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COLUMN

【GP観劇コラム】『デスノート THE MUSICAL』▷正義とは?理想の社会とは? スリリングな対決を豊かな音楽とともに

2015年の世界初演から10年が経った『デスノート THE MUSICAL』。漫画原作の舞台はたくさんあるが、その中でも独特の存在感を放つ異色作といえるだろう。フランク・ワイルドホーンの音楽、ジャック・マーフィーの歌詞、アイヴァン・メンチェルの脚本と第一線の海外クリエイターにより創作され、演出は栗山民也が手がけている。

日本ではこれまで2017年と2020年に再演。韓国では韓国人キャストにより上演されている。2023年にはロンドンにてコンサート版が開かれた。ワイルドホーンがインタビューでイギリスとアメリカでの上演の可能性をほのめかしていたが、日本発のオリジナル舞台作品の海外進出が活発になってきた今、『デスノート THE MUSICAL』は恰好のコンテンツではないだろうか。

『デスノート THE MUSICAL』

さて、2025年版の話題といえば、夜神月役に加藤清史郎と渡邊蒼(Wキャスト)、Lに三浦宏規、弥海砂に鞘師里保、夜神粧裕にリコ(HUNNY BEE)と次世代の演劇を担うフレッシュな顔ぶれが揃ったこと。そして初演のオリジナルキャストである濱田めぐみと浦井健治が8年ぶりに戻ってきたことだ。濱田は同役のレム、夜神月を演じていた浦井健治は死神リュークと役を替えての登場となった。

舞台にはオーケストラピットを囲んだエプロンステージ(宝塚歌劇でいう銀橋のような)があるが、中央は途切れていて行き来はできない。その片側にりんごが一つ置かれ、スポットライトが当たっている。このシーンを見るたびにこれからの物語を予感させ心が躍る。アートのように切り取られた一瞬を生み出すのは栗山の得意技だと思う。

オープニングで映像のデジタル時計が00:00へとカウントダウンするのも同様だ。デスノートに名前を書いたら40秒で人は死ぬ、その40秒の重さと軽さが映し出される。場面は教室になり、夜神月や生徒たちが「法と正義は別のもの?」「正義は権力の道具」など社会に対する疑問や不満をあらわにする。

(写真左)死神レム/濱田めぐみ、死神リューク/浦井健治
撮影/吉原朱美

問題定義がなされたところで、オーケストラピットからレムとリュークが現れた。彼らは人間界を見下ろしながら、愛に左右され真実を見ることができない愚かな人間たちを歌う。濱田のレムは湿度が高く、気だるさすら感じさせる。

死神レム/濱田めぐみ
死神リューク/浦井健治

一方、浦井のリュークは起爆力抜群!コミカルでいい加減な奴かと思いきや、ふとしたところで鋭いから一筋縄ではいかない。今までとは違う、新たな浦井健治を見た気持ちになった。人間たちの物事を主観でしか見られない目に対して、死神たちの俯瞰の目がこの物語の主軸にもなっている。

月はリュークが落としたデスノートを拾うが、最初は全く信じていない。

夜神月/加藤清史郎

しかし暇つぶしにと、立て篭もり事件の犯人の名を書いてみる……。この時の40秒のカウントダウンと音楽との融合は鳥肌もの。ロック、ポップ、バラードなどワイルドホーンはバラエティ豊かに『デスノート』の音楽世界を紡いでいる。

加藤清史郎の月は真面目な優等生。頑なで一途、自分の能力に対して自信に満ちているようにも見える。「デスノート」は月によるソロ曲で、世界を変えてみせると歌う、その美しいメロディと爽快感が最高だ。

一方、三浦宏規のLには登場の「ゲームのはじまり」からノックアウトさせられた。

L/三浦宏規

表情や佇まい、声、仕草が手足の長いスレンダーさと相まってLそのもの。三浦はどんな役でも自分のものにするイメージだが、Lでもその期待を裏切らない。

硬質な月と掴みどころのないLとのぶつかり合いは見どころの一つ。Lが月に正体を明かす「死のゲーム」、月とLがテニスをしながら相手を探る「ヤツの中へ」など、デュエット曲は緊迫感たっぷり。ヒリヒリすること請け合いだ。

この物語は群像劇でもあると思う。両親を殺されたアイドル弥海砂(ミサ)がもう一冊のデスノートを拾い、共感した月に接触する。鞘師里保は現代っ子らしい等身大のミサをいきいきと表した。ミサの月への想いは恋心に変わるが、月はLとの対決に夢中。

弥海砂/鞘師里保

そのミサを一途な愛情で包むレム……。ある種の片思いの連鎖に思えて、切ないというしかない。レムから『キャッツ』のグリザベラを思い出したのは、濱田が演じているからだろうか。

警察局長であり月の父・夜神総一郎は愛する自慢の息子が容疑者となり、葛藤する。今井清隆が激しくスマートなイケおじになっていて、一瞬誰が演じているのかわからなかった(もちろん今井さんは元々イケおじ)。

夜神総一郎/今井清隆

夜神粧裕は唯一の平凡な女子で、兄の月をヒーローのように慕っている。リコ(HUNNY BEE)の素朴さ、純粋さはこの物語の一服の清涼剤といえるだろう。

(写真右)夜神粧裕/リコ(HUNNY BEE)

ラストはリュークの心変わりとレムの献身が大きく作用する。人間はいくら足掻いても神が司どるものには抗えないということか。単にエンタメというだけでなく、演劇らしい骨太な魂が注入されたミュージカル。この先の10年も楽しみにしたい。
 

取材・文/三浦真紀(演劇ライター)
撮影/吉原朱美


Stage Information

『デスノート THE MUSICAL』

『デスノート THE MUSICAL』

原作:「DEATH NOTE」(原作:大場つぐみ 作画:小畑健 集英社 ジャンプコミックス刊)
作曲:フランク・ワイルドホーン
演出:栗山民也
歌詞:ジャック・マーフィー
脚本:アイヴァン・メンチェル

出演:
夜神月/加藤清史郎/渡邉 蒼(Wキャスト)
L/三浦宏規
弥海砂/鞘師里保
夜神粧裕/リコ(HUNNY BEE)
死神レム/濱田めぐみ
死神リューク/浦井健治
夜神総一郎/今井清隆

【東京】2025年11月24日(月・振休)~12月14日(日)
東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)

【大阪】2025年12月20日(土)〜23日(火)
SkyシアターMBS

【愛知】2026年1月10日(土)~12日(月・祝)
愛知県芸術劇場 大ホール

【福岡】2026年1月17日(土)・18日(日)
福岡市民ホール 大ホール

【岡山】2026年1月24日(土)・25日(日)
岡山芸術創造劇場ハレノワ 大劇場

公演公式サイトはこちら

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