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INTERVIEW

【Special対談】KAIさん×石井一彰さん▷日韓の『レ・ミゼラブル』でジャベールを演じたお二人の対談が実現!

これまでも「マチ★ソワ」にたびたび登場してくださった、韓国を代表するミュージカル俳優のひとり、KAIさん。圧倒的な歌唱力で日本にもファンが多いKAIさんですが、7月23日に日本で初めてミュージカル曲をデジタル配信されました! 年末には、日本語版楽曲も収めた「ミュージカルアルバム」のリリースに向けて準備をしているそうです。今回、リリースをお祝いして日韓の『レ・ミゼラブル』でそれぞれ同じ役(ジャベール役)を演じた石井一彰さんとの対談が実現! KAIさんを心から尊敬しているという石井さんは、緊張しながらもたくさんの質問をしてくださり、『レ・ミゼラブル』の話題はもちろん、ミュージカル談義に花が咲きました。おふたりのミュージカルへの深い思いが詰まった対談の様子をお届けします。

――KAIさんと石井さんがこうして実際に会われるのは初めてですね。お互いの第一印象を教えてください。

KAIさん(以下、KAI) とてもかっこよくて、ハンサムですね!

石井一彰さん(以下、石井) KAIさんは、自分がずっと憧れていた方。最初は、KAIさんが歌われているミュージカル『フランケンシュタイン』の楽曲「君の夢の中で」の動画を拝見して、うまいという言葉以上の言葉で表現できればと思うほど、感動してしまったんです。いまでもその時の衝撃は覚えています。それから他の動画もたくさん拝見して、日本で開催されたコンサートも観に行きましたし、数年前、KAIさんがタイトルロールを演じられたミュージカル『ファントム』も韓国に観に行きました。KAIさんと同じボイストレーナーの先生にも教わっています。ですので、こうして対談させていただけるということ、本当に感謝しています。

――石井さんは韓国によく行かれているんですね。

石井 はい、韓国へは刺激をもらいに行っています。ミュージカルを観たり、ご飯を食べたり…。『ファントム』(2025年)もKAIさんの出演回ではなかったのですが、とても素晴らしかったです。韓国でキャリアを積まれる日本出身のアーティストも増えてきましたよね。例えば、ミュージカル『レ・ミゼラブル』で共演した俳優のルミーナさん。彼女が子役時代にもご一緒したことがあるのですが、韓国ミュージカル界での活躍を経て、ますます成長されたという印象を持ちました。日本の俳優にとって、韓国のミュージカルはとてもよい刺激をもらえると思います。

――お二人は、日韓それぞれのミュージカル『レ・ミゼラブル』で同じジャベール役を演じられていますね。KAIさんは2024年3月から、石井さんは同じ年の12月からの公演でした。

石井 すでに自分も出演が決まっていたので、大邱(テグ)での公演を観に行きました。KAIさんのジャベールに圧倒され、これが自分にできるのか、自分もこのようにお客さまの心を動かすことができるのかと思ってしまいました。

(写真左)ジャベール/KAIさん
Les Miserables-(C) Les Miserables KOREA

KAI 韓国では多くのお客さまに、ジャベールは悪役という先入観をもたれているようです。私も最初は悪役のように受け止めていたのですが、台本を読み込んでみると、この人は誰よりも信念に忠実で、優しい人なんだと分かるようになりました。犯人を捕まえようとする悪人のキャラクターではなく、自分の信念を守ろうとする、強いけれど弱い人間なのだということを表現したかったんです。

Les Miserables-(C) Les Miserables KOREA

石井 KAIさんは役を引きずってしまうタイプですか? 以前、別の作品『ベートーヴェン』を観たときに、あれだけ歌って、心をすり減らして……ですが、終演後のファンのみなさんへのご挨拶ではとてもさわやかな表情でいらっしゃいました。その切り替えがすごいと思ったんです。

KAI 石井さんは俳優としてのキャリアの先輩でいらっしゃるので共感していただける部分も多いのではと思うのですが、若い時は舞台で演じた役の気持ちを心に持ってそのまま生活していくことが俳優として素晴らしいことだと思っていました。特に韓国の『フランケンシュタイン』の場合、稽古から公演まで6か月もあるので、そのように長い時間、その気持ちを持ったまま生活するのは、生活が崩れるような気がしてすごく大変でした。

