日韓国交正常化60周年を祝うミュージカルイベント「Musical Celebration 2025『Japan★Korea -The Echoes(エコーズ) -』」が東京都千代田区の三井大手町ホールで10月10・11日に開催されました。韓国からは話題作への抜擢が相次ぐキム・ソンソクさん。日本からは10日に加藤和樹さんとスペシャルゲストの彩風咲奈さん、11日には浦井健治さんとスペシャルゲストの濱田めぐみさんが参加しました。韓国のライジングスターと日本の最高峰のスターが共演を果たす特別なステージとなりました。
(写真右から)浦井健治さん、キム・ソンシクさん、MC/キム・テイさん10月11日は、マチネとソワレの2公演。マチネではソンシクさん、浦井さんが白系のジャケットを。ソワレではしっとりと大人っぽい黒系のジャケットを羽織って登場。リンクコーデが素敵です!
1曲目はミュージカル『ある男』から「暗闇の中へ」を日本語と韓国語でデュエット。同作は芥川賞作家の平野啓一郎さんの小説を原作とした日本発のオリジナルミュージカルで、今年8月に世界初演を迎えました。

浦井さんは同作で城戸章良を演じ、ソンシクさんは韓国で開催されたミュージカルの国際見本市でもうひとりの主人公である“ある男・X”としてこの楽曲を歌唱したというご縁があります。目をあわせてリズムをとりながら、みずみずしく、どこまでも広がっていくような伸びやかな歌声を重ねあわせます。抜群のスタイルと美貌を誇るおふたりだけに、少女コミックから抜け出したかのようなキラキラとしたツーショットに会場も思わずうっとりです。
浦井さんは興奮気味に「いきなりぶちかましました!負けないぞ!とアドリブも入れながら歌いました」と。さらに、ソンシクさんの過去の出演作品を紹介する写真がスクリーンに映し出されると「アンドレの軍服が似合う!すごいカッコいいね!」と目をキラキラ。


また、ソンシクさんから“ヒョン(お兄さん)”と呼ばれ、「弟ができた!『浦井お兄さん』です!」と無邪気(?)に喜ぶ様子がとてもほほえましかったです。ソンシクさんも「昨日のお兄さん(加藤さん)は『お兄さん…!』といったやさしく落ち着いた雰囲気の方でしたが、今日は自由でノリノリ、テンションの高いお兄さん。僕も一緒にテンションがあがってしまいます」と茶目っ気たっぷりに語ります。さらに椅子をクルーンと回して背後のスクリーンをニコニコしながら眺めるなど、リラックスした雰囲気。MCのキム・テイさんが「どこに飛んでいくかわからない自由なおふたりです」と突っ込むと会場も爆笑に包まれました。

お互いに縁のある「ある男」ですが、世界初演の舞台に立った浦井さんは「すごく大切なメッセージが込められた作品で、オリジナル作品ということもあり、立ち上げには試行錯誤を重ねました。以前、韓国の知人から『テハンノは様々な作品が生まれるクリエイティブな場所であることが自分たちの誇り』という話を聞いていたが、まさに『ある男』の稽古場はそのような創作の場で、みんなで作品を作り上げられたことは幸せでした。さらに今回、日本語と韓国語でソンシクさんと歌わせていただくなんて、最高です!」と熱い思いを披露しました。
ソンシクさんは「今回、お兄さんと一緒に歌わせていただいて、音楽もストーリーも素敵な作品だなと改めて思った。ぜひ韓国でも上演してほしい」。すかさず浦井さんが「ソンシクさんがやってください!」といえば、ソンシクさんも「浦井さんが演じられているものを韓国で見たいです!」と息ぴったりのやりとりをみせました。また、ソンシクさんがミュージカル見本市で歌われた、日本では小池徹平さん演じる“X”の楽曲「崩れ去る世界」をアカペラで少し披露する場面も。軽く歌っているのにこの歌唱力!さすがプロ!と改めて一流の俳優さんのすばらしさを実感しました。

