル『ドリームガールズ』が2月5日(日)、東京・有楽町の国際フォーラムホールCで開幕した(14日まで、その後大阪、福岡、名古屋)。5日のソワレに行われたゲネプロの様子をレポートする。
※本文はネタバレを含みます。
トニー賞6部門・グラミー賞2部門を受賞。2006年にはビヨンセ主演で映画化されたいわずとしれた名作が、満を持して日本人オリジナルキャストを迎えての初めての上演となった。主演の歌姫ディーナ役には元宝塚歌劇団雪組トップスターの望海風斗。脚光を浴びるディーナに対して波乱万丈の人生を選ぶことになるエフィは福原みほ/村川絵梨のWキャスト。この日のゲネプロは村川ver.であった。
歌手になる夢を抱いてシカゴから飛び出してきた3人の少女、ディーナ、エフィ、ローレル。圧倒的な歌唱力を持つリード・ボーカルのエフィを中心にした彼女たち「ザ・ドリーメッツ」の物語はニューヨーク・アポロシアターから始まる。シアターへの出演権をかけたコンクールに集った夢追い人たち。彼らによる楽曲がポンポン変わっていき、めくるめくショービズの世界へと引き込まれる。
(左から)カーティス/spi、C.C./内海啓貴、マーティ/駒田一、エフィ/村川絵梨、ディーナ/望海風斗、ローレル/sara、ジェームズ/岡田浩暉(撮影/吉原朱美)
ドリーメッツが出会ったのは、今は中古車販売員だが、いつか音楽業界での大成功をもくろむ野心家のカーティス(spi)。コンクールには負けたものの、彼に見込まれ、そのアシストによって、人気抜群のソウルシンガー、ジェームズ(岡田浩暉)のバックコーラスの座を手に入れる。ジェームズとドリーメッツのナンバー≪Fake Your Way To The Top≫で序盤のボルテージは最高潮に。女にだらしないが才能あふれる人気歌手ジェームズ、岡田はその“テキトーさ”をばっちり体現。岡田の軽妙で粋、甘い歌声と、村川を軸としたドリーメッツが絡み合う。
ソウルをPOPSに変えて音楽業界に革命を起こす。No.1になるためにはどんな手段もいとわない。まずはスター歌手ジェームズ、そしてドリーメッツと、エフィの弟の作曲家C.C.(内海啓貴)という新しい才能を手に入れた瞬間から、カーティスの夢…いや、野望が動き始める。ここからしばらくはぎらつく男たちが物語を引っ張っていく。カーティス、ジェームズ、C.C.らによる≪Cadillac Car≫は、カーティス役のspiの端正でいながらも底知れない不気味さ、迫力がぞくぞくするような男の色気となって観客を魅了する。
ジェームズとバックコーラスのドリーメッツは、大ヒットを連発。そしてカーティスは、ついに「ザ・ドリーメッツ」を「ザ・ドリームズ」としてソロデビューさせる。だが、その代わりにリード・ボーカルをエフィからルックスの良いディーナに変えるという。その大きな決断は、同時にドリームズにとっての分断を生むこととなった。
「ザ・ドリームズ」としてのお披露目のステージで歌うのは、もちろん観客お待ちかねのテーマ曲≪Dreamgirls≫。リード・ボーカルとしてその中心に立つのはディーナだ。潔癖でマジメ、固い芽のようだった少女が、洗練された大人の女性として一気に花開く。望海のキラキラ輝くような存在感は、さすがスター!の説得力だ。第一部のクライマックスであろう。
第一部はジェームズ&ドリーメッツのヒットナンバーを畳みかけ華やかなショービズに世界に酔いしれる展開だったが、第二部では人間同士のぶつかり合いから音楽が生まれる。その主軸となるのは、ディーナとエフィという対照的な人生を歩むことになる二人の女だ。元リード・ボーカルのエフィは、カーティスの子供を宿しながらも彼と別れ、ドリームズからも脱退する道を選ぶ。エフィ役の村川は絶唱につぐ絶唱。このミュージカルを代表する名ナンバー≪One Night Only≫の魂をふりしぼる歌唱にはただただ圧倒される。