ですが、数年くらい前からでしょうか……。そのような役を生活の中へも持ち込むやり方はあまり効率的ではないと気が付き、舞台に上がるその瞬間に集中するのが一番良いと思うようになりました。集中力を身に着けることで、個人的にも、俳優としても、より良い結果を得られるようになったと思います。

石井 カムサハムニダ。ジャベールは孤独な役なので精神的なダメージを受ける方もいるのではないかと思うのですが、僕もできるだけ本番に集中し、舞台から降りるとおいしいご飯を食べたりと、いい息抜きをするようにしていました。2024年12月からの東京公演は、帝国劇場が閉館する前の最後のミュージカル作品だったということもあり、プレッシャーをすごく感じていました。地方公演が始まって、その土地のおいしいごはんを食べたりして、楽しく、気持ちよく舞台に立てるようになってきましたね。

――日本の観客にとっても『レ・ミゼラブル』は絶大なる人気があり、期待が大きい特別な作品です。石井さんはジャベールを演じるにあたり、どのような点を大事にされましたか?

石井 ジャベールを演じるにあたり、実は、KAIさんに大きく影響を受けました。大邱でKAIさんのジャベールを観たときに悪者という感じが一切しなくて、自分もこういう風に演じたいとイメージがかたまったんです。

(左)ジャベール役/石井一彰さん
写真提供/東宝演劇部

――“石井ジャベール”は“KAIジャベール”のDNAを引き継いでいるのですね。

KAI そのように思っていただいて嬉しいです。ジャベールは当代で一番のハンサム・美男子がやるものなので…(笑)。石井さんはぴったりですよね。
ところで、僕も石井さんに質問があるのですが、韓国と日本のミュージカルの差や違いについてどのように考えていらっしゃいますか?

石井 日韓それぞれにいいところがありますが、やはり僕が思うのは韓国の俳優さんたちの歌唱力のすばらしさですね。それは初めてKAIさんの歌声を聞いた時の衝撃に通ずるところでもあります。歌うということに関しての強い意志を感じます。

ルミーナさんから聞いたのですが、現場でも、歌について俳優同士が議論をするのが韓国だと。韓国のミュージカルを観て、刺激を受けない人はいないと思います。今、日本の俳優が韓国へ歌を習いに行く流れができていますが、一人ずつの能力を底上げすることで、日本ミュージカル界のレベルアップにつながればと、一個人としては思います。

――石井さんのミュージカルへの真摯な思いが伝わるコメントですね。ところで最近、うれしいニュースがありました。KAIさんがミュージカル『ベートーヴェン』から「愛こそ残酷ーLOVE IS CRUELー」を7月23日にデジタル配信でリリースされました! 日本でのリリースは“初”なんですね。しかも日本語で歌唱されています。この曲を選んだ理由を教えてください。

7月23日、TOKUMA JAPAN COMMUNICATIONSからデジタル配信としてリリース。購入・詳細はミュージックストア「OTOTOY」へ。

KAI 個人的にベートーヴェンという作曲家とその人生を描いたこのミュージカル作品が大好きです。日本語は母国語ではないので、僕自身の言葉のように表現できないかもしれないし、伝わらないかもしれないけれど、単語をひとつひとつ調べたら同じ意味だけれど韓国語よりも哀切な感情・気持ちがこもっているような気がしたんですよね。この歌なら日本のお客さまや聴いてくださる方とその感動を共有できると思ったんです。

Beethoven-(C) EMK Musical Company
Beethoven-(C) EMK Musical Company

――日本語の意味をきちんと調べられたのですね。

KAI もし韓国で出すアルバムだったら、この歌は選ばなかったかもしれないです。なぜなら韓国の方はパワフルな歌をより好まれる印象があるので (笑)。僕の個人的な印象にはなりますが、日本のお客さまの方が静かで繊細な音楽を好まれるし、そういう曲に感動してくださるので、日本のみなさまが共感してくださると思って選びました。

石井 お客さまがどういう風に受け取られるか、どんなものが好きかまでお心を配っていらっしゃるのですね。KAIさんのお話を聞いて、新鮮な感じがしました。日本のお客さまが静かで優しく繊細な曲を好まれるというのは、確かにその通りだと思います。まさにKAIさんの歌い方は本当に繊細で素晴らしいです!

