オフ・ブロードウェイミュージカル『The Last 5 Years』に花乃まりあさんが出演されます。
駆け出しの女優キャシーと新進気鋭の作家ジェイミーが恋に落ち、別れるまでの5年間の物語。キャシーは結婚生活の終わりから出会いまで遡って、ジェイミーは出会いから別れまでを時系列順に語ります。
花乃さんにとって初の二人芝居出演となる本作への意気込みを伺いました。また、『エリザベート TAKARAZUKA25周年 スペシャル・ガラ・コンサート』にエリザベート役でご出演されたことで感じた変化もお聞きしました。
「この人が恋愛したらこうなるね」と透けて見える作品になりそう
――『The Last 5 Years』をご覧になったことはありますか?
出演のお話をいただいてから、映画版を観ました。男女の時間軸が逆行するらしいということしか知らないで観たのですが、二人の結末から物語が始まっているのに「なぜこうなったんだろう」と次が気になって仕方ない。ごくありふれた男女の話でもずっと観ていたくなるのは、リアリティを感じるからなのかも。たとえば、カフェで友達とお喋りしていて「実は彼と別れたんだよね」と聞いたら「何があったの?」「でも、以前はそうじゃなかったんでしょう?」と話が遡っていくみたいな感覚。自分が演じることも忘れて見入ってしまいました。
――実際に台本を手にされて感じたことは?
これは大変なことになったぞと(笑)。俳優としてチャレンジしたいと思わせる作品で、演じ切ることができたら充実感があるだろうと思いますが、とにかく大変だなと思いました。
――大変だと思うところはどういうところですか。
まず、台詞がほとんどなくて音楽だけで進めていくということ。ジェイソン・ロバート・ブラウンさんの音楽の美しさを伝えることと、言葉一つ一つで物語を伝えることを両立させるのが難しいかなと感じています。それにこの作品は劇的なことが起きるというよりは、誰にでも起こりうるドラマが描かれている。二人芝居で、男女二人に起こったドラマを伝えるという意味では、自分自身の考え方や感じ方をどう滲ませるかが課題だなと思っていて。何か役を演じるときはあまり自分を引きずらない方がいいかもしれませんが、今回は3ペアでの上演ですし、自分を投影することで面白くなる部分があると思います。
――花乃さんがキャシーに投影できるところがありそう?
いっぱいあります! キャシーはよく怒っているのですが、その気持ちもわかるし(笑)。キャシーが俳優としてなかなか芽が出ないで苦労している様子は、私が宝塚の下級生の頃に「もっと頑張りたい、もっとできるはず」と自分を信じたいと思うのに挫折しそうになる気持ちと重なります。それに、自分の夢や目標を叶えるために頑張りたいけれど、女性として幸せにもなりたいとも思う葛藤もわかるなって。私だけでなく、お客様一人一人が共感できるのではないかなと思いますね。
――では、花乃さんから見たジェイミーは?
正直言って映画で観たとき、ジェイミーに全然共感できなかったんです(笑)。でも、台本をずっと読むうちに自分の大切な人がくすぶっている様子を見るのがつらくて逃げだしたくなる彼の気持ちもわかるなと思ったんです。ジェイミーって女性から見ても共感できるんだということに最近気づき始めました。
――花乃さんが宝塚歌劇団を退団されて以来、今回が初めてのラブストーリーですね。
『フローズン・ビーチ』で同性愛の女性の役を演じましたが、男女の物語でラブストーリーと名がつく作品は今回が初めてです。でも、宝塚では恋の物語はたくさん演じてきましたので、初めてだからといってあまり気負わずに行きたいなと思います。ジェイミー役の平間さんとはビジュアル撮影のとき初めてお会いして、とても穏やかな方だなあと思って。繊細に芝居を作られる方だと思うので、ご一緒するのが楽しみです。
――キャシーは、ジェイミーとの別れから二人の恋の始まりまで、時間を遡って演じます。
そこが稽古をしていくうえで一番難しいと感じるポイントになりそうです。物語のつながりというよりは、シーンごとに別の出来事として体感して、瞬発的な感覚で演じることになるのかなと思います。特に作品の冒頭で描かれるキャシーが二人の別離のときなので、いきなり感情のクライマックスから始まる。そこでどうお客様を引き込んでいくかがとても大切だなと思います。
――今回は花乃さんと平間さんペアのほかに、村川絵梨さんと木村達成さん、昆夏美さんと水田航生さんという3組のペアでの上演です。まったく違う3ペアになりそうですね。
そうだと思います。描いている事柄がリアルなので、「この人が恋愛したらこうなるね」というのが透けて見えてしまうと思うんです。演じる側としては怖い部分でもありますが、そこが面白さにつながると思うので。演出家の小林(香)さんがペアに合わせて演出を変えるところもあるかもしれません。小林さんは「平間さんと花乃さんは、お互いの持ち味が全然違うので、それが面白さを生み出しそう」というコメントを寄せてくださったので、どんな演出をつけてくださるか、とても楽しみです。
――花乃さんが期待していることは?