続いて話題は『笑う男』へ。韓国発のオリジナルミュージカルに数多く出演している浦井さん。この作品でも、主役のグウィンプレンを演じました。フランク・ワイルドホーンが手掛けた楽曲も印象的な作品ですが、浦井さんは「ワイルドホーンの作品は難しく、体力勝負。僕はシングルキャストだったので、たくさん歌わせてもらって、もう愛でしかない…!」。ソンシクさんも「グウィンプレンは楽曲の難しさもあり、韓国の俳優が目標とする役。もちろん僕もです」と明かしました。
再びの歌唱コーナーでは、浦井さんは「『笑う男』といえばこの曲」と象徴的な一曲である「笑う男」、ソンシクさんは「この曲を嫌いな人はいないはず」と「みんなの世界」をと、同作からそれぞれの曲を選びました。
まずは浦井さんの「笑う男」。イントロが流れると、一気に作品の世界へ。浦井さんは数奇な運命を背負ったグウィンプレンを、ワイルドホーンならではの癖になるようなメロディにのせ、鬼気迫るようなすごみのある歌唱で表現します。一瞬で役を憑依させるかのような浦井さんの演技力、集中力に圧倒されてしまいます。
歌い終えた浦井さんとバトンタッチしたソンシクさんは颯爽と登場。さわやかに、朗々と自身の歌声をホールいっぱいに響かせます。こちらも思わず聞きほれてしまう、感動的な歌唱でした。
浦井さんはソンシクさんの歌唱を「世界が広がる。声の艶とはり、魂がゆらぐような表現力。もう最高!」と絶賛。「言語が違っても、心は一つなんだなと改めて思いました」と称えます。ソンシクさんも“浦井ヒョン(お兄さん) ”の歌唱に「ノム(とても)『スゴイ、カッコイイ』!」と日本語まじりで興奮。「先ほども言ったけれど、本当に難しい曲なんです。それをこんなにもかっこよく歌いこなせるなんて。僕もいつかこの曲を必ず歌えるようになりたいです!」。2つの才能同士のリスペクト、響きあいに、聴く側も胸が打たれるコメントでした。
続いては、スペシャルゲストの濱田めぐみさんの登場です!

「どうしましょう、日韓のイケメン、王子が共演されて。このあふれるオーラ!私もみなさんと同じように震えております~!」。太陽のように明るい濱田さんです。
濱田さんは、浦井さんと同じく2015年世界初演の「デスノート THE MUSICAL」のオリジナルキャスト。現在も稽古場で浦井さんと連日顔を合わせているといい、浦井さんと和気あいあいの「デスノート」トークを繰り広げます。「(初演は)もう10年前か~!」という浦井さん。

死神のレムを演じる濱田さんも初演の思い出を聞かれ「今でもそうなんですけど、『死神とは…!?』って。人間が死神を演じることについて、ずっと考えています。五感を超えたところでエネルギーを受け止めるようにすればいいんだって、今は思えるんですが…」。


そんな濱田さんのレムについて、浦井さんは「もうレムの話し方が憑依してるんです。そこにすっと立っているだけなのに、飲み込まれる、あるいは突き放されるような…」と見事な演じっぷりを称えます。濱田さんも「8年ぶりにレムを演じたら、勝手に身振り手振りが出てきて。もう染みついているんですね。体の片隅にレムがずっといた。『この8年間、レム、どこにいたの!?』と、自分でも驚きました」と語りました。
今回「憧れの役だった」というリュークを演じている浦井さんについては、濱田さんは「健治の引き出しの多さというか、いろんなことを稽古場で試していて。健治がこんなことを!と思うような面白いリューク。美しい見た目とのギャップが、バチッとはまっている。いろんなものが渦を巻いています!」と豊かなコメントで表現しました。

歌唱コーナーでは、まず同作から「哀れな人間」を浦井さんと濱田さんがデュエット。浦井さん演じるリュークと、濱田さん演じるレムの2人(?)の死神の登場シーンに歌われる曲です。浦井さんはリュークが乗り移ったかのよう。濱田さんも人間を超越した存在の持つ荘厳なたたずまいを、歌声と身振り、表情で表現します。あまりのおふたりの迫力に、先ほどまでの楽しいトークはどこへ!?と思わず驚いてしまいます。

濱田さんは続けてソロで「愚かな愛」を。死神であるはずのレムが、本来抱いてはいけない人間への無償の愛に目覚める壮大なナンバーです。神々しく、慈愛あふれる歌声と表情は、圧巻の一言。思わず涙ぐむお客様もいらっしゃったほどです。
歌終えた濱田さんに、ソンシクさんも「ウツクシイ!」と拍手!ソンシクさん、浦井さんに挟まれた濱田さんがまたまた「日韓の王子に挟まれて…」と照れれば、ソンシクさんも「日本の女神さま!」と返し、会場も笑いに包まれました。鬼気迫る歌唱と気さくなトークのギャップがたまりません!