KAI 実は、最初は大きくてパワフルな歌い方をしていたんですが、経験を積んでいくうちに、どんな歌を歌ったらお客さまが共感し、感動してくださるか、また、共演の俳優さんとハーモニーを作ることができるのか考えるようになりました。ミュージカル俳優という職業は、この1回の舞台を観てくださるお客さまのために、幕が開いてから最後まで、同じコンディションを保つことが大事なんだと気づきました。

僕は、後輩たちに『北風と太陽』の話をよくします。北風と太陽が、どちらが先に旅人のマントを脱がせるか競争をするという有名なイソップ寓話です。北風は力任せに風を吹き付けますが、旅人はマントをしっかり押さえて脱ごうとしない。対する太陽が暖かい光で包むと、旅人は自らマントを脱ぎます。僕は、歌や、みんなとの関係性も、このお話のようだと思っているんです。

「人の心を動かすのは、大きい声ではなくて小さい声なんだ」といつもボイストレーナーの先生がおっしゃっているのですが、その言葉をいつも忘れないようにしています。デュエットのときも一緒に歌う相手に勝とうとするのではなく、負けてあげるというか……そっと心を寄り添うようにするんです。これは戦いではないので。

石井 沁みますね……。『レ・ミゼラブル』で、ジャベールがジャン・バルジャンと病院で対決するシーンで、(演出家の)クリスさんが「この場面は確かに戦いではあるが、相手のことをきちんと意識して」とおっしゃっていたんです。その言葉を思い出しました。相手のことを考えて演じることが大事なのだと、お話を伺って、改めて思いましたね。

KAI 演じている瞬間は負けているような気がするのですが、あとから録画や録音したものを聞くとよりパワフルで素晴らしく感じるんです。

石井 人生とは、生きるとはこういうことなんだ、という感じがしますね。

――石井さんは、『SMOKE』『シデレウス』『#チャミ』など多くの韓国発ミュージカルに出演されています。出演者としてのお立場からは、韓国発ミュージカルの魅力はどのようなところだと思われますか。

石井 やはり、なんといっても音楽ですね。韓国のオリジナル作品を創るパワー、特に楽曲がすごいと思います。

KAI 最近思うのですが、韓国は流行りに対して敏感で、いつも新しいものを追求していくという感性の鋭敏さがある。常に変化を求めているような気がします。一方、日本は、時間をかけることを厭わずに、丁寧に一歩ずつしっかりと進んで、積み重ねていくところがある。ミュージカルだけでなく、建築やスポーツなどを見てもそれぞれの違いをそのように感じることがあります。日本の俳優の皆さんの努力する姿を見て、基本に忠実なところ、それを忘れないようにしようと、いつも見習っているんです。長い目で見たとき、そのような努力して積み重ねていく姿勢は、日本の素晴らしい点だと思います。

石井 気づかされますね。

KAI 実は今、僕は大学で教鞭をとっているのですが、いつも学生の皆さんに機会があれば日本に留学に行きなさいと言っているんです。日本は、文化や美へのまなざしや、全体のシステムがしっかりしているので、すごくリスペクトしているんです。

――日本の文化について韓国の学生の方にご紹介いただき有難うございます。話は変わりますが……KAIさん、もし石井さんがまた韓国に行かれたら、どこを紹介したいと思われますか?

KAI (かなり悩む…)うーん……韓国の美しくていいところはたくさんあるんですが、石井さんにとって役に立つところはどんなところだろうと思うと難しいです。一つ選ぶとしたら韓国にある美術館に、ご一緒したいですね。ソウルの北部に、三清洞(サムチョンドン)という街があって、美術館やギャラリーが多いので1人でよく行くんです。アートを観ていると、そこで舞台に繋がるインスピレーションを受けるような気がして……。またK-POPアイドルのコンサートに行くのもいいと思います。ステージに立つときの自信とか、あのパフォーマンスをするためにどれだけの練習や稽古をしたのかとか。すごく多くのインスピレーションやエネルギーをもらえます。

――素敵なご提案をありがとうございます! では、石井さんは、KAIさんに日本を紹介するなら……?

