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【観劇コラム】舞台『ピーターとアリス』▷何かを諦めた人たちへの物語

東京芸術劇場プレイハウスで2月9日、舞台『ピーターとアリス』が開幕した。映画『ラスト サムライ』やミュージカル『ムーラン・ルージュ!』の脚本を手掛けたイギリスの劇作家、ジョン・ローガンによる作品で、2013年にロンドンで初演、翌年のローレンス・オリヴィエ賞で2部門にノミネートされた。今回が日本初演となる。

アリス・リデル・ハーグリーヴスとピーター・ルウェリン・デイヴィス。誰もが知る児童文学「不思議の国のアリス」と「ピーター・パン」のモデルとなった2人が出会い、記憶の迷宮へと入り込んでいく。それぞれの作品を生み出したルイス・キャロルとジェームズ・バリーも立ち現われ、さらには不思議の国のアリスとピーター・パンも物語の中から飛び出してくる。現実と物語、現在と過去、真実と記憶…。それらは幾層にも重なり合い、まじりあい、迷宮は一層怪奇さを増していく。

(左から)不思議の国のアリス/古川琴音、アリス・リデル・ハーグリーヴス/麻実れい、ピーター・ルウェリン・デイヴィス/佐藤寛太、ピーター・パン/青木 柚
撮影:岡千里

1932年、ロンドンの書店でルイス・キャロルの生誕100年を祝う展覧会が開かれた。開会の辞を述べたアリスを、出版社の社主であるピーターが訪ねてくる。2人の邂逅は史実に即したものだ。〝永遠の理想の子供〟として物語の中に閉じ込められるという共通の経験を持つ2人は、何を語り合ったのか。

現実のアリスを演じるのは麻実れい。上流階級の令嬢として生まれ、それにふさわしい人生を踏み外さずに生きてきた。気品があり、毅然として、頑固。そんな老婦人が心の中に隠し持つ迷宮を、長年麻実とタッグを組んできた熊林弘高の巧みな演出のもと、奥深い表現力で観客にむかって魔法のように提示してみせる。

佐藤寛太演じるピーターは出版社を立ち上げ、アリスに回顧録の執筆を持ちかける。佐藤は野心的でエネルギッシュな青年が、アリスとの出会いによって自らも迷宮という罠にかかり、自らの闇をさらけ出し、その闇に絡めとられていく様をスリリングに演じた。

キャロルとバリーをそれぞれに演じた飯田基祐と岡田義徳も、2人の天才が抱える孤独と狂気を、息をのむほどにリアルに表現する。飯田は耽美に甘く、岡田は激しくそしていびつに―。

そんな人物たちが織り成す感情のぬめりの中にあってパッと光を放つのが物語のキャラクターとしてのアリスとピーターだ。古川琴音はアリスがハマり役。古川自身が持つミステリアスな魅力が、無邪気で残酷なキャラクターを演じることで、ますます輝いていた。

ピーター・パン役の青木柚は実にフレッシュ。余計な衒いも力みもなく、素直に永遠を生きる少年を演じ、宙づりで縦横無尽に空を駆ける。けれど、みずみずしいからこそ、体を吊る紐が、時に彼を生み出したバリーが操る人形の糸のように見えて切なさがいや増す。

ピーター・パン/青木柚(左)、マイケル・デイヴィス/レジナルド・ハーグリーヴス 簡 秀吉

現実のアリスの婚約者・レジナルドとピーターの弟・マイケルの二役に挑んだ簡秀吉は今回が初舞台。レジナルドは自然でいきいきとした立ち居振る舞いで緊張感あふれる舞台に息抜きをもたらしてくれたし、バリーの寵愛を受けながらも、いや受けたがゆえに破滅していくマイケルを美しく演じた。

ピーター兄弟の父親であるアーサーを演じたのは山森大輔。ほぼセリフが発せない役どころながらも、異様なまでの存在感を残せるのはさすがベテランだ。

決して分かりやすくはないし、胸のすくような爽快感や、涙がこみ上げるようなカタルシスもない。けれど、大人になってしまった……つまり、何かを諦めたことのあるすべての人間にとって、自らの心のなかの迷宮と向かい合い、その先の物語を生きていく上で必要な何かしらの感情を、ある種の苦さとともにもたらしてくれる作品であることは確かだ。

取材・文/塩塚 夢(産経新聞社)
撮影:岡千里

舞台『ピーターとアリス』

作:ジョン・ローガン
翻訳:早船歌江子
演出:熊林弘高

出演:
不思議の国のアリス:古川琴音
ピーター・パン:青木 柚
ルイス・キャロル:飯田基祐
ジェームズ・バリー:岡田義徳
マイケル・デイヴィス/レジナルド・ハーグリーヴス:簡 秀吉
アーサー・デイヴィス:山森大輔
ピーター・ルウェリン・デイヴィス:佐藤寛太
アリス・リデル・ハーグリーヴス:麻実れい

【東京】2026年2月9日(月)〜23日(月・祝) 東京芸術劇場 プレイハウス
【大阪】2026年2月28日(土)〜3月2日(月) 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ

公演公式サイトはこちら

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