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INTERVIEW

ホリプロ・プロデューサー 井川荃芬さん▷「作品づくりに国籍は関係ない」

10月10日・11日に東京都千代田区の大手町三井ホールで開催されたミュージカルイベント『The Echoes』。近年、世界から注目を集める日韓のオリジナルミュージカルをテーマに、韓国のライジングスターであるキム・ソンシクさんと加藤和樹さん、浦井健治さん、スペシャルゲストとして彩風咲奈さん、濱田めぐみさんが出演。両国のミュージカルスターがトークと歌で交流を深めました。

このイベントでスポットをあてた作品を手掛けた両国のプロデューサーにそれぞれお話を伺いました。
日本からは、『デスノート THE MUSICAL』に初演から関わり、『ミセン』『ある男』など良質なオリジナルミュージカルを生み出すホリプロのプロデューサー、井川荃芬(かおる)さんにインタビューしました。

――今年初演から10周年を迎える『デスノート THE MUSICAL』は日本と韓国、さらにロンドンでもコンサート版が上演されるなど、ホリプロステージを代表するオリジナル作品ですね。初演から関わられていますが。

『デスノート THE MUSICAL』初演(2015年)公演より。
夜神 月:浦井健治、L:小池徹平 (C)大場つぐみ・小畑健/集英社

本作は弊社のプロデューサー、梶山裕三が立ち上げた企画です。2015年の初演時、私はアシスタントプロデューサーとして作品を担当し、2020年以降、プロデューサーとして引き継ぎ、海外ライセンスの窓口を担当しています。日本での初演と同年に韓国で上演を開始したときはレプリカ公演でしたが、3度目の上演からはローカライズされています。日本と韓国で表現が違い、それぞれの国でさらに作品が発展していっていることを実感します。

ちょうど、『デスノート THE MUSICAL』初演の前年に日本2.5次元ミュージカル協会も立ち上がり、まさに漫画原作のオリジナルミュージカル作品の創作が活発になっていったと感じています。本作が日本での上演のみならず海外での上演など大きく成長できているのは、やはり演出の栗山民也さんと組ませていただいたことも大きいのではないかと思います。原作を大切にということは大前提に、そこからさらに演劇として落とし込み、原作が持つ「正義とは何か」という大きなテーマを掘り下げました。楽曲の強さとストーリーライン、さらにもうひとつ、演劇、ミュージカルとして何をどう表現するのか、原作者様ともご相談を重ねながら台本を作り上げました。その普遍性のあるテーマがあるからこそ、海外でも受け入れられているのだと思います。今後も、お客様には劇場ならではの特別な体験をしていただける作品創りをしていきたいと思っています。

『デスノート THE MUSICAL』初演(2015年)公演より。夜神 月:浦井健治、レム:濱田めぐみ
(C)大場つぐみ・小畑健/集英社

――ホリプロステージは精力的にオリジナル作品をプロデュースしていますね。

コンテンツの輸出という海外戦略を拡大していきたいという思いがベースにあります。そのほか、オリジナル作品は日本側である程度柔軟にコントロールできるという良さを感じています。例えば、前述の『デスノート THE MUSICAL』では、コロナ禍にみなさんに元気を届けたいと、出演者が歌う動画をインターネット上で公開したりもしたのですが、これはまさにオリジナル作品だったからこそ柔軟な企画ができたと思います。

――今年8月に世界初演を迎えた芥川賞作家・平野啓一郎さんの小説を原作にしたオリジナルミュージカル『ある男』も素晴らしい作品でしたね。

ミュージカル化の情報を発表してから「ある男」をミュージカルに!?なるの?と言われることも多かったのですが、私としては「えっ、ミュージカルにならないの!?」と逆に驚いてしまって(笑)。亡くなった夫が、実は別の人間だった、という筋立てなのですが、登場人物の心の葛藤がすごくあるんですね。そういった心の中でうごめくものを歌にのせて届けることができる。さらに、主人公の城戸章良とXという二人が時空を越えて同じ空間に存在でき、歌があれば交錯できる。原作を拝読したとき、すごくミュージカルに向いている作品だと思いました。

ミュージカル『ある男』初演(2025年)舞台より。城戸章良:浦井健治、ある男・X:小池徹平
写真提供/ホリプロ 原作:平野啓一郎『ある男』(文春文庫/コルク)
※『ある男』舞台本編映像、10/27までUNEXTで配信中! 詳細は公式サイト