『レ・ミゼラブル』で濱田さんはファンテーヌ、ソンシクさんはアンジョルラスを演じた経験があることから、アドリブで『レ・ミゼラブル』をイメージしておふたりで掛け合いで歌うシーンも。楽しくにぎやかな3人のトークとなりました。

最後の歌唱コーナーは3曲。
まずソンシクさんは「いつか出演したい作品」ということで、2曲をセレクト。1曲目の「君の夢の中で」(ミュージカル『フランケンシュタイン』)は、1番は日本語、2番と3番は韓国語で歌唱!なんと、前日同じ曲を加藤さんが歌われていたのを聞いて、「僕も1番くらいは日本語で歌いたい」とその場で日本語の歌詞をメモ。わずか1日で日本語歌唱を仕上げられたのです!「This is the Moment」(ミュージカル『ジキル&ハイド』)の後光がさすかのような堂々たる歌唱も素晴らしかったです。
浦井さんはご自身が出演された作品から、「私は立ち上がる」(ミュージカル『キングアーサー』)を披露。同作で主人公のアーサー王を演じた浦井さん。その甘く、けれど力強い歌声がエネルギッシュなリズムに乗って会場を包みます。思わず「ブラボー!」と叫びたくなるような歌唱でした。

感動の余韻が残る中、名残惜しくも、クロージングトークに。浦井さん、ソンシクさん、濱田さんは互いに「ケンジヒョン」「ソンシガ」「メグチャン」と呼び合い、すっかり意気投合の様子。
韓国発のオリジナルミュージカルに出演することが多い浦井さんは「国の垣根を越えていろんなことができるんだと可能性を感じました。次はぜひ、韓国でも共演できたら」。濱田さんは「めちゃめちゃ盛り上がってしまい、すみませんでした…。おふたりからパワーをもらえました!」と最後まで明るい濱田さんらしさ全開。ソンシクさんは「日本のミュージカル界の巨匠とご一緒できて、『シアワセヘッスムニダ』。日本で素晴らしいエネルギーをもらえ、僕自身もさらに頑張らなくては、と思いました。観客のみなさんにも感謝です!」と締めくくりました。

仲良くハートの形を手で作る3人。ロビーでは、韓国から駆け付けたファンが、日本のファンと交流する姿も。舞台も客席も、幸せな“エコー”が満ちた2日間でした。
終演後に皆さんで記念撮影! (左から)浦井健治さん、濱田めぐみさん、キム・テイさん、キム・ソンシクさん取材・文/塩塚 夢(産経新聞社)
撮影/吉原朱美
浦井健治(Kenji Urai )
東京都出身。
2000年『仮面ライダークウガ』(EX)で俳優デビュー。2004年『エリザベート』皇太子ルドルフ役に抜擢。以降、幅広いジャンルの作品に出演。第22回読売演劇大賞最優秀男優賞、第67回芸術選奨文部科学大臣演劇部門新人賞など数々の演劇賞を受賞。
韓国発ミュージカル作品にも縁が深く、ミュージカル『シャーロック ホームズ』〜アンダーソン家の秘密〜(2014年)、MUSICAL「笑う男 The Eternal Love-永遠の愛-」(2019年、2022年)、『メイビー、ハッピーエンディング』(2020年)など、数多くの作品で主演を重ねている。また、日本発オリジナルミュージカル『デスノート THE MUSICAL』のオリジナルキャストとして夜神 月を演じ大きな注目を集めた。
2025年8月~9月にミュージカル『ある男』に城戸章良役で出演、11月24日に開幕する『デスノート THE MUSICAL』にリューク役で出演する。2026年3月~4月ミュージカル『破果(パグァ)』にトゥ役で出演することが発表された。
キム・ソンシク(Kim Sungsik)
韓国ミュージカル界のライジングスターとして活躍中。2020年、韓国JTBCの音楽番組『ファントムシンガー』へ出演し最終決戦3位まで残り、認知度を上げる。その後、2022年に『マタ・ハリ』に出演。2023年にはEMK Entertainmentに所属となり、『レ・ミゼラブル』でアンジョルラス役で人気が急上昇、『ベンジャミン・バトン』で初主演を務める。2024年7月~10月『ベルサイユのばら』でアンドレ役で出演し、熱い視線を集めた。2024年12月~25年3月『マタ・ハリ』でアルマン役を務めた。2025年9月23日~12月7日まで『RED BOOK』ブラウン役で出演中。同年11月7日に開幕するMUSICAL『EVITA』にチェ役で出演する。
濱田めぐみ(Megumi Hamada)
福岡県出身。
1995年に劇団四季オーディションに合格。96年に『美女と野獣』のヒロイン、ベル役に大抜擢。2010年に退団。
第40回菊田一夫演劇賞、第66回文化庁芸術選奨演劇部門文部科学大臣賞、第24回読売演劇大賞優秀女優賞を受賞。
近年の主な出演作品に
【舞台】『メリー・ポピンズ』『レ・ミゼラブル』『ファインディング・ネバーランド』『スクール・オブ・ロック』『カムフロムアウェイ』『ビリー・エリオット〜リトル・ダンサー〜』『イリュージョニスト』など。
2025年8月~9月にミュージカル『ある男』に後藤美涼役で出演、11月24日に開幕する『デスノート THE MUSICAL』に死神レム役で出演する。2026年3月~5月にミュージカル『メリー・ポピンズ』にメリー・ポピンズ役で出演することが発表された。