ディーナの望海も、抜群の歌唱力はもちろんのことながら、演技力でも魅せていく。カーティスの“支配”から逃れて、自分自身の夢を追いたいと苦悩する姿は、羽の破れた蝶のような美しさだ。望海も魂をさらけ出す迫力ある名演。この過程があるからこそ、ラスト、再び彼女たちが歌声を合わせるシーンが胸に迫る。
(左から)sara、望海、村川、ミシェル/なかねかな(撮影/吉原朱美)
前半のあえての軽~い演技とは打って変わって、ジェームズ役の岡田もカーティスから見捨てられながらも再起を誓うシーンでは凄みを感じさせる。ジェームズとの不倫に苦しむローレル役のsaraも存在感を見せつけ、一方でC.C.役の内海啓貴の瑞々しいたたずまいは、濃厚なキャスト陣の中での清涼剤のよう。
魂と魂がぶつかり合うキャスト陣渾身の歌唱と演技を、実力派・眞鍋卓嗣によるタイトでスタイリッシュな演出が、完成度の高い作品へとまとめあげた。人種的な背景のある物語にオール日本人キャストで臨むという挑戦であったが、魂はそのすべてを超えていくという圧倒的な事実をみせてもらえた。ラストのセリフ、「ありがとう、いい夢を!」。こちらこそ、いい夢をありがとう。
取材・文/塩塚 夢(産経新聞社)
Stage Information
ブロードウェイ・ミュージカル『ドリームガールズ』
脚本・作詞: TOM EYEN(トム・アイン)
音楽: HENRY KRIEGER(ヘンリー・クリーガー)
オリジナル・ブロードウェイ版演出・振付: MICHAEL BENNET(マイケル・ベネット)
演出:眞鍋卓嗣
企画・制作・主催:梅田芸術劇場
出演:望海風斗、福原みほ/村川絵梨、sara、spi、内海啓貴、なかねかな、岡田浩暉、駒田一ほか
■東京公演/東京国際フォーラム ホールC 2023年2月5日(日)~14日(火)
■大阪公演/ 梅田芸術劇場 メインホール 2023年2月20日(月)~3月5日(日)
■福岡公演/ 博多座 2023年3月11日(土)~15日(水)
■愛知公演/ 御園座 2023年3月22日(水)~26日(日)
【Story】
1960年代、アメリカ。ディーナ(望海風斗)、エフィ(福原みほ/村川絵梨)、ローレル(sara)の3人は、コーラスグループ「ザ・ドリーメッツ」として活動し、ショービジネス界での成功を夢見ていた。そんなある日、野心家の中古車販売員、カーティス・テイラー・ジュニア(spi)が、彼女たちの才能を見初め、ドリーメッツのマネージャーとなることを申し出る。
カーティスは、抜群の人気を誇るソウルシンガー、ジェームズ・”サンダー”・アーリー(岡田浩暉)のマネージャーであるマーティ(駒田一)を説得。ドリーメッツの3人は、見事彼のバックコーラスの座を手に入れた。
エフィの弟で、才能あふれる作曲家のC.C.ホワイト(内海啓貴)と共に、大ヒット曲を続々と飛ばす彼女たちは、一躍スターの仲間入りを果たし、ついに「ザ・ドリームズ」としてソロデビューが決定する。しかし、デビューに向けて、カーティスから告げられたのは、高い歌唱力を持つエフィの代わりに、最も美しいディーナをリードシンガーにするという衝撃の方針だった。納得がいかないエフィは脱退、そして新メンバーミシェル(なかねかな)の加入など、複雑に絡まり合う人間模様に翻弄されながら、彼女たちが辿り着く場所、そしてそこで見る夢とは―。
公式サイトより