ジェイソン・ハウランドさんに音楽、瀬戸山美咲さんに脚本・演出、高橋知伽江さんに歌詞をお願いし、生きる上での“アイデンティティ”といったテーマや心情を深く掘り下げつつ、エンターテインメント性も兼ね備えた作品に仕上げていただきました。

来年1月に初演を迎える『白爪草』もスリリングで濃密な心の動きがある作品です。こちらは小規模な劇場で上演するのですが、きっかけとなったのは『スリル・ミー』です。2人のキャストと1台のピアノだけで繰り広げられる緊迫感に満ちた作品で、あえて小さな空間で俳優の息遣いまで感じ、糸をピンと張ったような緊張感をお客様と共有する、あの体験に強く心を惹かれました。こうした、演劇ならではの体験を再び創り出したいという思いがあります。

そうした中で、『白爪草』の原作の映像作品を見た時に、ワンシチュエーションでどんでん返しもあり、すごく演劇に向いていると感じました。お互いに言葉には出さないけれど感じているものがある。そこを歌にのせて表現できれば面白いなと。でも原作の独特の世界観も大切にしたかったので、あえてミュージカルの作曲家さんではないヒグチアイさんを音楽にお迎えしました。世界的に活躍されているシンガーソングライターの方ですが、ヒグチさんのお名前を聞いたときに、ピタッと歯車があった感じがしました。これまでのミュージカルにはない音楽が上がってきていてすごく素敵な世界観を創り上げてくださっています。今回は女性版ですが、ジェンダーを変えて男性版も上演できるようにしたいと思っています。双子、という設定からジェンダーを固定せずに上演できる可能性を感じたことも企画をした大きなポイントの一つです。

――今年2月に上演された『ミセン』では韓国のクリエイターとも一緒にお仕事をされました。

『ミセン』は韓国のWEBコミックを原作にしています。最初に読んだとき、作品に内包されるテーマがすごくいいなと思いました。私はいつも、お客様が観終わったあとに何かしらのエネルギーを持って帰っていただきたいと思いながら作品を作っていますが、この作品はまさにその想いを体現しています。学生や若者のお話というのは私が大好きな『ジェイミー』など多くの作品があると思うのですが、働く世代のお話というのはあまりないように思います。観客席には、自分と同じように働き、チケットを購入して劇場に足を運んでくださる方々がいます。そうした方々の背中を押すような物語を届けたいと考えました。

ミュージカル化にあたっては、『キングアーサー』でご一緒した韓国のクリエイター、オ・ルピナさんに演出をお願いし、ルピナさんとお話をしている中で音楽・脚本・歌詞も韓国のクリエイターさんで考えた時に、これも何か歯車が噛み合う感覚がありました。作品づくりには国籍は関係ない。それがエンターテイメントの力だと思っています。

最近は欧米のみならず、韓国や中国のプロデューサーの方々とお話をする機会も増えました。物の考え方だったり視点が似ている面もあれば、違うところもある。新しい気づきをいただくことが多いです。

――『The Echos』では韓国のライジングスター、キム・ソンシクさんと、日本の最高峰のベテラン俳優さんたちが共演しました。こうした俳優同士の交流についてはどのようにお感じになられていますか。

少し話がずれるかもしれないのですが、以前韓国のグローバルなミュージカル見本市である「K-Musical Market」で、キム・ソンシクさんに『ある男』の韓国語版の歌唱披露をしていただいたことがあるんです。もちろん言葉の違いもあるのですが、表現方法が異なることで新たな発見ができ、とても新鮮でした。同じ曲でも、エネルギー感が変わるんですね。韓国と日本、お互いのよさを俳優さん同士で感じあうことがすごくあるのではないかと思います。世代が違うということなど、俳優さん同士がお互いに刺激を受けることで、表現の幅が広がる。今後さらに、国の違いに関係なく作品にとって最良の座組を作ることができると、マーケットも広がっていく。今回のこのイベントが、もうひとつ次の段階にいく良いきっかけになればと思っています。