石井 京都ですね。僕は10年くらい『科捜研の女』という京都で撮影を行っているシリーズもののサスペンスドラマに出演しているので……。特に夏の京都はいいです。何か起きそうな感じがして(笑)。京都に行かれたことはありますか?

KAI はい、あります。ただ一度しかないので……。

石井 観光名所ではなくても、ちょっとした小径などもいいですよ。ぜひ、今度ご案内したいです。

KAI とても楽しみです! 今回のご縁がこれからも続くことを祈っています。

 

構成・文/塩塚 夢(産経新聞社)
通訳/キム・テイ
撮影/齋藤ジン
ヘア&メイク/米尾太一(untitled.)


【対談後記】
お二人の初対談が実現した後…石井さん! なんと…KAIさんが出演される『ファントム』公演を観劇したい!と熱い思いがみなぎり、急きょ、渡韓された!!とご報告を受けました。そして 『ファントム』ご観劇後、KAIさんと撮影されたツーショットをマチ★ソワにも送っていただきました。素敵な笑顔ですね。カムサハムニダ、ありがとうございます!!



KAI

ミュージカル俳優、クロスオーバーミュージシャン(アーティスト)。
韓国を代表するミュージカル俳優。安定した歌唱力と演技力で多くの観客を魅了する。
ソウル大学大学院生学科修士課程修了。2008年、オペラとポップスを融合させたクロスオーバー歌手としてデビュー。以後、ミュージカルへと活動の幅を広げ、ライセンス作品はもちろん韓国オリジナルミュージカルまで多様な作品に出演している。
近年のミュージカル出演は、『ファントム』(2025)ファントム、『フランケンシュタイン』(2024)アンリ・デュプレ/怪物、『レ・ミゼラブル』(2023-2024)ジャベール、『ベートーヴェン』(2023)ベートーヴェン、『ジキル&ハイド』(2022)ジキル/ハイド。
2025年7月23日にミュージカル『ベートーヴェン』から「愛こそ残酷~LOVE IS CRUEL~」を日本で初めてデジタルリリースし、今年末には、ミュージカルアルバム発売に向けて準備している。

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石井一彰(ISHII KAZUAKI)

東京都出身。学習院大学卒業、東宝ミュージカルアカデミー1期生。2007年ミュージカル『レ・ミゼラブル』でデビュー。15年に「科捜研の女」でテレビドラマ初レギュラー出演を果たすなど、舞台を中心にTVや映画などでも活躍中。近年の主な出演作に、舞台:『SMOKE』、『ダーウィン・ヤング 悪の起源』、『ラヴ・レターズ~2023 Spring Special~』、映画:「邪魚隊/ジャッコタイ」、「フレイル」、「科捜研の女 -劇場版-」、TV:「忍者に結婚は難しい」(CX)、「十三人の刺客」(NHK) 、「科捜研の女」シリーズ(EX)など。ミュージカル『レ・ミゼラブル』(2024年12月~25年6月)で初のジャベール役を演じ、大きな注目を集めた。
10月2日(木)スタートのBS-TBS木曜ドラマ23「御社の乱れ正します2」1~3話に出演。

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Stage Information

『ハプスブルク大公来日記念講演&ウィーンミュージカルコンサート』

オーストリア最後の皇帝、フランツ・ヨーゼフ1世と皇妃エリザベート、その2人の直系の曾孫ゲーザ・フォン・ハプスブルク大公によって語られる一族の物語。

日時:2025年10月11日(土) 18:00開演
会場:福岡シンフォニーホール(福岡県福岡市中央区天神1丁目)
料金:S席12,500円、A席10,500円、B席 8,500円 ※未就学児入場不可
内容:【第一部】ゲーザ・フォン・ハプスブルク大公 講演 
出演:ゲーザ・フォン・ハプスブルク大公
※同時通訳あり。お手持ちのスマートフォンとイヤフォンでお聞きいただけます
【第二部】ウィーンミュージカルコンサート
出演:剣幸、石井一彰、小野田龍之介、屋比久知奈、コーラスアンサンブル(公募によるオーディション合格者)
演奏:ワン・ヴォイス・オーケストラ
指揮:若林裕治
主催:ハプスブルク大公来日記念講演 実行委員会

公演公式サイトはこちら

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