大ヒット・ブロードウェー・ミュージカルで、日本では2007年に劇団四季が初演した『ウィキッド』の映画化。ブロードウェー主要スタッフも参加し、これは控えめに言ってもミュージカル映画の傑作だろう。
内容は、誰もが知る米児童書「オズの魔法使い」の前日譚。ドロシーが竜巻によって飼い犬のトトとともに「オズの国」へ飛ばされる以前の、悪い魔女と善い魔女の〝真実〟の過去を描く。
前後編の大長編だ。この前編では、後に悪い魔女と呼ばれるエルファバが魔力に目覚め、ほうきを手に空高く飛び去るまでを描く。
エルファバを演じるのは英国出身の俳優で歌手、シンシア・エリヴォ。
エルファバは、生まれながらにして肌の色が緑色で、周囲から差別を受け家族にもうとまれる。

マイノリティー。エルファバの存在は、「オズの魔法使い」という古典作から派生した世界を一気に今日的なものへと変える。
誠実に正しく生きようとするエルファバだが、その力を悪用しようとする勢力によって運命を大きく変えられる。
その親友で、後に善い魔女となるグリンダを米国の大人気歌手、アリアナ・グランデが演じる。

グリンダはブロンドの美人。経済的にも恵まれ誰からも愛されている。
社会の理不尽に決然と立ち向かうエルファバ。愛されて育ったがゆえに打算がなく素直なグリンダは、やがて無二の親友となる。
後に善と悪に分かれるが、実は2人は親友だったという前日譚は、ハリウッド映画ではありがちの設定だが、グランデがグリンダを底抜けに明るく演じ、これによりエリヴォのエルファバの強さ、正しさが際立っていく。すばらしく絶妙なコンビネーションとなるのは、キャスティングの妙もあるはずだ。



そしてこの映画、やはり、なんといっても歌がいい。大ヒットミュージカルなんだから当然なのだが、それだけではない。
エルファバが「私は重力に逆らって高く飛ぶ」と絶唱するクライマックスの場面を見てほしい。特撮を駆使したこの場面には、歌と映像の組み合わせ、すなわち映画でしか味わえない高揚感があり、痛快さがあり、切なさがあり、苦しさもあり、何よりも大きな感動がある。
この場面だけで、人気ミュージカル舞台をあえて映画で見る意味や価値がある。
そして、高く高く飛ぶエリヴォによるすばらしい歌声と、これを支えるアンサンブルによる大合唱のすばらしい響きの中で、映画は突然、終わる。
そう。ここで1幕が終わる。3時間弱もある映画だが、あっという間だ。次に幕が開くのは、すなわち後編の公開は11月(日本は未定)。なんて長い幕あい。
後編は、グリンダがいかにして善い魔女になるかを描くそうだ。ドロシーたちは、どう絡んでくるのか。エルファバはどうなるのか。
監督は、「クレイジー・リッチ!」や「イン・ザ・ハイツ」のジョン・M・チュウ。


3月7日から全国公開。2時間41分。
文/石井 健(産経新聞社)
Information
『ウィキッド ふたりの魔女』
2025年3月7日(金)より
全国ロードショー

出演:シンシア・エリヴォ、アリアナ・グランデ、ジョナサン・ベイリー、イーサン・スレイター、ボーウェン・ヤン、ピーター・ディンクレイジ with ミシェル・ヨー and ジェフ・ゴールドブラム
監督:ジョン・M・チュウ(『クレイジー・リッチ!』『イン・ザ・ハイツ』)
製作:マーク・プラット(『ラ・ラ・ランド』『リトル・マーメイド』)、デイヴィッド・ストーン(「ウィキッド」)
脚本:ウィニー・ホルツマン
原作:ミュージカル劇「ウィキッド」/作詞・作曲:スティーヴン・シュワルツ、脚本:ウィニー・ホルツマン
配給:東宝東和