――世界中を飛び回っていて日々お忙しい井川さんですが、インプットはどのようにされていますか。

ライセンス作品もそうですが、オリジナル作品含め、なるべく多くの作品を観に行くようにしています。作品を観ているときが、一番アイデアなどがふと思い浮かぶんです。作品の制作に入って何か月もほかの作品を観られなくなると、「あ、ヤバい」と。アイデアが枯渇していくような危機感を覚える時があります(笑)。

――井川さんは、宣伝についても積極的です。作品への愛情がすごいですよね。

“良い作品”というのは人それぞれなので、何をもって良いとするかは難しいですが、まずは企画した自分が良いと感じることが大切だと思っています。そのため、意地でも『いい作品を作るぞ』という思いを、常に持ち続けています。特にゼロからイチを作る新作は面白さと同時にとても大変です。作品づくりには答えがないからこそ、迷路に迷い込むこともあります。だからこそ、プロデューサーが自信を持って歩み、道を照らせる存在でありたいと思っています。

取材・文/塩塚 夢(産経新聞社)

Stage Information

『デスノート THE MUSICAL』

原作:「DEATH NOTE」(原作:大場つぐみ 作画:小畑健 集英社 ジャンプコミックス刊)
作曲:フランク・ワイルドホーン
演出:栗山民也
歌詞:ジャック・マーフィー
脚本:アイヴァン・メンチェル

出演:
夜神月/加藤清史郎/渡邉 蒼(Wキャスト)
L/三浦宏規
弥海砂/鞘師里保
夜神粧裕/リコ(HUNNY BEE)
死神レム/濱田めぐみ
死神リューク/浦井健治
夜神総一郎/今井清隆

日程:
【東京】2025年11月24日~12月14日 東京建物ブリリアホール
【大阪】2025年12月20日~23日 SkyシアターMBS
【愛知】2026年1月10日~12日 愛知県芸術劇場 大ホール
【福岡】2026年1月17日18日 福岡市民ホール 大ホール
【岡山】2026年1月24日~25日 岡山芸術創造劇場 ハレノワ 大劇場

主催・企画制作:ホリプロ
会場:東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)

公演公式サイトはこちら

Story

成績優秀な高校生・夜神 月(やがみライト)(加藤清史郎/渡邉 蒼(ダブルキャスト)は、ある日、一冊のノートを拾う。ノートには、「このノートに名前を書かれた人間は40秒で死ぬ」と書かれていた。それは、死神リューク(浦井健治)が退屈しのぎに地上に落とした“死のノート”(デスノート)。犯罪者を裁ききれない法律に、限界を感じていたライトは、ある日、テレビで幼稚園に立てこもる誘拐犯の名前をデスノートに書いてみる。すると、誘拐犯は突然、心臓発作で息絶えた。「自分こそが神に選ばれ、犯罪者のいない世界を創る“新世界の神”だ」と、ライトはデスノートを使い、犯罪者の粛清を始めていく。世界中で犯罪者が不可解な死を遂げていく事件が相次ぐ中、インターネット上ではその犯人を「キラ」と呼び、称賛しはじめる。犯罪の数が激減する中、警察は犯人の手掛かりさえつかめないでいた。そこへ、これまであらゆる難事件を解決してきた謎の名探偵L(エル)(三浦宏規)が事件を解決すべく、捜査を開始する。

※公式HPより引用

Stage Information

ミュージカル『白爪草』

原案:映画「白爪草」
音楽・歌詞:ヒグチアイ
脚本・歌詞原案:福田響志
演出:元吉庸泰

出演:屋比久知奈 / 唯月ふうか (五十音順)
声の出演:安蘭けい

日程:2026年1月8日(木)~1月22日(木)
会場:神奈川県 SUPERNOVA KAWASAKI

主催・企画制作:ホリプロ

公演公式サイトはこちら

Story

「その人生、私にちょうだい」
花屋で働く静かな日常の中、蒼(屋比久知奈)は“ある人物”を迎える準備をしていた。
6年前、母を殺した姉・紅(唯月ふうか)。
――決して避けては通れない過去。
長い沈黙の果てに訪れた再会の夜、姉が語り出す真実と一つの“提案”。
「人生を、入れ替えよう」
揺れる記憶、歪む愛情、絡まる罪と赦し。
双子の姉妹が、一夜で“すべて”を交わす――

二人が紡ぐ濃密なワンシチュエーションでの密室ミュージカルが、あなたの心を撃ち抜く。

※公式HPより引用

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