今はまだ一人で曲と戦っている段階なのですが、稽古が始まって平間さんと合わせたら自分がどう感じるのだろうと思っていて。お互いに想いを受け取り合ってどう変化していくのか、稽古場で発見していきたいです。作品としても、男女の関係がとてもリアルに描かれているのに、時間が逆行するというファンタジーが一緒になっているというのが演劇的だなと思います。いろいろな見方ができる作品で、男女でも受け取り方が違うかもしれない。お客様の感想を聞くのがとても楽しみです。
一回一回の公演が行われるのが奇跡だと改めて感じました
――さて話変わりまして、最近の花乃さんを振り返りますと『エリザベート TAKARAZUKA25周年 スペシャル・ガラ・コンサート』の「フルコスチュームバージョン‘14花組ver.」で、エリザベート役で出演されましたね。
本当に夢のような3日間でした。チャレンジするまでにはいろいろと葛藤もありましたし、実際に稽古が始まってからも、毎日が必死。でも、実際に幕が開いたらお客様がこんなにも私たちの再会を喜んでくださるんだということが本当に嬉しくて、終演後は毎回涙が溢れてきました。「故郷っていいな」と思いましたね。私が千穐楽を迎えた翌日に緊急事態宣言が発令され、28日以降の公演は中止。無観客ライブ配信が行われました。一回一回の公演が行われるのが奇跡だと改めて感じました。
――先ほど、『The Last 5 Years』のキャシーが宝塚の下級生時代のご自分と重なるという話をされていましたが、今回下級生の頃に演じていたエリザベート役に再び挑んでみていかがでしたか?
7年前に演じたときは年齢的にも若かったし、作品の理解も全然違ったので、年を重ねるごとに深みを増していく作品だなと思います。7年前と比べてほんの少しでも成長したと思っていただけたらと思って、歌の稽古も地道に頑張りました。
今回は、明日海りおさんとご一緒するということが大きくて(注・2015年1月2017年2月、明日海さんと花組トップコンビを組む。花乃さんは2014年花組新人公演でエリザベートを演じたので、明日海さんのトート役と組むのは今回が初めて)。明日海さんとご一緒することが一番の緊張であり、一番の安心でもありました。目が合っただけでお互いのコンディションや感じていることがわかる感覚がとても懐かしくて。(本公演としては)初めての作品に出演するということで怖さもありましたが、稽古場で明日海さんと対面すると怖さはなくなり、作品に集中することができました。私にとって明日海さんは特別の存在なんだと再確認できました。
――エリザベートを演じたことで感じた変化はありましたか?
実は、エリザベートを演じると腹をくくるまでにすごく時間がかかったんです。私は宝塚を卒業して5年目に突入しましたが、この5年でいろいろな経験をしてきたから、思い切って『エリザベート』に飛び込んでいけた気がします。『エリザベート』に出演すると決めた頃に『The Last 5 Years』の話をいただいたのですが、これだけのすごい作品を演じるというのは、以前の私だったらもしかしたら「無理」と思ったかもしれない。これまでの経験があり、新しいものに飛び込むという流れがあって、今『The Last 5 Years』に向かい合えている気がします。
――最後にメッセージをお願いします。
このようなご時世ですが、芸術やエンターテインメントは生きるためにとても必要なものだなと改めて感じています。これからも皆さんにとって生きる喜びになる作品を担っていけるように一生懸命頑張りたいなと思っています。この作品でいろいろなことを感じていただけたら嬉しいです。
取材・文/大原 薫(演劇ライター)
撮影/吉原朱美
スタイリスト&ヘアメイク/KOBA(PUNCH)
衣裳/ワンピース:ADELLY、靴:ダイアナ
花乃まりあ(Kano Maria)
1992年生まれ。東京都出身。2010年、宝塚歌劇団に96期生として入団。宙組に配属。2014年花組へ組替え後、 『エリザベート』で新人公演でエリザベート役を務める。2015年1月花組トップ娘役就任。第2回台湾公演『ベルサイユのばら/宝塚幻想曲』でマリー・アントワネットを務めた。代表作は、『ME AND MY GIRL』のサリー・スミス、『金色の砂漠』のタルハーミネなど。2017年2月宝塚歌劇団を退団。退団後は女優、レポーターとして幅広く活動している。
Stage Information
オフ・ブロードウェイミュージカル『The Last 5 Years』
作詞作曲・脚本:ジェイソン・ロバート・ブラウン
演出:小林香
出演:村川絵梨 × 木村達成、花乃まりあ × 平間壮一、昆夏美 × 水田航生
【東京公演】2021年6月28日(月)〜7月18日(日)オルタナティブシアター
【大阪公演】2021年7月22日(木・祝)~7月25日(日)COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール
主催:アミューズ/シーエイティプロデュース
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